渋谷ハジメの焼畑農業にみる、「やさしい世界」の課題と対策

 まず初めに断っておきたいのは本記事は特定人物の批判や擁護のために執筆したものではないということである。本記事の目的は「やさしい世界」と評されることもあるVTuber界隈で、何故渋谷ハジメだけが炎上し続けるのか(※1)、その理由を考察し、「やさしい世界」が抱える課題を明白にすることにある。したがって、必要であればハジメのファンにとっては心地よくないことも書くし、逆にハジメに対する批判意見に対して無条件に賛同することもしない。その代わり一連の炎上騒動についてはなるべく事実のみを書くように努める。事実誤認があれば、是非ご指摘願いたい。

 渋谷ハジメの炎上騒動

 いきなり身も蓋もないことを言うが、ハジメの炎上騒動は「炎上」と呼ぶのも「騒動」と呼ぶのもやや正確ではない。彼の言動の問題点についてはひとつひとつあげていてはキリがないほどあげられるし、個々に分析すれば批判に値するほどのことでもない事例も多いからだ。これまでの言動の積み重ねによって、少しずつ不満が蓄積されていったというのが正確なところであろう。

 以下は、批判的な見解がなされるものとして比較的賛同できる事例をあげるが、一挙手一投足を批判するのには賛同できない部分もあることは明記しておきたい。とは言え、9割方はハジメの自業自得であろうとは愚考する。問題なのは批判に正当性があるか否かではなく、事後対応の悪さによって、炎上を鎮火させるどころかまるで焼畑農業のように自らさらなる批判の材料を提供することにあるからだ。

 特に有名なのは、活動初期からシロ組(※2)であることを公言していた月ノ美兎に対し、登録者数が非常に伸びていたことからモンスターハンターのイビルジョーに例えて「この勢いで四天王(※3)食い〇す感じなのかな?(※4)」と発言した事例だ。VTuber界隈は登録者数の多い少ないに関わらずみんな仲良しな「やさしい世界」だと思われていた状況で、「食い〇す」という物騒な発言が飛び出したことで視聴者たちは困惑した。

 しかし、この時点では炎上とまでは言えず、謝罪と撤回をすることで事は丸く収まるだろうと思われていた。あくまで視聴者からの反応の多くは「困惑」であり、どういった意図でそのような発言をしたのか測りかねているというのが正直なところだったからだ。

 その一方で、ハジメは配信終了後のチャット欄で言い訳を連投し、四天王のひとりである電脳少女シロの同僚・ばあちゃるが

と擁護したにもかかわらず、これに対して謝罪も感謝も述べずに反応したため、炎上へと発展した。その後、何事もなかったかのように開始した配信中に、にじさんじを運営するいちから株式会社のCOOであるいわなが(岩永太貴)氏から呼び出され、謝罪動画を投稿することとなった。現在その動画は何故か非公開設定になっているが、その点についても納得のいく理由の説明はされていない。

 その炎上以降も、あまり公に触れるべきでない話題を口にするなどし、批判を受けることはあった。そうは言っても、程度の問題で言えば他のVTuberのほうが過激な発言をすることもあり、ハジメの問題点はあまり顕在化されなかった。

 流れが大きく変わり始めたのは2018年の12月頃からのことであった
・とあるVTuberのチャット欄に突然現れコラボを提案するも、指定された対戦回数を守らず居座ることが同じ相手に対して二度あり、二度目は視聴者数の激減も確認された。
・同じく他のVTuberのチャット欄で、配信をメインに活動しているYouTuberとしては日本一と言っても過言ではない超有名YouTuberの加藤純一を知らないと発言し、配信が荒れる原因を作った(※5)。
・他のVTuberとゲームスタッフによる企業案件である凸企画に参加するも、制作会社が同じというだけで全く無関係のゲームグッズをスタッフにねだったうえに、その全く無関係のゲームのキャラの物真似をするためにゲームの進行を止めて注意を受けた。

 以前より他のVTuberに突発的にコラボを提案することや、空気の読めないコメントをすることにも批判の声はあったが、上記のような配信界隈の常識としても考えられない行為を繰り返し、他のVTuberの配信を荒らしたために「ハジメは推しの配信には来ないで欲しい」という声が強まった。

 そんな折にハジメが企画したのが「緑系Vtuber限定凸待ち」であった。その準備配信として凸者の名前を入力していたが、「あまり難しい名前にしないほうがいい(※6)」などと上から目線の発言を繰り返した。そして、立ち絵に関しては凸待ちでは出さないstyleであると説明したが、そもそも事前に参加者を募っている以上は、厳密には凸待ちではないうえ、緑系と謳いながら肝心の立ち絵を出さない理由が分からず視聴者は困惑した。

 配信当日は立ち絵どころか、凸者の名前も出さなかったため誰が喋っているのかも分からない状態であった。さらに配信後、ハジメは「配信styleは人それぞれ 以上」とツイート。のちにあくまで配信の感想であると弁明したが、styleというワードは事前準備配信でも用いていたということもあって、開き直りとしか受け取られなかった。しかし、それならそれで、そのstyleを貫き通すかと思いきや、何故かあっさりと今後は立ち絵を出すようにすると発言を翻した。やはりここでも事後対応が悪く炎上につながったものと言える。

 このような状況にかつてファンだった者も呆れ果てたのか、登録者数は減少傾向に転じ、5万1500人いたチャンネル登録者も現在は5万1000人を下回り、このままでは5万人切りもあり得るという状況である。もはや以前からツイッター上でファン活動をしていた者や他のVTuberから苦言を呈されることすらあり、「アンチに粘着されているだけだ」とは言えない事態となっている。

 ハジメ批判に正当性はあるのか?

 なるほど、推しの配信を荒らされ不快に思った者が不平不満を漏らすのは確かに理解できる。私も推しと言うほどではないが、なんとなく観ていた配信がハジメのチャットをきっかけに荒れ出す場面はリアルタイムで目撃したことがある。

 とは言え、である。有料配信ならばともかく、視聴者はただ単に配信を観ているだけである(※7)。配信が荒れようが荒れまいが、その配信者自身が嫌だと言わなければ、批判するには値しない。無論、先述した居座りや、ゲーム案件の凸企画では確かに配信者からの注意もあったのも、それでいてハジメからの謝罪の言葉がほとんどないのも事実だ。しかし、その問題は当事者同士で解決すべきことであり視聴者は当事者ではないし、不満も怒りも尤もであるが、ハジメが企業勢である以上、意見をぶつけるべき相手は運営に対してであるべきだろう。

 なお、全く別件の話でも「にじさんじは放任主義だから」といった擁護意見が見受けられるが、にじさんじは各ライバーの自由意志に判断を委ねている部分は多々あるものの、運営からライバーへと注意がされることもあるし、場合によっては謹慎となることもある(※8)。そもそも公式配信等でライバーの活動に制限を加えている以上、運営に管理責任があるのは明白である

 突発的トラブルに対策できない「やさしい世界」

 前置きが長くなったが、ここからが本題である。ハジメの一連の言動は、個々に分析すると批判するほどのことでもないが、にじさんじ内外を含めて他のVTuberを巻き込むような事態がこれだけ積み重なった以上はなんらかの対策を考える必要はある。

 本来それをするべき運営は、少なくとも表立った範囲では「食い〇す発言」のあとに注意をしたという程度の管理しかしていないようである。尤も運営がライバーに注意する様子など、視聴者に見せるべきではないことであり、裏では注意をしている可能性があることも留意したい。しかしながら、ハジメ自身が意見を受け入れると言った舌の根の乾かぬ内に他のVTuberに対して突発的なコラボを仕掛ける行為を続けている以上、視聴者からの意見は正しく伝わっていないか、受け入れられていないものだと判断せざるを得ない。

 何故にじさんじ運営はハジメの行動に制限を加えない、あるいは加えられないのだろうか。その理由を追究していくことで、「やさしい世界」の問題点が見えてくる。

 そもそもにじさんじの運営方針としては、「他のVTuberとのコラボ禁止」などとは言い難いのである(※9)。いや、にじさんじに限らず、生配信を主な活動とするVTuberたちの多くはコラボによって、その人気を獲得してきた。それならば、ハジメの事例だけがNGであるという理由を明確にしなければならないが、やはり一連の事例を個々に分析すると、そこまでするほどではないのである。

 事が大きくなれば、配信における注意事項をマニュアル化しようという話にもなり得るが、ハジメひとりの行いにより他ライバーの活動にまで制限が加わることは望ましくないし、元々アプリ会社でタレント業のノウハウもないいちからにとってはリソース不足で対応できないのだろう。

 それ以前にこれだけ悪評が立っていれば、他のVTuberからも避けられるようになり、コラボ拒否されるという事態も起こり得そうなものだ。しかし、実際は単に「声をかけられたから」という理由だけでもコラボをするVTuberが後を絶たない。

 その理由としてまず考えられるのは「ハジメの炎上騒動についてよく知らないから」というものだが、実際「配信styleは人それぞれ 以上」という先述のツイートがコラボ配信内で弄られた際に、よく分かっていないような反応を示したライバーもいる。そもそも視聴者の立場から言っても、7000人以上いるとされるVTuber(※10)の中からそれぞれの推しの配信を追うので精一杯なのである。ライバー活動を続けながら、こうした情報を収集するのは困難であろう。

 また、VTuber界隈が「やさしい世界」であるために、不穏な空気を出すことが好まれない傾向にある。故に「〇〇と××は仲が良くない」という噂レベルの言説でも荒れる理由になることがある。

 とは言え、物怖じせず歯に衣着せぬ発言をする者ならば別だし、先述の通りハジメに苦言を呈するVTuberもいるが、基本的には荒れるようなネタには近づきたくないのである。騒動について知っていても素知らぬ振りでやり過ごすのは利口なやり方であると言える。それに、性根のやさしさから騒動については知っていても、変わらず仲良くしようとしているVTuberもいることだろう。

 それでは視聴者目線ではどうだろうか。やはり視聴者も荒れるようなネタを好き好んで発信しようなどとは思わないし、なるべくならしたくないのだ。そもそもハジメに対する意見の多くが批判に転じるまでに約1年ほどかかってしまったのも、そうした事情を抱える「やさしい世界」の弊害によるものである。それにコラボ配信中にチャット欄で苦言を呈すれば、ハジメのコラボ相手にも迷惑が掛かってしまう。そうした配慮からか、代わりに低評価を押したり、ツイッターや公式のお問い合わせなど配信外で意見を表明することで意思表示している者もいるようだ。そのことについては非常にお行儀が良く、コンテンツの受け手としては理想の姿であるとさえ思う。

 だが、ハジメは活動1年を通して全くと言っていいほど成長しておらず、むしろ後退しているとさえ言われる状況で、視聴者の活動も今のところ何も実を結んでいないと言えよう。そうした状況に焦れて、ハジメがさらなる炎上騒動を引き起こすことを期待するようになっている者も見受けられるようになってきた。そのような負の感情に流れてしまうのは決して理解できないことではないが、炎上を起こして欲しくないのに炎上を期待するようになってしまっては本末転倒である。

 こうして考えてみても、やはり地道に訴えていくほか道はないのであろう。「やさしい世界」はまだ生まれたばかりで発展途上だし、ハジメが引き起こす問題はひとつひとつをとりあげてみれば、別の誰かが引き起こしてもおかしくないものであり他人事ではない。本記事のような情報が共有されることをきっかけにして、「やさしい世界」の問題点が解決されるようになれば、VTuber界隈はさらなる発展を遂げることも可能になるだろう。

 注釈

※1 あえて多くは語らないが、他の炎上を経験したVTuberでも賛否両論と呼べる程度だったり「運営の責任であり演者は悪くない」といった擁護をされたりするが、それらと比べても極めて特殊な事例と考える。
※2 電脳少女シロのファンのこと。
※3 バーチャルYouTuber四天王のこと。一般にキズナアイ、ミライアカリ、輝夜月、電脳少女シロ、バーチャルのじゃロリ狐娘元Youtuberおじさんのねこます氏の5人を指す。
※4 念のため伏字としたが、もし知らない読者がいれば各々調べてもらいたい。
※5 加藤純一はにじさんじ一期生との共演経験も複数回あり、配信経験も多いはずのハジメが名前すら知らなかったというのは驚愕に値する。
※6 そもそも凸者の名前の読みはTwitterIDで検索するなり直接読みを訊ねるなりすれば配信する前に分かったはずである。
※7 スーパーチャットやスポンサー機能によって金銭の支払いが発生している場合もあるが、視聴自体は無料であるという意味である。
※8 「謹慎制度ってまだあるのかな」と発言したライバーもいるとの話もあり、現在も残っている制度かは不明である。
※9 にじさんじがいくつかのグループ分けがされていた頃にはグループ間でのコラボに制限が加えられていたという話はあるが、統合後はその制限もなくなったものだと思われる。
※10 ただし、その半数以上はすでに引退状態であるというデータもある。

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