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【桃】逆プラ2019お気に入り

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黄金の華

黄金の華

 ふたつのダイスが転がっていく。盤の上、からんからと乾いた音を響かせて。

 大太刀を携えた者。全身に呪紋を刻んだ者。六十口径ハンドガンを弄んでいる者。機械の体に油注す者。場末の酒場。異様な風体のならず者たち。

 彼らの見つめる先。赤みがかった髪の男、そして黒髪の男。盤を挟んで対峙する二人の男。空気は淀んでいた。今にも炸裂しそうな危うさを孕みながら。ならず者たちのくすんだ眼差しが、どろりと二人の

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エスプレッソの夜明け

エスプレッソの夜明け

そのおじさんに会えるのは、昼休憩に社屋を出て、唐揚げが8つも入ったワンコイン弁当と、80円の缶コーヒーを買った帰り道。その途中にある静かな公園でのことだ。

…と言っても、彼はいつも寝ている。だが、夜になると…

『本日のポエム売り〼。500エン〜』

そんな看板を掲げているのだ。無論、客足はパッタリで、他の客は見たことがない。胡散臭いし、何より500円払ったところで…

『クリームソーダの憂鬱』

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おはよう、ミッドナイト

おはよう、ミッドナイト

 吸血鬼にとって最も忌まわしきデイブレイクから早ニ十年、生き残った人類を乗せた移動大陸グリーンランドは今日も太陽を追いかけ、昼の中を泳いでいる。人類救済の方舟はいつも光をその全身に湛えているのだ。
 
 吸血鬼に残された道は二つ。方舟の外の人々を喰らい尽くし、いずれカラッカラの干物になるか、または人類に恭順し見世物としてあるいは憎悪の対象として生かされるかだ。

 無論、俺は後者を選んだ。

 偉

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デイドリームスイーパー

デイドリームスイーパー

辺りは田舎道に変わっていた。西日が突き刺す。

蝉の声が響き、キツネ面に浴衣の子供たちが俺を一瞥して走り行く。

警戒されている。

既にキルゾーン。ここじゃ異物は俺の方だ。

ミッションの情報を反芻し、呑まれぬよう抗う。

ここはターゲットの住むマンション100階スペシャルスイート。踏み込んだら、この有様。かなり夢に侵食されている。

標的は齢200超のくそじじい、汚いカネで寿命を延ばしに延ばし

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Unlocker! 美女の扉と少年の鍵

Unlocker! 美女の扉と少年の鍵

バーの照明が消えたのかと思った。

「貴方がミカルね」
油臭い水を啜っていた少年……ミカルは、遥か頭上から降る低い声で初めて、自分を呼びつけた女性によって灯りが遮られているのだと気付く。
女性という前置き無しに、巨きい。2mはある。加えて羽織ったロングコートの乾いた煙の香に、無意識に少年は緊張していた。

新聖暦333年。階層都市【アリアドネ・ヘプタゴン】。最下層。
11月だが、そこは地獄のように

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だるまとお姫さま

だるまとお姫さま

村のはじっこの森の中に、赤くて、丸くて、小さいだるまが住んでいました。
だるまは甘いものが大好き。
特にドーナツ!ドーナツの穴にはまりながら食べるのが大好き!
今日もドーナツをもらいに村までやってきました。

あれあれ、悲しい顔したおじいさん。どうしたのでしょう?「あまい?」
「ああ、だるまか、すまないドーナツはないんだ。兵隊がみんな持っていってしまった。金平糖なら…」「あまい!」

だるまは兵隊

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ヴェロニカはそこにいる

ヴェロニカはそこにいる

アフターライフ社の提供する仮想空間内に再現された我が家の居間で、僕は妻のヴェロニカと向かい合って座っている。
「私、死んじゃったのね」
彼女は困惑した様子で呟いた。
「うん。階段から落ちて、頭を打ったんだ」
僕は死因を告げた。意外なほど平板な声だった。
「それで、今の私は死ぬどれくらい前の私なの?」
彼女の困惑の要因はそこにあるようだった。彼女は自分が死んだ瞬間を覚えていない。
「一日だよ。正確に

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ゴールドラッシュとシルバーアックス

ゴールドラッシュとシルバーアックス

 ギラつく太陽。一直線のハイウェイ。トルクにモノを言わせてビンビンにブッ飛ばす。キャデラック・エルドラド―― 名前からしてツイてるだろ? コイツだけはいくら金に困っても手放せねぇ。
 ベガスで久しぶりの大勝負。LAだって郊外に行きゃあいくつもある。モロンゴ。バロナ。パラ―― だが田舎のカジノは性に合わねぇ。俺はベガスが恋しいのさ。あの華やかな街が。老舗のホテルで食えねぇ野郎どもとヒリつくような勝負

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セレモニーは終われない!~怪人シンク、三度現る~

セレモニーは終われない!~怪人シンク、三度現る~

 告別式は土砂降りの雨の日だった。最初、受付をしていた男はその弔問客が怪我をしているか、体調を崩しているのだと思った。弔問客としてやって来たその青年は腹を庇うようにして記帳し香典を渡した。へらへらと笑っているので「変な人だな」と思い、印象に残った。
 弔問客の青年は少し埋まっている親族席のほうへ歩いていった。それで受付は「ああ彼は親族なのか」と思い、記帳された名前を見て首を傾げた。枠の中で黒い線が

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虚空太郎

虚空太郎

 昔々ある村に仲の良い老夫婦が暮らしていた、ある朝その二人が妙に騒がしくしていたので村人達が様子を見に行くと、なんと子供が産まれたのだという。

 「ほぅら太郎や、村の者らもお前の事を祝っておるねえ」

 歓喜し高い高いの動きを繰り返す婆、その腕に抱くは虚空、翁が撫で回すのも虚空であった。遂に呆けたか、村人らは冷めた目であしらい、あるいは見向きもしなかった。そうしたある日、翁は村人にこう語る。

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殺し屋ノボルのでたらめ暗殺術

殺し屋ノボルのでたらめ暗殺術

「ノボルや、正しく生きるのは大事じゃ。じゃが正しいだけでは人生はつまらん。時にはでたらめに生きるべきじゃ」
「それってどうするの?」
「占いはでたらめの塊じゃ。たまにはアレに従うといい」

――

「焼きが回ったな……」

 パンツ一丁で狭い台所に立ち、汚れたコップに水を注ぎながら今日見た夢をぼんやりと思い出していた。子供の頃の夢を見るなど、俺はよっぽど現実逃避したいらしい。
 ロキソニンを二錠飲

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本能寺炎上2019

本能寺炎上2019

 ことの発端は、五百年ほど過去に遡る。日本人ならば誰もが知っている『本能寺の変』、その闇に隠された歴史の真相が、すべての始まりだった。

 天下統一を目前にした英傑、織田信長に対して、家臣筆頭の明智光秀が謀反を起こし、殺害した。しかし、その仔細ははっきりとせず、諸説ある。

 当然だ。南蛮から渡来した外法に手を染めた織田信長が、永遠の命を求めて吸血鬼と化すことを企み、それを明智光秀が阻止した……な

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消えゆく世界、再生の街へ

自殺志願のこどもが笑ってる。
それでも、鼓動どくんどくん。

俺のこの気持ちは、絶望と呼べばいいのだろうか。

うっすらと月が顔を出す夕暮れ時、高校からの帰り道で俺が住むS市A区の空は無数のミサイルに埋め尽くされた。

こんな事態はやはり、空想科学(イマジナリー)が織りなす芸当なのだろうか。
想像力が物質を創造する科学技術、空想科学(イマジナリー)。世の中に公表されたのは2年も前ではなかったと思う

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ドクター・サンクスギビング

ドクター・サンクスギビング

 時間がなかった、時間がなかっただけなんだ。成り行きでやったことだから私は悪くない。仕方のなかったことだ。
「クソッ!」
 パソコンを見ながら私は手に持ったマウスを床にたたきつけた。画面にはNMRスペクトルが表示されている。その結果は、本来あるべきケミカルシフトが表示されていない。つまり私が論文で発表した化合物は合成できていない。深夜2時の研究室には私以外誰もいない。蒸留器と乾燥機がゴウゴウと唸り

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