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"戦隊はエンタメ、仮面ライダーはドラマ"。ドラマとしての仮面ライダーが好きなら『夜天を引き裂く』を読んでくれ

 初めての方は初めまして、いつもの方はご機嫌麗しゅう。桃之字です🍑

君は『夜天を引き裂く』という作品を知っているか

 自分自身ヒーロー小説を書いている身の上であり、他のヒーローものと同じくらい面白いものを書いているという自負もある。
 ただ、この小説を読んでその面白さに本気で悔しいと感じたので全力で褒め褒めしようと思い至った。ちなみに現在時刻はAM1時である。この作品はそうさせるだけのエネルギーと魅力に満ち溢れた作品であり、ぶっちゃけこの記事を読む暇があったら今すぐ下のリンクから読みに行くべきだと強く推奨する。

ちなみに全17話のうち、13話〜17話は後半が有料(100円)となる。
でも買う価値がある。絶対にある。そうゆう話をこれからする。

 この記事では、僕が感じた本作の魅力を語りつつ、本作を褒め褒めする。大きなネタバレはないのでご安心あれ。

ライター:桃之字(もものじ)
コラムニスト/小説家/映像作家。ニチアサ(戦隊、ライダー)が大好きで、特に好きなのは仮面ライダーウィザードと獣電戦隊キョウリュウジャー。好きが昂じてオリジナルヒーロー小説「碧空戦士アマガサ」を連載中。

00年代の平成ライダーのような主人公像

 初めに書いておくが、主人公の久我絶無(くが/ぜつむ)はめっちゃんこいけすかない奴だ。まじでいけ好かない。言っていることがド正論な上、本人がそれを実行するだけの狂気を備えているだけになにも言い返せず罵倒されっぱなしになるのがなおタチが悪い(劣等感を刺激されて怒り狂うやつ)。

 そんなわけで、僕は第1話でこの主人公の思考回路を目の当たりにして3回くらいブラウザバックした(ごめん!)。作品自体が第三者視点であるが割と絶無の内心に寄って描かれているので、読み始めのインパクトが強かったというのもある。
 それでも結果としてこうして最後まで読み進めるに至ったのには理由がある。それは、この「最初に主人公を見てブラウザバックする」感じに言いようのない懐かしさを覚えたからであり──その懐かしさの正体は、読み進めていく内に判明した。

 それは、00年代の仮面ライダー主人公に抱いた苛立ちとか"なんだこいつ"感と同様の感覚だったのだ五代雄介の自由さ、津上翔一のマイペースさ、城戸真司のバカ正直さ、乾巧の愛想のなさ、剣崎一真の冴えなさ、響鬼さんの泥臭さ、野上良太郎のダメダメさ、天道総司の超然とした雰囲気、紅渡のヒキニート感、門矢司の傲慢さ。そういったクセと同じようなものを久我絶無は備えていて、読者たる我々の首を刈ってくるのだ。

 さらに驚くべきは、読み進めている内にこのいけ好かない主人公のことが大好きになること。これも00年代平成ライダーで同様に観測される現象で、例えば僕は門矢司にイライラしながらもディケイドを観続けて、最後の劇場版でつかさあああああああああと大泣きした。あいつ最初はあんなだけど良い奴なんだよ。マジで。
 『夜天を引き裂く』でもそれは同じで、気付けば彼を応援しているし、気付けば彼の信念に共感しているし、気付けば彼が負けるはずないと確信しているし、彼自身の抱える矛盾や自責やちょっとした人間らしさを愛おしくすら感じる
 久我絶無というヒーローらしからぬ思想の万能超人は、作品の確固たる柱として絶大なパワーを持って存在している。「へたれた弱者は死ね」と言うヒーローらしからぬ思想を持つ彼が、なぜ人々を守ろうとするのか。そもそも彼はなぜ万能超人で居るのか、居ようとするのか、居続けるのか。そして彼の願いは、希望は、勝敗は。そういった要素で他のキャラクターや世界を巻き込み、読者の脳髄を叩き割り、感情を揺さぶってくる。

 僕は絶無が自分の本当の願いを口にするシーンが大好きだ。あの瞬間の感情は、仮面ライダー龍騎終盤を観た時のそれに近いし、そしてそれは僕にとっての大好物だったりする。

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主人公の初変身シーンが格好良すぎてヤバい

 まず初変身に至るまでの流れが完璧で、更に変身の仕方(やりとり)も完璧なんですけど、なによりも変身時の演出が最高にクールで最高
 特撮なら処刑用BGMのイントロが流れて主人公が良いこと言ってオープニングテーマが流れると同時に変身とかなんだけど、小説の場合はそうもいかない──そんな時にバール氏の見せた演出がマジで格好良かった。
 これ、テンポ感、緩急、変身の描写との対比、出来上がるモノ、その存在意義、そう言ったものをシンプルかつ大胆に表現し、僕らの中に眠る中二心を叩き起こすための最適な手法だと思う。
 しかもこれ、この作品だからこそできる、ある種オンリーワンみたいなことなんですよね。これ引用で持ってくるのズルいわ。クソカッコイイ。必見。

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主要人物が軒並みめちゃくちゃ良い

 まずヒロイン・黒澱瑠音(くろおり・るーね)。彼女はこの物語の核となる存在なわけなのだけど、こいつも序盤は絶無と同じく凄まじい"なんだこいつ感"が漂っている。例えるならエグゼイドのポッピーピポパポをネガポジ変換したような奴。それでも途中から大好きになっていく。スゴイカワイイ。
 彼女の人間らしさ、そして人間らしさ以外の部分、性格、容姿、その全てが絶無とベストマッチしている。完璧超人である絶無が黒澱さんに傅き、黒澱さんもまた絶無を信頼し、力を合わせる。作中の言葉を借りるなら「北極星のような人」。動かざる強さを持ち、主人公を支えるのだ。ヒロインとしての理想形、心身共に支えとなる存在だ。
 絶無は彼女に触れることで彼女の思考が流れ込んでくるという羨ましい能力を持っていて、その様子は我々も垣間見ることができる。基本的に無口で人見知りで、常に筆談で話すような彼女だが、その内心は結構俗っぽかったりしてそこがまた可愛い。
 ちなみに彼女、劇中ですっごいハッスルするシーンがある。めっちゃ面白かった。あの振り切れ方はヤバい。あれだけで推せみ度が500倍くらいになった。必見。

 続いて橘静夜。こいつはいわゆるセカンドライダー的な奴で、主人公よりも先に変身している先輩ライダーで、絶無よりもよっぽどヒーローらしい動機で戦いに身を投じている。こいつはその背景的にも心情的にも性格的にも主人公っぽい奴だが、この魅力はセカンドだからこそ溢れ出しているように思う。
 静夜と絶無は正反対の人間だ。しかしそれらがぶつかり合ううちに、奇妙な一体感、信頼関係、チームワーク、そう言ったものが形成されていく。それがとても心地良い。仮面ライダービルドの戦兎と万丈に近しいだろうか。
 絶無は静夜の性格や戦い方を加味して立ち回り、手のひらで転がすように戦いを進めていく。初めは思い通りにいくものの、だんだんと静夜が予想外の力を発揮して、追い詰められたりする。完璧超人である絶無とはまた違う魅力を備えた存在であり、好敵手として申し分ない強さを持った男だ。こいつがいるから物語が大きくうねりをあげる。

 もうひとり。秋城風太(あきじょうふうた)。僕はこいつが一番好きだ。ポジションとしてはウィザードのチンプイとか、鎧武のナックルとかに近いと思う。だがこいつはこの物語に欠かせないキャラクターであり、物語の鍵となる存在だと僕は思う。この物語のテーマ、絶無の信じるもの、唾棄するもの、そう言ったものを浮き彫りにし、そして読者を感情移入させるもっとも力強いパワーを持ったキャラクターは、絶無でも黒澱さんでも静夜でもなく、風太だと僕は思う。
 僕はこいつがやり遂げた時に画面の前でマジのガッツポーズをした。それだけの力を持っている。お前はマジでいい奴だ。長生きしてくれ頼む

 他にも、静夜の相方(変身の鍵)であるザラキエル、絶無の"下僕"隊長である詩崎鏡香、絶無の姉・加奈子など、様々なキャラがいて、どのキャラもしっかりと意味を持っている。絶無を柱とするなら、彼らは頑丈な梁として、物語全体を支え、同時に確実に彩っている。ちなみに僕は鏡香ちゃんが好きです。

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激アツなラストバトル

 これは結構なネタバレになってしまうので多くは語れない。ただ、エゴの塊である絶無のエゴと、それに匹敵するエゴがぶつかり合い、互いに生き残りをかけたアツいラストバトルが繰り広げられるとだけ。
 一進一退の攻防、ピンチ、そんな中でも「きっと絶無は勝つはずだ、だがどうやって……!?」と思わせるパワー、そして絶無の出した答え。その全てに説得力が満ちていて、これ以上ないほどの素晴らしいエンディングに繋がる。御都合主義は一切ない。逆噴射聡一郎先生の言うところのR.E.A.Lがそこにある。彼らはこの世界観でシリアスに生き、戦う。そこに油断は一切ない。

いじょうだ

 他にも「自他共に認める中二文学」「読む久我絶無」「ニチアサではお届けできないシーン」「怪人がえぐい」などなど見所盛りだくさんな本作だが、とにかく仮面ライダーのドラマ要素が好きなら超絶楽しめる作品なのは間違いない。
 冒頭にも書いたがヒーローものを連載してる僕が読んで「マジで悔しい」と思った作品だ。その面白さは保証する。
 絶無の圧に負けず(重要)、ぜひ読んでほしい。

第1話はここだ

ちなみに

 バール氏の小説は以前のnote小説を褒め褒めする記事でも紹介したことがある。それが『絶罪殺機アンタゴニアス』。これもめっちゃんこ面白いからオススメ。

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