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【桃】逆プラ2019お気に入り

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#パルプ小説

黄金の華

黄金の華

 ふたつのダイスが転がっていく。盤の上、からんからと乾いた音を響かせて。

 大太刀を携えた者。全身に呪紋を刻んだ者。六十口径ハンドガンを弄んでいる者。機械の体に油注す者。場末の酒場。異様な風体のならず者たち。

 彼らの見つめる先。赤みがかった髪の男、そして黒髪の男。盤を挟んで対峙する二人の男。空気は淀んでいた。今にも炸裂しそうな危うさを孕みながら。ならず者たちのくすんだ眼差しが、どろりと二人の

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囮の子ども(たち)

 いる。あれはすでにここに、俺の砦に這入っている。
 私立儀典寺小学校校長、真備は自らに言い聞かせながら窓の外を眺める。鰯雲広がる空の下、校庭では三百人の児童が休むことなく昼休みを駆け抜けている。彼ら彼女らが校長室に手を振れば、真備も笑顔で手を振り返した。その心に嘘はない。齢五十にして校長を務める真備は児童たちを愛し、職務に誇りを持っている。
 だからこそ今日、真備の笑顔は児童が戸惑うほど引き攣っ

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息苦しくも生きて行く

息苦しくも生きて行く

(……何を間違えた?)

 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。
 弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。
 今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。
 けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。

(だから、ここへ来たのは間違いじゃない)

 思った途端、熱い光線が頬を撫でる。
 

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最後の弾丸は誰を撃つ

最後の弾丸は誰を撃つ

「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」
「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」
「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」

 尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。
 実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。
 というより……受けられないのだ、本当は。

「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」
「それでは困

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悪党の対歌

悪党の対歌

「おめえ、なにしてここへぶちこまれた」
「盗みと殺しだ。おめえは」
「殺しだ。師匠の仇を討った。ついでにそいつの有り金をいただいた」
「大して変わりゃしねえな。おれはピンカス。おめえは」
「ラザルだ」

石造りの牢屋は寒い。毛布は穴だらけで薄く腐っている。手足は枷と鎖で壁に繋がれ、背の傷跡は痛い。隣同士で無駄話でもして気を紛らすしかない。

「ピンカスよ、何を盗み、誰を殺した」

「パンと葡萄酒、

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悪神遷し

 S県東部、彼岸花に彩られたT郡嘉編(かあみ)地区。公民館と呼ぶには生活臭が染み付きすぎた座敷に、青年団と名乗るには年古りすぎた男女が、五人。
 うち三人は目が開いているのか閉じているのか、口から出ているのが意味のある言葉か涎をすする音かはっきりしないとなれば、残る二人のやり取りも実益ある会合には見えない。しかしそれでもこの場の、畑も職も手放した年金・ネット通販生活者たちの話し合いには、人命が掛か

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