『電車の中で男女を観察するのが趣味だ。

　ラブラブな二人はこちらまで幸せになるから良い。イチャつきすぎな奴らもいるけど、色々と捗るので大好物。社会的には迷惑だけどね。

　でもそれよりも、別にラブラブでない、ぎこちない二人を見るのが特に良いんだ。女はソノ気だけど男が気づいていないとか、男はヤりたげだけど女が興味ないとか、そんなすれ違いを見てるだけでウズウズするよね。

　こないだの男女なんて最高だったよ。終電の山手線で、男の方はワンチャン狙って必死に話題を繋いでて、女はそれを適当に転がしてる──風なのだけど、ハタから見ると女は明らかにソノ気なんだよね。でも男は気付いてない。まずそのすれ違いが最高だった。

　極め付けに、女のほうが「仕方ないなぁ」って感じで笑いながら、彼の手を引いてあげたんだ。そんでそのまま五反田で降りてったの。男は目標達成、女のほうは体裁よく欲を満たせる。ウィンウィンのゴールだよね。その日はもう昂りすぎて眠れなかったよ。

　観察対象の美醜は問わないけれど、男のほうは優しい顔だと「良いな」と思う。だから彼らの死に顔は、基本的に安らかなんだ。ちょうど”その時”を狙っているからね。文字通り精魂尽き果てるってやつ。ふふ。

　そんなお相手を見た女のほうの顔ったら……ふふふ、本当に最高だよ。僕は女の子の驚いた顔が大好きなんだけど、オマワリさん、直前まで元気に腰を振ってた相手が急に死んだときの顔、想像つくかい？　あれはね、見ると本当に幸せになるよ！

　だから僕は、その瞬間に彼女たちが死ぬようにしたんだ。そしたらあの素敵な表情のままでいてくれるだろ？

　……おっと、そろそろ行かなきゃ。

　これが犯行動機さ。オマワリさんは驚いてくれたかな？

　最後にひとつだけ、良いことを教えてあげる。

　呪いをかけたのは全部で16人。その内のひとりは……ふふ……オマワリさんだよ！

　ねぇねぇ、驚いた？』

　カシャン。

　──テープの再生が、終わった。

（つづく/800字）