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碧空戦士アマガサ 第3話「マーベラス・スピリッツ」 Part1

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- 第2章 調査編 -

これまでのあらすじ】
 雨狐殲滅のために<時雨>との協力体制を敷くことに決めた湊斗は、晴香の勧めで<時雨>へと入隊することとなった。
 ショッピングモールの事件から一夜明け、湊斗の初出勤が迫っているが──?

第3話
『マーベラス・スピリッツ』

- 1 -

 何事かを極めるということは、他のものを捨てることに繋がってしまいがちだ。私は武を極めんとして、偶然にもその武で身を立てることができている。だが息子は運が悪かった。(中略)また揃って食卓を囲みたいものだ。……ここに書くことではなかったな。最近は書くことが少なくて困る。
    ────超常事件対策特殊機動部隊"時雨"活動日報より抜粋

「湊斗、醤油とってくれ」

「はーい」

『サッパリテレビ! 本日のゲストはー!?』

 ずんちゃんずんちゃん。

 朝の情報番組の賑やかな音声がダイニングを満たす。『この後ろ姿は!?』『バレバレじゃん!』『ワハハ!』湊斗たちは朝食を口に運びながら、そんな勿体ぶったやりとりを聞き流す。

『50手前で再ブレイク! 今最注目の"サバイバル系"ピン芸人!』

「ヴェホッ!」

 そんな時、味噌汁を啜っていたタキがいきなりむせた。

「うっわ汚ねぇなお前!?」

 晴香がキレて、光晴が笑いながら布巾を渡す。タキはなにやら訴えているようだったが、とにかく早く拭けと晴香が声をあげる。

 賑やかな朝餉の席。まだほんの2,3日だが、これがこの家の日常のようだ。賑やかで、微笑ましくて──眩しい。湊斗はそんな様子を眺めて、ぽそりと呟いた。

「……家族、か」

「あん? なんか言ったか湊斗?」

「いやなんでも。晴香さん頬にご飯粒ついてる」

「マジか」

 晴香が口元をぬぐった、そんな時だった。

『自著《アラフィフがライター1本で山籠りしてみた》が大ヒット!』

 テレビからその言葉が流れて。

「──────…………」

 ぴたりと。

 場の空気が、凍りついた。

「……?」

『??』

 湊斗の側で傘のフリをしていたカラカサも目を開けて辺りを確認している。どうやら気のせいではないらしい。

『ここまで言えばおわかりですよね!』

 テレビの音がやけに大きく感じる中、湊斗は食卓の各自に視線を巡らせる。

 タキと光晴はなにやら気まずそうな顔で晴香に視線を遣っている。そんな晴香の表情は伺い知れないが──なにやら殺気めいたものを纏っている気がする。

『これ生だから! 時間ないから早くして!』『ワハハ』『ではご紹介!』

 そんなお茶の間の不穏な空気など露知らず、テレビは賑やかしくゲストの紹介を続ける。

『本日のゲストはこの方! マーベラス河本さん──』

 ぶつん。

 タレントがすべて言い終わるより早く、晴香は電撃的な速度でリモコンを掴み、叩きつけるようにボタンを押して、テレビを消した。

「ちょっ──」

「タキ、おかわり」

「あ、はい!」

 湊斗の言葉を遮って、晴香は有無を言わせぬ迫力と共に告げる。タキは慌てて立ち上がって、炊飯器へ。

 晴香はご飯がよそわれたお椀を無言で受け取って、それを三口で平らげた。

「おかわり」

「はい!」

「おかわり」

「は、はいっ……!」

「おかわり」

 ぽかんとした湊斗を置いてけぼりに、晴香は怒涛の早食いで5杯分の米を平らげた。「ふぅ」と息を吐きながら箸と碗を雑に置き、彼女は口を開く。

「ごちそうさん。タキ、私は今日バイクで行く。湊斗共々遅刻するなよ。爺ちゃんもな。それじゃ」

「あ、えーっと──」

 口を挟む暇も有らばこそ。

 一息に言った晴香は荒々しく立ち上がり、ジャケットを羽織りながら部屋を出ていった。

 がちゃん、ばたん、ぶろろろろろ…………

「……………………」

 一同は無言で、遠ざかる晴香を窓から見送って。

「……え、俺なんかした?」

 ようやくまともに発言できた湊斗は、タキたちへと問いかけた。

「ああいや……湊斗くんのせいじゃないよ」

 炊飯器の前で立ち尽くしていたタキは自分の席に戻りながら、「えーと……」と言葉を続ける。

「なんていうか……姐さん、さっきのあのマーベラス河本って芸人さんが大っ嫌いなんだよね……」

「なんか……相当な嫌いっぷりだね」

 湊斗の言葉に、タキは「まぁ、うん……」と曖昧な返事をする。湊斗が首を傾げたとき、光晴が湯呑みを置いて立ち上がった。

「さて、我々もそろそろ行くとしよう。初日から遅刻だと格好もつかんしな」

「は、はぁ……」

 その言葉に静かな圧を感じ、湊斗は釈然としないまま、茶碗に残った米を頬張るのだった。

(つづく)

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第2章第2話(通しで第3話)開幕。2,3日おき更新の予定です。どうぞよしなに!

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