鍛治職人ちの妖精さん

[注]この作品は、SOLDOUT2の二次創作イベントに参加した際の作品です。固有名詞等、原作の知識ありきのものがありますが、ご容赦ください。

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 ガーネット街は今日も元気です。鉄を打つ音、商談の声、荷馬車の軋み、喧嘩の怒声……この街は沢山の音に溢れています。
 そんな街の片隅で、作業場兼道具屋"桃之字亭"は元気に営業中です。
「ナイフを5本くださいな」
『はーい! 500Gでーす!』
 ラスト5本のナイフをお買い上げしたおばあさんがお店を出ていきます。その背中を見送って、私はバックヤードにいるご主人様に声をかけました。
『ご主人様ー! ナイフがSOLD OUTです!』
「マジか!」
 すぐに、倉庫の奥から声が返ってきました。がたことばたんと音がして、ご主人様が汗を拭きながら出てきました。
 銀色の髪を短く切って、栗色の眼鏡をかけて、紺色のシャツを羽織っています。まるで文筆家のようですが、こう見えてもご主人様はこの街の筆頭鍛治職人なのです。そして私は、そんなご主人様を開業当時からお手伝いしているお手伝い妖精、いわば筆頭お手伝い妖精なのです!
「思ったより早かったな」
『頑張りました!』
 胸を張る私の頭をご主人様がひと撫でしたとき、店の扉が開きました。
 入ってきたのは隣のレストランの店長さんです。彼は商品棚がひとつぽっかりと空いているのを見て「おや」と声を漏らすと、ご主人様に視線を向けました。
「ナイフ、売り切れ?」
「あー、すんません。つい3分ほど前に……」
 肩を落とすお隣の店長に、ご主人様は眼鏡を外しながら「でも」と言葉を続けます。
「2時間あれば、30本くらいは作れますよ」
「夜までに20本ほしいんだ! 助かるよ!」
 ご主人様の提案に、店長さんは笑顔で商談をはじめました。私はそんな様子を眺めながら、 ご主人様のために注文台帳を開きます。
 ーーご主人様は、ガーネット街の筆頭鍛治職人。
 それは、お手伝い妖精である私にとって、密やかな自慢なのです。

 *

 本来、私たちお手伝い妖精は受け持つ業務が決まっていて、業務ごとに販売、輸送、作業、倉庫と呼び分けられます。
 このお店"桃之字亭"にもそれぞれ担当の妖精さんがいるのですが、私だけは開業当時からあれこれ手伝っていたせいで"なんでも妖精"として働いています。
『お、終わったぁ……』
「ふう、お疲れさん」
 お隣の店長の注文を請けて、早速作業に取り掛かって早2時間。さっきまでは売り場で働いていた私も作業妖精たちと共にお手伝いをして、なんとか頼まれた量のナイフを無事作り終えました。
 店長に納品した私たちは、プォンジュースを飲みながらしばし休憩していました。
「ナイフの余りを含めると、倉庫がいっぱいだなぁ」と、ご主人様が呟きました。
 "桃之字亭"は、元はただの作業場だったところに無理に販売スペースを設けたお店です。なので、一度に売れる量が限られていて、すぐに倉庫がいっぱいになってしまいます。
『これ以上は足の踏み場がなくなりますね……』
 言いながら、ジュースを片手に倉庫に入ると、そこは沢山の木箱で埋め尽くされていました。包丁、ナイフ、斧、クワ、なめし道具……ご主人様が鉄とミスリルを加工して作った品々が納められた木箱たちが、倉庫の壁を覆い尽くすほどの量積まれています。作業場にもいくつか完成品が置かれていて、完全保存容量をオーバーしている状態です。
 ここまでくると倉庫妖精さんでも手がつけられず、彼らも木箱の上で休憩していました。
「とりあえず品物が売れないと動けないな……」
 そう言いながら、ご主人様はジュースを飲み干し、立ち上がります。
「よし、妖精さん、散歩に行こうか」
『はいな!』
 ご主人様の言葉に、私もジュースを飲み干しました。

 *

 ご主人様はお手製のカッパーマトックと木槌の入った鞄を持って、台車を引きながら私の前を歩いています。私は、近くの鉱山の地図を見ながら『そこの坑道に入りましょー!』なんてガイドをしています。
 屋内での作業ができない時、ご主人様はこうして鉱山までやってきて、ミスリル原石や鉄鉱石を採っています。以前は原石の類は購入していたのですが、ご主人様が「外で気分転換がしたい」と言い出したのがきっかけです。
「倉庫がいっぱいになるの、早くなってきたね」
 ふと、先を行くご主人様が話しかけてきました。私は、最近の作業妖精さんたちの様子を思い出して、返事をしました。
『作業妖精さんたちも慣れてきて、効率上がってますねー』
「うん。そろそろ、建て替えとか考えたほうがいいかな?」
『建て替えですか!』
 確かに資金も貯まってきたし頃合いかもしれない。倉庫を増やしてもいいけど、ねも販売スペースが足りないと売り上げは伸びませんし……とそこまで考えて、私はふと思い出す。
『でも、今のお店の作業場、使いやすいんですよね。改装しちゃうと逆に生産量落ちちゃうかもですよ』
「う、確かに……どうすっかな……」
 作業効率重視で現状維持か、一般店舗に建て替えるか、それともいっそ買取の商店に対象を絞って蔵にしてしまうか……。そんな会話をしながら、私たちは鉱石を採って台車に積んでいきます。
「迷うなあ」
『まぁでも、ご主人様ならなんとかなりますよ!』
私もいますし、という言葉は、恥ずかしいので言わずにおきました。

 *

 帰り道。ホットドッグを食べながら、私たちはまだまだ新たな店舗について話を続けていました。
 夕暮れのガーネット街はまだまだ活気に溢れていて、酒場からは早くも酔っ払いの騒ぎ声が聞こえてきます。
 そんな街の片隅で、作業場兼道具屋"桃之字亭"は元気に営業中です。

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あとがき
 SOLDOUT2の二次創作イベントに参加しました。遅刻組ですけど! 遅刻組ですけど!
 山なし、オチなし。soldout2での日々って僕の中でこんなイメージで、淡々と流れてく感じがすごく好きです。
 片手間でもできるゲームなので興味のある方は是非。

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SOLDOUT2
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