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#逆噴射プラクティス
エスプレッソの夜明け
そのおじさんに会えるのは、昼休憩に社屋を出て、唐揚げが8つも入ったワンコイン弁当と、80円の缶コーヒーを買った帰り道。その途中にある静かな公園でのことだ。
…と言っても、彼はいつも寝ている。だが、夜になると…
『本日のポエム売り〼。500エン〜』
そんな看板を掲げているのだ。無論、客足はパッタリで、他の客は見たことがない。胡散臭いし、何より500円払ったところで…
『クリームソーダの憂鬱』
殺し屋ノボルのでたらめ暗殺術
「ノボルや、正しく生きるのは大事じゃ。じゃが正しいだけでは人生はつまらん。時にはでたらめに生きるべきじゃ」
「それってどうするの?」
「占いはでたらめの塊じゃ。たまにはアレに従うといい」
――
「焼きが回ったな……」
パンツ一丁で狭い台所に立ち、汚れたコップに水を注ぎながら今日見た夢をぼんやりと思い出していた。子供の頃の夢を見るなど、俺はよっぽど現実逃避したいらしい。
ロキソニンを二錠飲
消えゆく世界、再生の街へ
自殺志願のこどもが笑ってる。
それでも、鼓動どくんどくん。
俺のこの気持ちは、絶望と呼べばいいのだろうか。
うっすらと月が顔を出す夕暮れ時、高校からの帰り道で俺が住むS市A区の空は無数のミサイルに埋め尽くされた。
こんな事態はやはり、空想科学(イマジナリー)が織りなす芸当なのだろうか。
想像力が物質を創造する科学技術、空想科学(イマジナリー)。世の中に公表されたのは2年も前ではなかったと思う
プロレスを■した者たちへ
プロレスリング『獅子』社長は、先の無観客試合におけるリング禍について「全て筋書きに沿った演出」と説明。王者含む四名の死の事件性を否定した。
「良かった、演出か……」
王者・益荒男の死を聞き、泣き崩れた友人の顔は今も忘れられない。獅子プロは明後日の興行開催を確約し、友人含む数多のプロレス通を安堵させた。
あなたは忘れるはずもない。
その友人が特に推しているマスクマン、ケビイシが会見の場に現れた
ヴァーディクト・ブレイカー
日本時間正午をもって、世界主要都市は壊滅、居住者の大半が死亡した。
その日事象として発生したのは、鈍色の骨格無人兵器、白亜の竜種、名状できぬ触手生物、錆色の巨人、腐敗の不死人、未確認飛行物体、奇怪地球外生命体、光なる神霊、異形たる悪魔といった人間の想像力を逸脱した脅威が一度に、出現と同時に人類を強襲した事態である。
一種でも手に余る脅威が、もはや数えきれない程の種別と物量でもって殺意を向けた事
I・F ライフアシスト疑似人格イマジナリー
「とりあえず、撒けたか?」
『近くにはいないね。でも、モードが解除されない……』
夕方の街。暗い路地裏でしゃがみ込むオレに、スタッグは言いにくそうに答えた。
顔を上げると、確かに視界の片隅には、戦闘中を示すウィンドウが残っている。
「ってことは、まだどっかにはいるのか」
『ごめんね、トウマ。何か変なんだ……』
宙に浮いていたスタッグが、俺の隣に降りてくる。
オレより少し低い身長の、クワガ
サン・フォア・ザ・サン
打ち下ろした拳が少年型ロボットの頭を打ち砕く。奴は少年のかたちこそしているが両腕に投擲型トマホークが埋め込まれており、ゴング直後にこちらの頭を吹き飛ばしに来た。セコンドの情報がなければあれで負けていた。
頭部に埋め込んである基盤を抜き取った私の腕をレフェリー型ロボットが差し上げ、津波のごとき歓声と怒号がバトルグラウンドに響く。快感を知る回路はあるが、感慨はない。セコンドとともに控え室へと歩く
プラスチックのオブラートに包んで
やってしまった。
とうとう殺してしまった。
いや、アンドロイド同士だから破壊してしまったというのが正しいのだが、MS-1956型は間違いなく私のせいで死んでしまった。
MS-1956型はマックスを名乗っていて、私より形式が二年古いから、データベースに蓄積した経験が多いと自慢してくる──いけすかないという語彙がぴったりの機体だった。
しかしそれはもう過去の話だ。私はアンドロイドであり、いつ
『優しさ』は白く燃える
「王都の連中が言うには、この国には3つの癌がある」
鬱蒼とした森の奥にある、古びた家屋の一室。壁一面の本棚に見下ろされた老婆は静かに言った。
「1つ目は貧弱なお世継ぎ。まあ在り来りだ。2つ目はバカな嫡男。無能な権力者は最悪さね。で、3つ目が。ヘタレの王子」
杖を振り、宙に浮いた鉄輪を炎に包む。魔女は振り返り、楢の机に縛りつけられた青年に、侮蔑も顕に笑いかけた。
「で、当事者の感想は?」
息苦しくも生きて行く
(……何を間違えた?)
荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。
弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。
今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。
けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。
(だから、ここへ来たのは間違いじゃない)
思った途端、熱い光線が頬を撫でる。