ていたらくマガジンズ__19_

第一回<時雨>ホームラン王決定戦(アマガサ半刻小説)

キャラクター:超常事件対策特別機動部隊<時雨>の一同

「いやぁ、食ったねぇ」

 いの一番に店を出て、タキは大きく背伸びをした。その後ろから、ソーマと乾も出てくる。

「シンさん、俺ここで5000円分も食うの初めてなんスけど……」

「安心しろソーマ、俺もだ」

 ファミリーレストラン『バーバリアン』。中華料理をリーズナブルに楽しめるファミリーレストランだ……最も今は、ソーマの言う通りそれなりの金額になっているが。

「ご馳走さん」

「ありがとうございましたー」

 店員の声を背に受けて、晴香は財布をしまいながら店を出る。そんな彼女に声を掛けてきたのは、出口で待機していた凜だった。

「晴香さん、ご馳走様でした」

「いや、礼はカンパしてくれた爺さんに言ってくれ」

 折り目正しい凜に、晴香は微笑んだ。

 <ケース01>発生から、2か月。そして<時雨>の結成から1か月が経つ。

 正直、調査状況はあまり芳しいとは言えない。目撃者は軒並み記憶喪失だし、監視カメラは全滅しているし、被害者にはなんの共通点もなく、犯人の影も形も掴めていない。

 ──お前たち、今日は上がっていいぞ。ここはワシに任せて、飯でも行ってこい。

 隊長の光晴が藪から棒にそんなことを言い出したのは、ピリピリし始めた隊の雰囲気を案じてのことだろう。

 駅へと帰る道すがら、思案する晴香に話しかけてきたのは凜だった。

「実は私、ファミリーレストランって初めてだったんです」

「マジかよ。学生のころとか行かなかったのか?」

「そうなんです。親が厳しくて」

「へぇ……うちのとは大違いだ」

「そういえば、昔から隊長の家で暮らしているんでしたっけ?」

「ああ。母親が早くに死んでな。父親は仕事ばっかで帰ってこねーし……」

 そんな取り留めのない会話をしながら、10分ほど歩いたころだった。

「姐さーん! バッセン行きましょうよバッセン!」

 声をあげたのはタキだった。そちらを見遣ると、古びたバッティングセンターの前で男どもがたむろしている。晴香は凛と顔を見合わせて、速足でそちらへと駆け寄った。

***

「っしゃー行きますよー!」

 気合の入った声と共に、タキはブース内でバットを素振りする。

「タキさん忘れないでくださいねー! 一番ヒットが少ない人がジュース奢りっスよ!」

「任せなよソーマくん!」

 タキはにやりと笑い、コインを挿入。パパラパパーとピッチングマシンのほうから音が鳴る。

 彼はバットを構えた。なかなか堂に入った構えだ。速度設定は110km/h。ボールが──放たれる!

「ツェィッ!」

 フルスイング!

 ぶおんという音が、ブースの外にいる晴香たちまで届いた。

 ……ぶおんという音、それだけが。

「……………………」

 沈黙。

 タキは次に備えて、無言でバットを構えなおし──

 ぶおん、ぶおん、がきん、がきん、かんっ、ぶおん、がきん。

「……あれぇ、おかしいな?」

「おかしいのはお前のタイミングだ」

 露骨に首を傾げたタキに、晴香はたまらずツッコんだ。端から見ていても、微塵もタイミングが合っていない。

 結局ホームランは一度も出ず、タキはすごすごとブースから退散してきた。表示されたスコアを見て、凜が楽しげに声をあげる。

「タキさん、4ヒットでーす」

 その横から口を挟んだのは、ソーマだった。

「もしかしてタキさん、バッセンあんまし行ったことない?」

「あはは……実は2回目……」

「あんなに自信満々だったのに!?」

 次にブースに入るのは、乾慎之介だ。ヘルメットをかぶり、メガネをクイッと上げると、彼はバットを構える。なんと左利きだ。

「ふふふ……実は皆さんには秘密にしていたんですが──」

 乾の言葉の最中で、ボールが放たれる。乾の目がギラリと光り──

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 快音に続き、ホームランを告げる音が鳴り響く。乾は勝ち誇ったような笑顔と共に、不敵に宣言した。

「──実は私、元高校球児なんですよ」

「えーっ!? ズルだ!」

「ズルくない! 能ある鷹は爪を隠すってやつだよタキくん!」

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 ぬははははと悪役めいた笑いをあげながら、乾はヒットとホームランを量産していく。悲鳴を上げるタキをあざ笑うかのように10球を打ち終え、彼は邪悪な笑みと共にブースから出てきた。

「えーとシンさん、4ヒット、4ホームランです!」

「うわぁぁ……」

 凜の読み上げたスコアを聞いて、タキが崩れ落ちる。乾はメガネをクイッとしながら言い放った。

「勝ちはいただきましたよ!」

 全力のドヤ顔を浮かべる乾。しかし──その後ろから、クールな声がかかる。

「まだ終わってないっスよ、シンさん」

「む?」

 ブースの中でバットを素振りするのは、ソーマであった。既にコインは投入済みで、パパラパパーと開始のSEが鳴り響く。

「……行きまス」

 ソーマは、一同が軽く呑まれるほどの真剣な表情でピッチングマシーンを睨み──ボールが、放たれる!

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 ッッカァンッ! パパラパパー!

「なっ……!?」 

 三連続ホーマー! 乾が目を剥く!

「実は俺、家がこの辺なんスよ──」

 ッッカァンッ! パパラパパー!

 四連続ホームラン! 乾は狼狽えて、言葉を漏らす。

「ま、まさか……」

 そんな乾の後ろで、凜と晴香の会話が始まる。

「……あれ、もしかしてこれってソーマくん?」

「ん? ああ、ソーマだなこれ」

 乾は油の切れた人形のような動きで振り返った。晴香と凛が見ているのは、壁に貼られた掲示板である。そこにはソーマの顔写真が掲示されていて──そのそばに、躍るような筆致でこう書かれていた。

時速200km/hチャレンジャー! 完全制覇のみなさま!

「じそくにひゃっきろ!?」「かんぜんせいは!?」

 乾とタキが声をあげる中──

 ッッカァンッ!

 十度目の快音が、鳴り響いた。

「……110km/hだと、ちょっとやりづらいっスね」

「そ……ソーマくん、1ヒットと9ホームランです……!」

 凜の声に、男どもが崩れ落ちる。ブースから出てきたソーマは、乾たちに声を掛けた。

「……ゴチになります」

「いやいやいやいやズルいよ!」

「ズルだ! ズルだよソーマ!」

「小学生かよ」

 大騒ぎする男どもに、晴香の冷ややかな声が掛かる。凜もまた、ニコニコしながらその様子を眺める。

 晴香はふと振り返り、そんな凜に声を掛けた。

「凛、お前もやってみるか?」

「えっ……いや、私は……やったことないので……」

「実は私も初めてなんだ。どうだ、5球ずつ」

「は、はい!」

 目を輝かせる凜と共に、晴香はブースに入ってバットを構え──ボールが放たれる!

「フンッ!」

 シュピンッ!

 バットを振ったとは思えない音が響く。ボールには掠ることすらなく、次の球が装てんされる。

「……難しいな」

 首を傾げる晴香にツッコんだのは、乾である。

「あの……晴香さん? その振り方、完全に剣術のやつですよね?」

「あん? ダメか?」

「ダメです! ちょっと構えからやり直しましょう! ほら、凜も入って!」

「あ、はい!」

「タキさーん、俺コーラがいいっす。2リットルの」

「2リットル!?」

「フンッ!」

 シュピカァンッ! パパラパパー!

「ええっ!? なんで今のでホームランいけるんですか!?」

 ひと気のないバッティングセンターに、ギャーギャーと<時雨>の面々の楽しげな声が響く。騒々しいひとときは、日付が変わる近くまで続くのだった。

 ……その後、結局終電を逃した乾と凛が河崎道場に流れ込み、なし崩し的にソーマもついてきて──光晴も巻き込んだ三次会が開催されるのだが、それはまた、別のお話。

(おわり)

[本編] [目次]

 この作品はニチアサライダー風変身ヒーロー小説『碧空戦士アマガサ』のお題企画から生まれた、番外編ショートショートです。
 お題企画については以下の記事をご参照ください。
お題はまだまだ募集中。
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-思考メモ-

お題:日常回。湊斗たちと出会う前の、晴香たちの日常。任務の間の束の間の休息的なやつ

飯食ってるとこしか書いてないからな。違うとこ…と思うんだけど、あいつら任務の合間なにやってんだろう。稽古?

晴香さんはマジで仕事と稽古しかしてないと思う。タキはその辺わかってるからオフの日とか空いてる時間帯には無理やり連れ出すんだろうな。

結成されてしばらく(重要参考人見つけるまで)は成果が上がらず肩身の狭い思いをしていた頃だろうし、そういうストレスの発散に行く晴香とタキ。ついでに乾たち?

ああでもそこはあれだな、じじいが気を利かせそうだな。本部に残ってくれることになって「お前ら根詰めすぎ。飯でも食ってこい」って感じか。

そんでみんなで飯食って帰りにバッティングセンター見つけて入る

まずはタキがチャレンジ。下手くそ。

乾がチャレンジ。なんかうまい。ドヤ顔

ソーマ。超うまい。乾さんまだまだっすねー!

凛は自信なさげ。ストレス解消と思ってやってみな? と晴香さんに言われてチャレンジ。晴香さんは意外と球技が苦手

所用時間:1時間30分(2956文字)

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