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好奇心は猫を伸ばす

 初めてプリクラを撮ったのは小学生のころ、家族旅行のフェリーの中だった。今から比べると超ショボい、フレームと雑なデカ目オプションが選べるだけの簡単なものだったんだけど、集まった親戚の子供らとおしくらまんじゅうみたいにして撮った写真は、かけがえのない想い出になったんだよね。

 親戚仲は良い方……というかたぶん、よそのご家庭と比べると異常なほど良かったね。なんか、月イチで爺ちゃんの家に集まったり、年イチで旅行したりしてたんだ。

 まぁ、もう居ない人達の話してもつまんないからプリクラの話に戻そう。最近のプリクラって全身撮れたりするもんだから、外から見えないようになってるんだよね。

 だから中でなにが行われていてもわからない。ヤらしいことだってできちゃうし、人が死んでも気付かない。多少の悲鳴ならゲーセンの騒音が消してくれるしね。

 おや、すごい汗だね? ダメだよ、プリクラは笑顔じゃなきゃ。そのほうが美人になれるって──あ、ほら、撮るってよ。ちゃんと笑って。ね? はい、チーズ。

 うん。良い笑顔だ。これはきっと盛れるよ。完成品は一緒に埋めてあげるね。

 それじゃ、おやすみ。レディ。

***

 ボイスレコーダーの再生は、そこで終わった。

「……くそ野郎」

「うう、タマちゃんが無事で本当によかったよぉ」

 吐き捨てた私の横で、飼い主のコージが半泣きで声をあげた。

「いや無事じゃないわよ……」

 私は言いながら、レコーダーに貼られた写真を睨みつける。

 そこに写るは二人の男女。男のほうは仮面を被っている。そして横で引きつった笑顔を浮かべる女は──他ならぬ、私自身だ。

 同じ写真を眺めながら、コージが口を開く。

「それにしても、犯人も予想外だろうね。……タマちゃんが、生き返るなんてさ」

「ふん。予想外はまだこれからよ」

 私は人化の術を解き、二本の尻尾をバタバタと振りながら言葉を続けた。

「私を殺した事、後悔させてやる」

 ──私はタマ。百万の魂を持つ、猫又だ。

(つづく/800字)

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