碧空戦士アマガサ 第2話「オイラの憂鬱」 Part5(Re)
前回までのあらすじ
晴香の奇策により、見事脱出を果たした湊斗。カラカサを携えて変身しようとした彼であったが、突如カラカサは「ちょっと待ってて!」などと飛び去ってしまう。
晴香の元へと駆け寄ったカラカサは、彼女の持つ扇子の九十九神<リュウモン>を説得する。人間嫌いの九十九神はカラカサの必死の説得に応じ、晴香に力を貸すこととなったのだった。
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「サンキューな、リュウモン。それに──カラカサも」
『へへ。こっちこそ、ありがとね、"姐さん"!』
晴香の言葉に応えながら、カラカサはカランと地を蹴った。その後ろ姿から目を離し、晴香はタキへと振り返る。
「タキ。"雨"の外に出て本部と連絡を頼む」
「了解っす! 姐さん、お気をつけて」
「誰に言ってんだ。任せろ」
タキが駆け出す。そんな人間たちのやりとりを睨みながら、<鉄砲水>は身を起こした。
「この……ニンゲン風情が……!」
怪人は低い声で唸り、手にした大太刀を地に突き立て──何者かに、告げる。
「アマヤドリを寄越せ……全部だ……!」
その言葉に応えるように、周囲の水溜りが虹色に輝き、黒い柱が生え出でた。それはすぐに、黒くのっぺりとした怪人へと姿を変える。
雨狐の"なりそこない"、アマヤドリ。既存のものとあわせると、その数は20体ほどだろうか。湊斗は腰に手を当て、余裕の表情でそれらを見回した。
「うわぁ、増えたなぁ」
『湊斗!』
ぼやく湊斗の背後から、カラカサが跳びきたる。湊斗はそれをノールックでキャッチすると、流れるように開き、肩に担いだ。
「おかえり、カラカサ」
『ただいまー!』
敵前とは思えぬほど和やかに会話をするふたり。そしてその後ろから歩み寄り、湊斗の傍に並び立ったのは──河崎晴香だった。
彼女は、地に突き立てた扇子に肘を置き、湊斗に視線を投げる。
「私も戦うぞ。今回は文句ないな?」
それはもちろん、昨日のオフィスエリアでのやり取りを指してのことだ。湊斗は笑い、力強く応えた。
「もちろん」『ないよー!』
そして湊斗はカラカサを閉じ──天に掲げる。
「行くよ、カラカサ!」
『おうよ!』
そして、高らかに叫ぶ。
「変身!」
傘の先から白い光が撃ち出され、湊斗の身体へと降り注ぐ。光は天気雨に乱反射して虹となり、その身体に収束していく。
光が収まったとき、そこに白銀の戦士<アマガサ>が顕現した。
天に掲げた真紅の傘銃──西洋のランスにも似たそれの先端を敵に突きつけ、アマガサは凛と言い放つ。
「俺は<アマガサ>。この雨を止める、番傘だ」
それが、開戦の合図となった。
「ほざけェッ!」
怒鳴り声と共に、<鉄砲水>が水弾を放つ。アマヤドリたちが散会し、得物を手に晴香たちを襲う!
アマガサは微動だにせず、突きつけた傘銃から光弾を放った。水弾と光弾が衝突し、対消滅!
ゴバンッッ!
轟音がモールを揺らし、水蒸気が立ち昇り──それを切り裂き、三発の光弾!
「しゃらくせえ!」
<鉄砲水>は咆哮と共に大太刀を打ち振るい、光弾を消滅せしめる。そしてアマガサへと向かい一歩踏み出し──刹那、死角から殺気!
「ヌゥッ!?」
「遅い」
そこにいたのはアマガサである! 水蒸気に紛れて<鉄砲水>の死角へと回り込んでいた彼は、大太刀の間合いよりさらに内側まで踏み込んで──敵の胸に、掌底を叩き込む!
「ゴあッ!?」
「まだまだ!」
アマガサが吼える。拳が、蹴りが、息つく間もなく<鉄砲水>に放たれる!
「ヌゥッ……調子に、乗るなァッ!」
辛うじてそれを捌いた<鉄砲水>は、大太刀の柄でアマガサを突いて間合いを離し──上段からの、縦一閃!
「だらァッ!」
「!」
アマガサは小さくサイドステップしながら身を翻す。彼の身体から僅か3cmのところを大太刀が通過し──アマガサはその峰を踏みつけた!
「ヌゥッ!?」
<鉄砲水>の姿勢が大きく前に崩れる。アマガサは流れるように傘銃を構え、敵の頭部へと向け──傘を、開く!
ドバンッ!
水弾が傘に着弾! アマガサは銃殺を諦めて後方に退く。身を起こした<鉄砲水>は大太刀を振るう──
一方、リュウモンの力を借りた晴香は、20体のアマヤドリを相手に大立ち回りを演じていた。
「オラオラどうしたァッ!」
晴香は獰猛に笑いながら、手にした大扇子を振るう。超自然の緑風が手近なアマヤドリを巻き上げ、天地を逆転させ──晴香の渾身の拳がその怪人の顔面に突き刺さる!
パアンッ!
鋭い炸裂音と共にその顔が弾け飛ぶ! 頭を失ったアマヤドリはそのまま地に叩きつけられる。そして噴水が止まったときのように、地に触れた瞬間に爆ぜ消えた。
「おお、効いた。すげぇ」
『晴香! 伏せれ!』
屈んだ晴香の頭上をアマヤドリの刀が薙いだ。晴香は大扇子を杖のように突いて、背後にいるアマヤドリにバックキック!
アマヤドリの胴体に穴が空き、ヨタヨタと崩れる。その左右から間髪入れず2体。晴香はリュウモンを素早くたたむ。
「オラァッ!」
振り返る勢いを乗せて横薙ぎにスイング! アマヤドリをまとめて吹き飛ばす!
『やるなァ晴香! 疾風怒濤じゃな!』
「そりゃどーも!」
晴香は笑顔すら浮かべて、さらに襲いくるアマヤドリたちに大扇子を構える。アマヤドリが刀を構え、晴香に襲いかかり──その時!
「あ、やべっ」
『姐さん伏せて!』
湊斗とカラカサの声がして、晴香は咄嗟に地面を転がった。
「おわっ!?」
その頭上を水弾が通過する!
「危ねぇなおい!?」
文句を垂れる晴香の背後で、巻き添えになったアマヤドリが消滅した。
「ごめーん!」
『避けた先にいるとは思わなかったんだー!」
湊斗とカラカサの声が順に答えつつ、アマガサは<鉄砲水>との応酬を続けている。
アマガサの蹴りを<鉄砲水>が往なし、振るわれた大太刀をアマガサが傘で弾く。ミニマルな打ち合い、斬り合いがしばし続き─その時。
「このっ……雑魚がぁッ!」
<鉄砲水>がしびれを切らし、怒鳴り声と共に大太刀を振り下ろした。アマガサは先ほどと同じように、小さくサイドステップしながら身を翻し、刀の峰を踏みつける!
怪人の姿勢が崩れる中、アマガサは大太刀の峰を踏み込んで素早く、そして大きく身を翻す。その側を水弾が掠めた!
「ヌゥッ……!?」
「それはもう効かない」
凛とした声で言い放ち、アマガサは<鉄砲水>の側面に張り付くように回り込む。
「このっ!」
半ばヤケクソで放たれた<鉄砲水>の拳を、アマガサは手のひらで受け止めた。そして──回り込みの勢いを乗せた回し蹴りが、<鉄砲水>の腿を狙う!
「ヌゥッ!?」
ドウッッ!
<鉄砲水>はそれを脛で防御し──そこでアマガサは即座に脚を引き、同じ脚でハイキックを放つ!
「ぐッ!?」
<鉄砲水>はぎょっとしながらも、辛うじてそれを防御した。ズンッとひときわ重い音が中庭に響き──アマガサの動きが、止まった。
「悪足掻きはそこまでだ……!」
<鉄砲水>が低い声で唸り、反撃に転じようとした──その時だった。
「シッ……!」
アマガサの口元──仮面で覆われたそこから、細く鋭い呼気が漏れる。
そして、防がれた蹴り足を起点に、アマガサが宙返りした。
「────!?」
<鉄砲水>は瞠目する。
アマガサの反対の足が地から浮いた。その足が、<鉄砲水>の顔面へと迫る──
<鉄砲水>はその始終を見ていたが、反応できなかった。
パァンッ!
アマガサの放ったサマーソルトキックが、<鉄砲水>の顎を蹴り上げた!
「ガッ……!?」
予期せぬ一撃に脳を揺らされ、<鉄砲水>の全身から力が抜ける。期を逃さず、アマガサは着地と同時に槍の如き前蹴りを放つ!
ドズンッ!
それは過たず<鉄砲水>の腹に突き刺さり、2mの体躯を小さく浮き上がらせた。そしてアマガサは──そこで脚を引き、さらなる蹴りを繰り出す!
変身したアマガサの体内を循環する妖力が高まる。その身体能力は飛躍的に高められ──湊斗の武術を強化し、その速度を、鋭さを、破壊力を、何十倍にも膨れ上がらせる!
「ハアァッ!!」
マシンガンのように放たれる蹴りは、<鉄砲水>が崩れ落ちることも悲鳴をあげることも許さず、ただひたすらに急所を貫き、穿ち、抉り、そして──
「──シャッ!」
最後に、気合いの込もった叫びと共に放たれた後ろ蹴りが、<鉄砲水>の鳩尾にめり込んだ。
「ッ──」
バガンッ!
悲鳴すらなく、<鉄砲水>は吹き飛び、モールの壁に激突した。
その背からパラパラと壁の破片を零しながら、<鉄砲水>の身体が前方に傾ぐ。その口から漏れるのは、力なき怨嗟の声。
「クソ……が……」
怪人は辛うじて、崩れ落ちるのを踏みとどまった。ゆらりと顔をあげ、残心するアマガサに向かい、唸る。
「……"ついで"の……分際で……!」
時を同じくして、アマヤドリの最後の一体が、晴香によって消滅させられた。中庭に降り注いでいた天気雨はすっかりその勢いを失い、<鉄砲水>が限界に近いことを知らしめる。
アマガサは手にした傘銃を空に向け、雨狐に言い放った。
「──この雨を、終わらせるよ」
「黙れェェッ!」
<鉄砲水>はフラフラと歩み出ながら、アマガサに手のひらを向けた。その頭上で水弾の形成がはじまる。しかしアマガサは、ただ冷静に、引き金を引いた。
『妖力、解放!』
カラカサの声が辺りに響いて、その銃口から白い光が放たれる。
中庭に降り注ぐ雨が虹色の光を帯びた。<鉄砲水>の頭上に生成された水弾が消滅する。
「なっ……!?」
驚愕の声を上げる<鉄砲水>の周囲においても同様に、天気雨が虹色に輝きだした。それはやがて大きな虹を形作り、<鉄砲水>に巻きつき、拘束する。
「っ……これはッ……!?」
呻く<鉄砲水>を見て、アマガサは傘銃を降ろし、跳び上がった。白銀の身体が虹色に輝く空を舞い、強く輝きを帯びる。
「明けない夜はない、止まない雨はない」
上空で呟き、アマガサは右脚を<鉄砲水>に、左手に携えた傘銃をその反対側に向ける。
「お前らの雨は──俺が止める!」
『出力全開!』
カラカサの声と共に、アマガサは引き金を引いた。銃口から白光が迸り、その身体が加速する。
<鉄砲水>は足掻くが、意味を為さず──音速の飛び蹴りが、その身体に突き刺さる!
「くそっ……ガッ……アアアア!」
怨嗟の篭った断末魔を残し、<鉄砲水>は爆散した。
虹の光を浴びながら変身を解除して、アマガサ──湊斗は、担いだ傘に呼びかけた。
「お疲れさん、カラカサ」
『おつかれー!』
雨が止む。ただ青いだけの空が、彼らを見下ろしていた。
(つづく/第2話は次で終わりです)
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