ていたらくマガジンズ__31_

碧空戦士アマガサ 第2話「オイラの憂鬱」 Part5(Re)

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前回までのあらすじ
 晴香の奇策により、見事脱出を果たした湊斗。カラカサを携えて変身しようとした彼であったが、突如カラカサは「ちょっと待ってて!」などと飛び去ってしまう。
 晴香の元へと駆け寄ったカラカサは、彼女の持つ扇子の九十九神<リュウモン>を説得する。人間嫌いの九十九神はカラカサの必死の説得に応じ、晴香に力を貸すこととなったのだった。

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「サンキューな、リュウモン。それに──カラカサも」

『へへ。こっちこそ、ありがとね、"姐さん"!』

 晴香の言葉に応えながら、カラカサはカランと地を蹴った。その後ろ姿から目を離し、晴香はタキへと振り返る。

「タキ。"雨"の外に出て本部と連絡を頼む」

「了解っす! 姐さん、お気をつけて」

「誰に言ってんだ。任せろ」

 タキが駆け出す。そんな人間たちのやりとりを睨みながら、<鉄砲水>は身を起こした。

「この……ニンゲン風情が……!」

 怪人は低い声で唸り、手にした大太刀を地に突き立て──何者かに、告げる。

「アマヤドリを寄越せ……全部だ……!」

 その言葉に応えるように、周囲の水溜りが虹色に輝き、黒い柱が生え出でた。それはすぐに、黒くのっぺりとした怪人へと姿を変える。

 雨狐の"なりそこない"、アマヤドリ。既存のものとあわせると、その数は20体ほどだろうか。湊斗は腰に手を当て、余裕の表情でそれらを見回した。

「うわぁ、増えたなぁ」

『湊斗!』

 ぼやく湊斗の背後から、カラカサが跳びきたる。湊斗はそれをノールックでキャッチすると、流れるように開き、肩に担いだ。

「おかえり、カラカサ」

『ただいまー!』

 敵前とは思えぬほど和やかに会話をするふたり。そしてその後ろから歩み寄り、湊斗の傍に並び立ったのは──河崎晴香だった。

 彼女は、地に突き立てた扇子に肘を置き、湊斗に視線を投げる。

「私も戦うぞ。今回は文句ないな?」

 それはもちろん、昨日のオフィスエリアでのやり取りを指してのことだ。湊斗は笑い、力強く応えた。

「もちろん」『ないよー!』

 そして湊斗はカラカサを閉じ──天に掲げる。

「行くよ、カラカサ!」

『おうよ!』

 そして、高らかに叫ぶ。

「変身!」

 傘の先から白い光が撃ち出され、湊斗の身体へと降り注ぐ。光は天気雨に乱反射して虹となり、その身体に収束していく。

 光が収まったとき、そこに白銀の戦士<アマガサ>が顕現した。

 天に掲げた真紅の傘銃──西洋のランスにも似たそれの先端を敵に突きつけ、アマガサは凛と言い放つ。

「俺は<アマガサ>。この雨を止める、番傘だ」

 それが、開戦の合図となった。

「ほざけェッ!」

 怒鳴り声と共に、<鉄砲水>が水弾を放つ。アマヤドリたちが散会し、得物を手に晴香たちを襲う!

 アマガサは微動だにせず、突きつけた傘銃から光弾を放った。水弾と光弾が衝突し、対消滅!

 ゴバンッッ!

 轟音がモールを揺らし、水蒸気が立ち昇り──それを切り裂き、三発の光弾!

「しゃらくせえ!」

 <鉄砲水>は咆哮と共に大太刀を打ち振るい、光弾を消滅せしめる。そしてアマガサへと向かい一歩踏み出し──刹那、死角から殺気!

「ヌゥッ!?」

「遅い」

 そこにいたのはアマガサである! 水蒸気に紛れて<鉄砲水>の死角へと回り込んでいた彼は、大太刀の間合いよりさらに内側まで踏み込んで──敵の胸に、掌底を叩き込む!

「ゴあッ!?」

「まだまだ!」

 アマガサが吼える。拳が、蹴りが、息つく間もなく<鉄砲水>に放たれる!

「ヌゥッ……調子に、乗るなァッ!」

 辛うじてそれを捌いた<鉄砲水>は、大太刀の柄でアマガサを突いて間合いを離し──上段からの、縦一閃!

「だらァッ!」

「!」

 アマガサは小さくサイドステップしながら身を翻す。彼の身体から僅か3cmのところを大太刀が通過し──アマガサはその峰を踏みつけた!

「ヌゥッ!?」

 <鉄砲水>の姿勢が大きく前に崩れる。アマガサは流れるように傘銃を構え、敵の頭部へと向け──傘を、開く!

 ドバンッ!

 水弾が傘に着弾! アマガサは銃殺を諦めて後方に退く。身を起こした<鉄砲水>は大太刀を振るう──

 一方、リュウモンの力を借りた晴香は、20体のアマヤドリを相手に大立ち回りを演じていた。

「オラオラどうしたァッ!」

 晴香は獰猛に笑いながら、手にした大扇子を振るう。超自然の緑風が手近なアマヤドリを巻き上げ、天地を逆転させ──晴香の渾身の拳がその怪人の顔面に突き刺さる!

 パアンッ!

 鋭い炸裂音と共にその顔が弾け飛ぶ! 頭を失ったアマヤドリはそのまま地に叩きつけられる。そして噴水が止まったときのように、地に触れた瞬間に爆ぜ消えた。

「おお、効いた。すげぇ」

『晴香! 伏せれ!』

 屈んだ晴香の頭上をアマヤドリの刀が薙いだ。晴香は大扇子を杖のように突いて、背後にいるアマヤドリにバックキック!

 アマヤドリの胴体に穴が空き、ヨタヨタと崩れる。その左右から間髪入れず2体。晴香はリュウモンを素早くたたむ。

「オラァッ!」

 振り返る勢いを乗せて横薙ぎにスイング! アマヤドリをまとめて吹き飛ばす!

『やるなァ晴香! 疾風怒濤じゃな!』

「そりゃどーも!」

 晴香は笑顔すら浮かべて、さらに襲いくるアマヤドリたちに大扇子を構える。アマヤドリが刀を構え、晴香に襲いかかり──その時!

「あ、やべっ」

『姐さん伏せて!』

 湊斗とカラカサの声がして、晴香は咄嗟に地面を転がった。

「おわっ!?」

 その頭上を水弾が通過する!

「危ねぇなおい!?」

 文句を垂れる晴香の背後で、巻き添えになったアマヤドリが消滅した。

「ごめーん!」

『避けた先にいるとは思わなかったんだー!」

 湊斗とカラカサの声が順に答えつつ、アマガサは<鉄砲水>との応酬を続けている。

 アマガサの蹴りを<鉄砲水>が往なし、振るわれた大太刀をアマガサが傘で弾く。ミニマルな打ち合い、斬り合いがしばし続き─その時。

「このっ……雑魚がぁッ!」

 <鉄砲水>がしびれを切らし、怒鳴り声と共に大太刀を振り下ろした。アマガサは先ほどと同じように、小さくサイドステップしながら身を翻し、刀の峰を踏みつける!

 怪人の姿勢が崩れる中、アマガサは大太刀の峰を踏み込んで素早く、そして大きく身を翻す。その側を水弾が掠めた!

「ヌゥッ……!?」

「それはもう効かない」

 凛とした声で言い放ち、アマガサは<鉄砲水>の側面に張り付くように回り込む。

「このっ!」

 半ばヤケクソで放たれた<鉄砲水>の拳を、アマガサは手のひらで受け止めた。そして──回り込みの勢いを乗せた回し蹴りが、<鉄砲水>の腿を狙う!

「ヌゥッ!?」

 ドウッッ!

 <鉄砲水>はそれを脛で防御し──そこでアマガサは即座に脚を引き、同じ脚でハイキックを放つ!

「ぐッ!?」

 <鉄砲水>はぎょっとしながらも、辛うじてそれを防御した。ズンッとひときわ重い音が中庭に響き──アマガサの動きが、止まった。

「悪足掻きはそこまでだ……!」

 <鉄砲水>が低い声で唸り、反撃に転じようとした──その時だった。

「シッ……!」

 アマガサの口元──仮面で覆われたそこから、細く鋭い呼気が漏れる。

 そして、防がれた蹴り足を起点に、アマガサが宙返りした。

「────!?」

 <鉄砲水>は瞠目する。

 アマガサの反対の足が地から浮いた。その足が、<鉄砲水>の顔面へと迫る──

 <鉄砲水>はその始終を見ていたが、反応できなかった。

 パァンッ!

 アマガサの放ったサマーソルトキックが、<鉄砲水>の顎を蹴り上げた!

「ガッ……!?」

 予期せぬ一撃に脳を揺らされ、<鉄砲水>の全身から力が抜ける。期を逃さず、アマガサは着地と同時に槍の如き前蹴りを放つ!

 ドズンッ!

 それは過たず<鉄砲水>の腹に突き刺さり、2mの体躯を小さく浮き上がらせた。そしてアマガサは──そこで脚を引き、さらなる蹴りを繰り出す!

 変身したアマガサの体内を循環する妖力が高まる。その身体能力は飛躍的に高められ──湊斗の武術を強化し、その速度を、鋭さを、破壊力を、何十倍にも膨れ上がらせる!

「ハアァッ!!」

 マシンガンのように放たれる蹴りは、<鉄砲水>が崩れ落ちることも悲鳴をあげることも許さず、ただひたすらに急所を貫き、穿ち、抉り、そして──

「──シャッ!」

 最後に、気合いの込もった叫びと共に放たれた後ろ蹴りが、<鉄砲水>の鳩尾にめり込んだ。

「ッ──」

 バガンッ!

 悲鳴すらなく、<鉄砲水>は吹き飛び、モールの壁に激突した。

 その背からパラパラと壁の破片を零しながら、<鉄砲水>の身体が前方に傾ぐ。その口から漏れるのは、力なき怨嗟の声。

「クソ……が……」

 怪人は辛うじて、崩れ落ちるのを踏みとどまった。ゆらりと顔をあげ、残心するアマガサに向かい、唸る。

「……"ついで"の……分際で……!」

 時を同じくして、アマヤドリの最後の一体が、晴香によって消滅させられた。中庭に降り注いでいた天気雨はすっかりその勢いを失い、<鉄砲水>が限界に近いことを知らしめる。

 アマガサは手にした傘銃を空に向け、雨狐に言い放った。

「──この雨を、終わらせるよ」

「黙れェェッ!」

 <鉄砲水>はフラフラと歩み出ながら、アマガサに手のひらを向けた。その頭上で水弾の形成がはじまる。しかしアマガサは、ただ冷静に、引き金を引いた。

『妖力、解放!』

 カラカサの声が辺りに響いて、その銃口から白い光が放たれる。

 中庭に降り注ぐ雨が虹色の光を帯びた。<鉄砲水>の頭上に生成された水弾が消滅する。

「なっ……!?」

 驚愕の声を上げる<鉄砲水>の周囲においても同様に、天気雨が虹色に輝きだした。それはやがて大きな虹を形作り、<鉄砲水>に巻きつき、拘束する。

「っ……これはッ……!?」

 呻く<鉄砲水>を見て、アマガサは傘銃を降ろし、跳び上がった。白銀の身体が虹色に輝く空を舞い、強く輝きを帯びる。

「明けない夜はない、止まない雨はない」

 上空で呟き、アマガサは右脚を<鉄砲水>に、左手に携えた傘銃をその反対側に向ける。

「お前らの雨は──俺が止める!」

『出力全開!』

 カラカサの声と共に、アマガサは引き金を引いた。銃口から白光が迸り、その身体が加速する。

 <鉄砲水>は足掻くが、意味を為さず──音速の飛び蹴りが、その身体に突き刺さる!

「くそっ……ガッ……アアアア!」

 怨嗟の篭った断末魔を残し、<鉄砲水>は爆散した。

虹の光を浴びながら変身を解除して、アマガサ──湊斗は、担いだ傘に呼びかけた。

「お疲れさん、カラカサ」

『おつかれー!』

 雨が止む。ただ青いだけの空が、彼らを見下ろしていた。

(つづく/第2話は次で終わりです)

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