【スペイン料理】花と団子のイースター

スペインや中南米のカトリック文化の国は、いままさにSemana Santaのど真ん中。ニュースでは、渋滞する高速道路が中継されたり、知人のSNSに旅行先からの写真が投稿されたり、ゴールデンウィークのような休暇モードです。スペインでは、コロナ禍で移動が制限されていた過去2年に比べ、今年は2019年比で8割程度の人の移動が見込まれているそうです。

ということで、今回はSemana Santaを取り上げてみたいと思いますが、このSemana Santa(聖なる週)とは即ちイースター(復活祭)のこと。Pascuaとも呼ばれるこの祝祭は、イエス・キリストの復活をお祝いする重要な行事の一つとしてキリスト教圏で様々な形で盛大に祝われます。

もともとPascuaとはユダヤ教で春分後の満月の日にHuida de Egipto (出エジプト)を祝う大祭でしたが、この時期にキリストが処刑されたことからキリスト教ではキリストの復活を祝う祭典となったとのこと。春分や満月といった太陰暦(Calendario lunar)にそって定められているので、年によって日付が変わります。カトリックではcalendario litúrgico católico(カトリック典礼カレンダー)で春分後の満月のあとの日曜日を、キリストが復活した日曜日

Domingo de Resurección(復活の日曜日)

とし、さかのぼって一週前の日曜日をキリストがエルサレム入りした日

Domingo de Ramos(棕梠の日曜日)

として、キリストがエルサレムに入ってから処刑され復活するまでのこの両日曜の間の週をSemana Santaとして祝います。今年2022年は4月10日から17日までとなっています。

この復活祭が祝日として休みになっているかどうかはキリスト教圏でも国によって違うようですが、スペインでは、キリストが十字架にかけられて亡くなった、Semana Santaの金曜日

Viernes Santo(聖金曜日)

を全国一律の祝日に定めています。また、ほとんどの自治州がその前日の木曜日、キリストが使徒らとla Última Cena(最後の晩餐)をとった

Jueves Santo(聖木曜日)

も休日として4連休にしていますが、学校は一週間丸々休みになるところも多く、有給休暇をくっつけて仕事を休む人も多いため、時期的にも、まさにスペイン版ゴールデンウィーク。Semana Santa直前の金曜日(今年は4月8日)の夕方から道路も混み始めますし、飛行機やホテルの値段も上がりますので、この時期の旅行は余裕を持った計画が必要です。

そんなわけで、Semana Santaといえば通例、「どこに旅行する予定?」と聞きあうのが社交辞令となっていますが、併せて話題になるのはなんといっても食べ物の話。スペインでは

Torrijas(トリハス)

というお菓子を食べることが伝統になっており、どなたかのご自宅にお邪魔する機会があれば、きっと

¿Quieres una? (おひとついかが?)

と勧められることでしょう。日本でも、端午の節句には柏餅、お彼岸にはおはぎ、ですが、伝統行事と特定のお菓子がセットになっているのは世界共通だなあと思ってしまいます。

さて、ではそのTorrijasの正体はというと、ざっくりいってフレンチトースト!我が家では母が朝食に作ってくれることが多かったので、スペインで初めて友人のお母さんに勧められたときはびっくりしました。ですが、スペインのTorrijasはシナモンなどのスパイスやオレンジの香り付けがしてあったり、仕上げにガッツリとお砂糖がかかっていたり、デザート的要素が強くなっています。また家庭によってレシピも異なるようで、「ああ、おばあちゃんのTorrijasが食べたいなあ」なんて言っているのを聞くと、本当に日本人にとってのおはぎのような存在なのかもしれません!

作り方ですが、牛乳を温めてvainilla(バニラ)、Piel de limón o naranja(レモンやオレンジの皮)、Rama de canela(シナモンスティック)等でしっかり香り付けをし、rebanadas de pan(輪切りにしたバゲット)を浸す。次にそのパンを卵液にくぐらせてオリーブオイルで揚げ焼きし、仕上げにシナモンシュガーをまぶす、というのが伝統的な作り方です。

また赤ワインの産地スペインならではの、

Torrijas al vino(赤ワイン風味のトリハス)

といって、牛乳に代えて、赤ワインを砂糖、シナモン、オレンジの皮などで風味付けしてパンを浸し、卵液をからめて焼くレシピもあります。パンと赤ワイン、といえばキリスト教ではキリストの体と血を表すものとして欠かせないアイテムですが、それだけ地中海地方の生活に古くから欠かせないものでもあるということなのでしょう。その二大要素をつかったこちらも試してみたくなります。

さらに今年は変わり種として、スペイン出身のミシュラン三ツ星シェフ

David Muñoz(ダビッド・ムニョス)

の監修で発売されたTorrijas gurmet (グルメ・トリハス)も話題になっていました。こちらは、なんと

leche a la vainilla y miso blanco(バニラと白みそ風味の牛乳)

にブリオッシュを浸して作られているそう。仕上げにかけるクリームも、レモンとチョコレート2種が添えられているということで、伝統レシピからは離れますが、「お正月の雑煮は白味噌派」の私としては非常に気になります。最近は、インターネットのおかげで海外の有名シェフが料理を作る様子をライブ配信やYoutubeなどで気軽に見ることができるようになりましたが、先日たまたま見ていたあるスペイン人シェフのインスタライブで、Mirin(みりん)のみならずSalsa de Yakiniku(焼き肉のたれ)といった調味料が日本語のまま使われていて驚きました。もしかしたらShiromisoが料理界のボキャブラリー入りする日も近いのかもしれませんね。

さて話はそれましたが、そんなSemana Santa、もちろん宗教行事ということで、普段は教会に鎮座しているキリストや聖母マリアなどの像を信者たちが担いで町中を練り歩き、当時の様子を再現する

Procesión

が行われます。

上記リンクのセビージャなどが有名ですが、もしこの時期にスペインを旅行してこの行列に出会う機会があれば、その厳かな様子に圧倒されることでしょう。食と伝統文化とバケーションが融合したイースター休暇。なかなか旅行にはいけない折ですが、まずはぜひスペイン風フレンチトーストを作って、味わってみてはいかがでしょうか。

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