【桃】逆プラ2019お気に入り

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ノート

平成八年生肉之年

ここは老舗デパート、マルコシモール。日曜の人がごったがえす屋上遊園地で、長野県警の威信をかけた大捕物が行われていた!!

「松尾クンッ!あすこだッ!」

 平岡警部が、指さすと浴衣の男が雑踏をすり抜けていった。

「待てェッ!」

 松尾刑事が駆ける。しかし署内一の健脚も、人混みには太刀打ちできず。たちまち後姿が遠のき、このまま逃してしまうのか、と思ったその時だった。

「ええぃ!どいたぁ!」

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出動! 中高年戦隊「ジェントルマン」

「ということで、よろしいでしょうか?」
 その男は、ホワイトボードマーカーのキャップを閉めつつ、問いかけた。男の前には、パイプ椅子に腰掛けたまま唖然としている三人がいる。
「よろしいもなにも、もう決まっちゃったんですよね」
「いえいえ、みなさんの同意がなければ決まりません」
「私らに、反対する権利はあるんですか?」
「んー」
 男は顎に手を当てて、二秒だけ考えた。
「ないですね」
「ですよね」

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その男チャーリイ

だいたい、チャーリイってやつについて町の連中みんなが言ってることときたら、てんで、ばらばらだった。

かんかん照りの暑い日に、帽子もなしでやってきた。からっからに乾いた風のなかを、よろめくみたいに歩いてた。ジョージの店にころがりこんで、ケニーのピアノをこきおろした。教会のオルガン弾きも、やつを見るなり逃げ出すしまつ――。

それもそのはず。

ほんとのとこ、チャーリイがどこの生まれの何者なのか、知

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ハイ ・ ライト

1.独白

「はい、全てお話します。お話しますとも。
その前に煙草を吸ってもいいでしょうか。ありがとうございます。いえ、まだほんの1,2年です。
さて、どこから話しましょう。そうですね、彼女と出会ったのは2年程むかしのことでした。ええ、おっしゃる通り彼女の影響です。珍しくもないでしょう?
私は彼女を愛していましたし、彼女も私を愛してくれていました。それだけが私たちにとって信じられるもので、それだけ

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エスコートの流儀

ワンコールで繋がった。男は前置きせずに切り出す。
「女を頼みたい」
『レファレンスはございますか』
「AAA-012」
『議員のご紹介でしたか。ご利用ありがとうございます。ホテルにご滞在ですか』
「プラザ。1905号室」
『お好みは』
「見てくれはこだわらん。いちばん上手い奴がいい」
『……では七つ星、最高ランクのテクニシャンが一時間ほどで伺えます』
「じゃあそれで」

 きっかり一時間後にチャイ

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『アメ横・ハイドロ・ゾンビパウダー』

「乾しスルメを新鮮な生イカ状態まで戻す方法を知ってるか?ポイントは重曹だ。重曹と共に水で一晩じっくりと戻す。これだけでまるで生きているような弾力を取り戻す。そいつを刻んで炒めても良し、刺身にしても良し、俺はネギ塩で炒めるのが大好物だ、オラッ!!」

 僕に業務説明をしながらモスグリーンのエプロンにキャップ姿のチーフが出刃包丁で巨大スルメ触手を弾き逸らす。水面から上だけで3mに達する巨大スルメ触手群

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最後の弾丸は誰を撃つ

「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」
「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」
「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」

 尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。
 実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。
 というより……受けられないのだ、本当は。

「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」
「それでは困

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悪党の対歌

「おめえ、なにしてここへぶちこまれた」
「盗みと殺しだ。おめえは」
「殺しだ。師匠の仇を討った。ついでにそいつの有り金をいただいた」
「大して変わりゃしねえな。おれはピンカス。おめえは」
「ラザルだ」

石造りの牢屋は寒い。毛布は穴だらけで薄く腐っている。手足は枷と鎖で壁に繋がれ、背の傷跡は痛い。隣同士で無駄話でもして気を紛らすしかない。

「ピンカスよ、何を盗み、誰を殺した」

「パンと葡萄酒、

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冥竜探偵かく記せり

被害者は雷竜、性別は雄、年齢は今日で五百才になるはずだった。
死因はそう、まるで東方で作られるというチクワの如く、全身が輪切りにされた事によるものだ。

「彼の生誕を祝いに来たらこれとは何と因果な……」

私は自身の黒曜石の如く艶めく分厚い鱗を軋ませながら、二人で食べるはずだった甘酸っぱい竜珠果のケーキを彼の遺体の前に備えると静かに黙祷する。

「ケーキは私一人には幾分多いが致し方ない、後程一人で

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シネマ・コンプレックス

林立するモニター群と、雑多な配線と、とりあえずで置いたら定位置になってしまったであろう生活用品と、それらの間を埋めるように堆積したホコリ。あたしは今そんな部屋に立っている。なんか懐かしいと思ったら、そうそう、小学二年生のときに友達だった、中村ん家の匂いに似ている。

「ボクが選び、そして選ばれたキミはここへ来た」
 マッドサイエンティスト検定があったら不合格になるくらい爽やかなルックスのくせに、笑

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