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「小説家ってのは"なる"もんじゃない。"である"ものなんだよ」

 普通に大学を卒業して、大学院に行って、そのあと普通にサラリーマンになった。少し違ったのは、社会人になってすぐ小説を出版してもらえたことだ。

 『気になるあいつは怪獣少年』。友人の触媒ファントムガール氏が原作、僕が作文という役割で、これを書き上げたのは社会人1年目のことだった。

 サラリーマンになってすぐに配属された部署は、ネットワーク回線が切れたときにお客さんから電話が掛かってくるような保守窓口で、夜勤のある部署だった。

 法人向けの電話窓口なので、夜は電話の件数も減る。なので夜勤のとき、先輩たちは会議資料作ったり報告書書いたり忙しそうだった。一方、新卒ほやほやの僕はただただ退屈で、その間ずっと本作の執筆に費やしていた。

 担当の編集さんは、もとは漫画雑誌の担当の人で、彼にとっても初の小説案件だったらしい。今思えば、とてもとても失礼なことをたくさんやった。打ち合わせを夜にせっとしたり、納期破ったり、物語上の指摘に対して「お前はわかってない」って言い返したり。いやまぁ一番最後のは今だに思ってるけど。

 残念ながら初版発売後、増刷がかかることはなかった。書店での扱いもそう大きくはなかった。出来については……当時の僕の全力だったのは間違いないけれど、今読むともっと頑張れただろお前、という気持ちになる。

 でもなにより口惜しいのは、怪獣少年を出して天狗になったことと、そしてそこで燃え尽きてしまったことだ。当時は「俺はちゃんとやり遂げたんだぞ」っていう気持ちがあって、それが日々の言動にも現れていたし、そして「俺はやり遂げた」という想いが故に、小説を書くことをやめてしまった。めちゃくちゃ勿体無いことした。今なら絶対短編でも新連載でもはじめるのに。なにやってんだバカ。

 標題の言葉は、当時の編集さんに言われた言葉だ。今ならその気持ちが痛いほどわかる。書いたから小説家なのではなく、書き続けるから小説家なのだ。

 社会人1年目の僕はそれがよくわかってなかったんだと思う。そして仕事が忙しいからという言い訳の元に、書くことをやめてしまった。

 でも今のほうが絶対忙しい。間違いなく。普段仕事してないように見えると思うけどちゃんと仕事してるんですよ。でも、それでもちゃんと物語を書いて、世に出している。そしてそれを、読んでくれる人がいる。

 身の回りに専業のクリエイターが多くて、劣等感というか、なんか自分これでいいのかなって思うときもあった。でもそれでも創り続けていればよかった。だって今、こんなに楽しいんだもの。

社会人1年目の自分に言いたいこと

「書き続けろ、創り続けろ。ただのサラリーマンで居られるほど、お前の想像力は大人しくない」

 社会人7年目。兼業作家としては駆け出し。あの頃の自分の失敗を忘れぬよう、プラクティスエブリデイの精神で邁進する。

 僕はまだ小説家でいたいのだ。




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