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#小説
おはよう、ミッドナイト
吸血鬼にとって最も忌まわしきデイブレイクから早ニ十年、生き残った人類を乗せた移動大陸グリーンランドは今日も太陽を追いかけ、昼の中を泳いでいる。人類救済の方舟はいつも光をその全身に湛えているのだ。
吸血鬼に残された道は二つ。方舟の外の人々を喰らい尽くし、いずれカラッカラの干物になるか、または人類に恭順し見世物としてあるいは憎悪の対象として生かされるかだ。
無論、俺は後者を選んだ。
偉
デイドリームスイーパー
辺りは田舎道に変わっていた。西日が突き刺す。
蝉の声が響き、キツネ面に浴衣の子供たちが俺を一瞥して走り行く。
警戒されている。
既にキルゾーン。ここじゃ異物は俺の方だ。
ミッションの情報を反芻し、呑まれぬよう抗う。
ここはターゲットの住むマンション100階スペシャルスイート。踏み込んだら、この有様。かなり夢に侵食されている。
標的は齢200超のくそじじい、汚いカネで寿命を延ばしに延ばし
Unlocker! 美女の扉と少年の鍵
バーの照明が消えたのかと思った。
「貴方がミカルね」
油臭い水を啜っていた少年……ミカルは、遥か頭上から降る低い声で初めて、自分を呼びつけた女性によって灯りが遮られているのだと気付く。
女性という前置き無しに、巨きい。2mはある。加えて羽織ったロングコートの乾いた煙の香に、無意識に少年は緊張していた。
新聖暦333年。階層都市【アリアドネ・ヘプタゴン】。最下層。
11月だが、そこは地獄のように
セレモニーは終われない!~怪人シンク、三度現る~
告別式は土砂降りの雨の日だった。最初、受付をしていた男はその弔問客が怪我をしているか、体調を崩しているのだと思った。弔問客としてやって来たその青年は腹を庇うようにして記帳し香典を渡した。へらへらと笑っているので「変な人だな」と思い、印象に残った。
弔問客の青年は少し埋まっている親族席のほうへ歩いていった。それで受付は「ああ彼は親族なのか」と思い、記帳された名前を見て首を傾げた。枠の中で黒い線が
殺し屋ノボルのでたらめ暗殺術
「ノボルや、正しく生きるのは大事じゃ。じゃが正しいだけでは人生はつまらん。時にはでたらめに生きるべきじゃ」
「それってどうするの?」
「占いはでたらめの塊じゃ。たまにはアレに従うといい」
――
「焼きが回ったな……」
パンツ一丁で狭い台所に立ち、汚れたコップに水を注ぎながら今日見た夢をぼんやりと思い出していた。子供の頃の夢を見るなど、俺はよっぽど現実逃避したいらしい。
ロキソニンを二錠飲
プロレスを■した者たちへ
プロレスリング『獅子』社長は、先の無観客試合におけるリング禍について「全て筋書きに沿った演出」と説明。王者含む四名の死の事件性を否定した。
「良かった、演出か……」
王者・益荒男の死を聞き、泣き崩れた友人の顔は今も忘れられない。獅子プロは明後日の興行開催を確約し、友人含む数多のプロレス通を安堵させた。
あなたは忘れるはずもない。
その友人が特に推しているマスクマン、ケビイシが会見の場に現れた
「まほうつかい」を探して
「私は魔法使いではないよ」
終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。
年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。
「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」
目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた
アンバーグリスの心臓
クジラ狩りの船団が空と海とに浮いていた。
初猟日の空はその年も底抜けに晴れて、天国の跡地まで見通せそうだった。
人だかりのできる港を避けて、ミオは町はずれの砂浜で一人、遠ざかる船影を見送った。
武装飛行船の細い腹はみるみる小さくなって、もう米粒のようだ。その影を追いかけるように、網や大砲を積んだ大型漁船の群れが海上を走っていく。
漁船の一つにはミオの父親も乗っていた。
家を出る前の早朝、父は身支
ヴァーディクト・ブレイカー
日本時間正午をもって、世界主要都市は壊滅、居住者の大半が死亡した。
その日事象として発生したのは、鈍色の骨格無人兵器、白亜の竜種、名状できぬ触手生物、錆色の巨人、腐敗の不死人、未確認飛行物体、奇怪地球外生命体、光なる神霊、異形たる悪魔といった人間の想像力を逸脱した脅威が一度に、出現と同時に人類を強襲した事態である。
一種でも手に余る脅威が、もはや数えきれない程の種別と物量でもって殺意を向けた事