見出し画像

窪塚洋介さんにポジティブチューニング全開にされた話。

「国境線なんて俺が消してやるよ」 

   映画『GO』(2001年)を見たことはあるだろうか?
 在日韓国人の高校生を窪塚洋介さんが演じたテンポ抜群のかっけえ映画。日本で生まれ育ち、日本人と見た目は変わらないし、日本語を話す。ただ国籍が違うだけ。日本に現存する在日差別に真っ向から切り込んで描いている。なのに説教臭さがない。両親役を山崎努と大竹しのぶが演じ、ガッチリと脇を固め、恋人役は柴咲コウ。「これは僕の、恋愛に関する物語だ」と言いながらも、窪塚くんは血筋に絡みつく偏見にドロップキックを喰らわせる。胸ぐらを掴み問いをぶつけてくる。「自分はナニモノだ」という誰もが抱く疑問を軸に、熱いメッセージの数々が溢れている。脚本は宮藤官九郎様。スカッと人権を深く味わえる名作である。
 葛藤を乗り越え「ぶち破れそんなもん!!」と窪塚洋介さんが叫ぶ姿を、どうしても生徒に見せたい。憲法14条「法の下の平等」の学習を踏まえて、中学3年生全体で 映画「GO」を鑑賞する時間を作った。
  男子中学生270人が集まった講堂での上映会。窪塚くんが柴咲コウと恋におちる場面でヒューヒュー言ってみたり、ボクシングの達人の父(山崎努)の行きすぎた愛の鉄拳で窪塚くんが、バスン、バチンと音を立てノックアウトされる姿に講堂が揺れていた。シェイクスピアの「名前って何?薔薇と呼んでいるその花を別の名前に変えても美しい香はそのまま」。そんな投げかけに静まり返って考えてみたり、映画の熱量に負けない熱量で生徒たちと味わった。ネトフリもアマプラもなかった20年前。皆で映画を楽しみ共振できた。「今も、あの映画を見せてもらったことを覚えています」と語ってくれる卒業生は多くいる。 

文化祭社会派マジモノ企画NODU

   2003年3月。妻と娘を18歳の少年に殺害された遺族・本村洋さんと死刑制度を考える授業を受けた生徒たちは、【他者の苦悩に迫ることで得られるもの】を感じ取っていた。その中の4名の生徒たちと「文化祭で社会派マジモノ企画」をやることになった。
 https://note.com/tatsuaki_yoda/n/n140521e620da

 20年前の話である。2001年に9.11テロがあり、2003年はイラク戦争に世界の関心が集まっていた。フランスやドイツなど国際世論が武力行使に強く反対する中、ブッシュ政権は「イラクが大量破壊兵器を開発している」として戦争に踏み切った。連日のニュースに、平和を切望する空気が社会に溢れていた。

白血病に苦しむ少女サファア/フォトジャーナリスト森住卓さん撮影

世界の自分と同い年の子って、<今>何してるんやろ?

 そんなことを考えていた20年前の2003年の春。4名の高校1年生が取り上げたのは「劣化ウラン弾」である。湾岸戦争後のイラクの写真を撮り続けているフォトジャーナリストの森住卓さんの存在を知った。<中略>
https://kyoto-muse.jp/photo/139634 
 「自分は当たり前のように毎日生きているけれど、イラクの子供たちはいつ死ぬかもわからない状態で過ごしている。白血病で苦しむ少女サファア、脳みそが飛び出した状態で生まれてくる赤ちゃんがいる。【この子たちは何か悪いことをしたのか?】と叫びたくなる自分に気づきました。
 そして文化祭で、劣化ウラン弾を取り上げようと思いました。劣化ウラン弾とは「発電所の核兵器」、つまり原発で出た「核のゴミ」を爆弾にしたものです。原爆のような核兵器ではありませんが、劣化ウラン弾が投下された地域では白血病や無脳症の子供が異常に多く見られるようになりました。日本で広島や長崎の原爆の傷跡が今も残るように、今も多くの悲しみが広がっています。」
                          「NODU第1号」よりH.Hの文章より抜粋
 
 フォトジャーナリストの森住卓さんの「生まれたばかりの無脳症の赤ちゃん(サダム産科病院・バグダッド)」は、こちらに掲載されています。ショッキングな写真ですので、注意してご覧ください。
https://kyoto-muse.jp/photo/139614 

生徒たちがNODUを企画した会議メモ

脳が飛び出した赤ちゃんが生まれてきた意味

 生まれて30分しか生きることのできなかった無脳症の赤ちゃん。その写真に衝撃を受けた。生徒たちはフォトジャーナリストの森住さんの講演会に出向き、インタビューを行った。
 「この無脳症の赤ちゃんは、自分がどういう状況にあるとか、そんなこともわからないままに生命を終えました。そこにはちゃんと、生まれてきた意味っていうものがある。その子が生まれた病院の医者は、この子はこういう現実が起こっているという事実を伝えるために生まれてきたんだ、と言った。」  
                            「NODU第1号」よりF.Yの文章より抜粋

 この森住さんの言葉を聞いて、生徒たちは「赤ちゃんが生まれてきた意味を感じ取り、あらゆる手段をもって、劣化ウラン弾を取り上げていきたい」「怒れ!こんな世の中にした大人たちに怒れ!」との決意を示した。
 「NODU」が始動した。イラク戦争の是非を超えて、(湾岸戦争で米軍が用いた)劣化ウラン弾(DU Depleted uranium)による被害を伝える企画を文化祭で行うことになった。森住卓さんの写真展を行うことも決めた。どうすれば多くの人に劣化ウラン弾の問題を伝えることができるのか?
 当時、坂本龍一さんや女優の東ちづるさんなど著名人の方々が平和や戦争に関して意見を発信されていた。中でも俳優の窪塚洋介さんはHP上で戦争について独自のスタイルで意見を述べられていた。窪塚さんにこんな手紙を送った。

文化祭通信「NODU」Vol.2

NODUを広げるために、著名人にメッセージを依頼。

 窪塚 洋介様
 突然のお手紙失礼致します。
 はじめまして。僕たちは文化祭で劣化ウラン弾の問題を多くの人に伝える企画をしています。窪塚洋介様に文化祭にメッセージを寄せて頂きたいと思い、お手紙させて頂きました。
 …森住卓さんが撮影された、白血病で苦しむ少女サファア、脳みそが飛び出した状態で生まれてくる赤ちゃんの写真に衝撃を受けました。自分たちは赤ちゃんが生まれてきた意味を感じ取り、伝える義務があると思いました…
 「自分で自分にウソをつけない。敵は己の中に 未来はこの手の中に ピース」
と、窪塚洋介さんはおっしゃっておられますが、自分たちが文化祭で劣化ウラン弾について伝えても現実には、劣化ウラン弾を止めることはできないだろうし、白血病に冒されているサファアを救うことも無理ではないかと思います。
 けれど、それが窪塚さんのいう「敵は己の中に」ということだと思います。事実に目をつぶったからといって、事実がなくなるわけじゃない。写真に悲しんだ自分にウソをつかずに、行動を起こしていくことで、きっと未来は良くなるとおもうのです。「未来はこの手の中に、ピース」というのは、このような意味なのかと思いました。
 文化祭通信「NODU第1号」を読んだ感想でも、僕たちの文化祭での活動についてのコメントでも結構です。また劣化ウラン弾によって、脳のない赤ちゃんが生まれてくるという不条理をどう思われるのか、でも構いません。窪塚さんのような方が、何かメッセージを寄せて頂けたら、なにか現実を動かす力になると考えました。                     第5企画部「NODU」

ポジティブチューニング全開で!!<窪塚洋介さん>

 2003年8月。祈るような気持ちで出した手紙に、便箋3枚の長文の直筆メッセージが届いた。嬉しすぎて震えた。手紙を握りしめて、グランドでサッカーの練習中だった生徒たちのところに走って伝えたことを覚えている。

窪塚洋介さんからの直筆メッセージ

 会ったことも無い高校生の気持ちにしっかりと応えていてくださた熱い直筆のメッセージにどれだけ心が震えただろう。窪塚さんからのメッセージに生徒たちはこう書いた。
 「大勢の死者」という言葉を聞いたり、その被害の様子をテレビで見ても、ただ「かわいそうだな」とか「ひどい」とか、そういうことを一瞬感じるだけで「所詮、自分たちのできることなんて、たかがしれてる。やってもどうなることでもない」そう思ってしまいます。そう思ってしまう僕たちにポジティブに行動してほしいと思って、
 宇宙はドデカイでぇ、
 もっともっともっともっと広い世界を見ようよ、
 ポジティブチューニング全開で
 「命」を愛と感謝でいっぱいにしよう、
 それは最高にカッコいいことだぜ、

 って書いてくださったんだと思います。
 NODUの取り組みに対しては、窪塚洋介さんだけではない。女優の東ちづるさん、アグネス・チャンさん、池上彰さん、坂本龍一さん、橋本龍太郎元総理と続々とメッセージが届いた。文化祭では通信「NODU」や写真展示で劣化ウラン弾の使用禁止を訴えた。「鶴を折ってもらい翼にNODUと記してもらう運動」も行った。学校内だけでなく学校外にも呼びかけて、39,214羽の折り鶴が集まった。

平和を願う気持ちを世界に伝えるって何だ。

   文化祭は終わった。イラクでは依然として戦闘が続いていた。
 そんな折、アッバースくんというイラクの少年が、白血病の治療で名古屋大学病院に来ることを知った。彼はイラクのバスラで生まれ、父が湾岸戦争で劣化ウラン弾を浴びたという。NODUにかけた思いを伝えたい。生徒たちと名古屋に行くことになった。
  アッバースくんに、自分たちの気持ちを綴った手紙を用意した。しかし、日本語も英語もわからない少年に自分たちの気持ちをどうすれば伝えられるのか?どうしたらいいのか?行き詰った。

  ここで、アラビア語に手紙を翻訳した生徒が現れた。聞けば中東に住む日本人を見つけ出し、事情を説明し翻訳できる人を探し出してもらい、Faxでアラビア語訳を送ってもらったという。この写真は、私に喜色満面で見せてくれた、開くと折り鶴が飛び出すように細工された手紙である。

白血病の治療で来日していたイラクの少年に送った手紙
自分たちの気持ちをアラビア語で綴った手紙

 ある生徒がこう書いていた。
 「色んな人に鶴を折ってもらい、そこにNODUと書いてもらう。その折り鶴をイラクに届けたい…。本当にこの活動に意味はあるのか?という不安はずっとありました。だけど、自分をこの地球に住む1人の人間として考えれば、一人一人の意識が変わることはとても重要なことだと思います。
 「自分が変われば、世界は変わる」by窪塚洋介さん
 一人一人の意識が良い方向へ変わることで平和の砦は築かれるのだと思い、そうなることを願います」

 教師である私自身が冷笑主義に食い破られそうになる。こんなことしたって、戦争は止めることはできないだろ? 折り鶴にNODUの祈りをこめて、それがアメリカに伝わるのか? 日本に来た1人のイラク人の少年に手紙を託すことに、どれほどの意味があるのか? 論理的に考えたらシニシズムに食い破られてしまう。
 その年に、生徒から届いた年賀状を今も大切にしている。

 楊田先生
 あけましておめでとうございます。この年賀状は元旦の朝に書いています。遅くてごめんなさい。2003年はいろいろなことにチャレンジした年でした。特に文化祭のNO DUでは戦争の悲惨さを劣化ウラン弾を通して知ることができたし、いろんな人たちに伝えることもできたと思います。と同時に、たくさんの人たちに支えてもらったこと、本当に感謝しています。
 下にある詩は、谷川俊太郎氏の詩「朝のリレー」です。時間、国境を超えて「朝」がリレーされるこの世界では、いまだに争いが繰り返されています。今年こそ、その愚かさに世界全体が気付けばいいですね。2004年は去年よりも素晴らしい年になることを心から願います。ではでは。

朝のリレー

谷川俊太郎

カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は 柱頭を染める朝陽にウィンクする
この地球では いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

生徒から届いた年賀状「朝のリレー」

 何もできないと冷笑するのではなく、「僕らは朝をリレーするのだ」と言える感性こそ爽やかだ。そんな市民性を生徒から教えられた。
 米国の社会学者リースマンは「真の教育とは、“科学の中に詩”を、“数学の中に美とエレガンス”を感じる人を作り出すことだ」と述べた。シニシズムに食い破られないためには論理性だけでなく、アートの想像性も必要不可欠なのだ。

あれから20年。NODUを振り返った。

   文化祭NODUの取り組みから20年前。「引っ越しの度に思い出します。断捨離を何度しても、思い出のアルバムは処分しても、死刑制度とNODUの冊子は手元に残しています。自分のルーツを辿るうえでのキーアイテムだからだと思います」と書いてくれた柿本康治くんに、振り返りをお願いした。

Q.文化祭企画「NODU」を振り返って、覚えていることがあれば、教えてください。またnoteを読んで思い出したり、感じたことを詳しく教えてください。
 夜に観た2001年のアメリカ同時多発テロ事件の映像は衝撃的で、身近な平和が大きく崩れる瞬間を目撃してしまったようで、布団に入っても頭の中はグルグルとまわり続けていました。2003年イラク戦争が始まる前後、国内外の著名人が表明する反戦メッセージに共感を覚えながら、起こしていたアクションは平和を願う証としてのチャリティのホワイトリングを腕に着けるくらいで。そんなときに楊田先生から劣化ウラン弾について教わり、見せてもらった森住卓さんの写真をとおして、目を背けたくなるような被害の現実を知りました。
   劣化ウラン弾という切り口と、文化祭に向けて示された道筋が無ければ、ニュースをぼんやりと眺めるだけで行動を起こせなかったはずです。内なる感情は渦巻いていても、あまりに大きすぎる国際社会の問題に対して、自分にできることは見つからなかったのです。
    一人ひとりのアクションは小さくとも、連なれば世界を変えられる。活動中は著名人から届くメッセージに背中を押されながら、そう信じて突き進みました。今でも覚えているのは、文化祭での写真展の感想として書き残された「継続は力なり」というメッセージ。目の前で生徒の保護者であろう来場者が感想を書いて、「続けることが一番難しいから、どうかがんばってほしい」と私たちに話しかけてくれました。ですが、文化祭の終了とともに活動はひと区切りとなり、結局その後は大学生、社会人になっても、何か戦争や劣化ウラン弾に対して具体的なアクションを起こすことはありませんでした。
   怖いもの知らずでいた学生時代。動かなければ何も始まらないと、社会への怒りや悲しみ、不安といった感情を火種にして、必死に知識を取り入れながら想像力をフル回転させて、行動を起こしていました。今の自分はどうだろうかと考えると、どこか冷めている。ネガティブな感情を他者に示したり、共有することをためらっている。身のまわりの平和が保たれるだけで、十分幸せだと満足している。知識を得るほどに頭は冷静になって、心の温度まで下がってしまったのかもしれません。冷静な頭と温かな心。きっとどちらが欠けても、外にある社会に向けたアクションにはつながらないのでしょう。
    イギリスによるウクライナへの劣化ウラン弾供与(2023年3月23日)と、ロシアによるベラルーシへの戦術核配備。そんなニュースを最近耳にしました。数日経ってもいまだに心がざわつくのは、NODUの活動をとおして戦争という巨大な社会問題をほうっておかなかったからです。ずっと活動を続けることは困難でも、いつか植えた種は心のどこかで育まれていて、季節を越えて芽吹く。僕らの活動は世界にとっては小さな行動でも、一人ひとりの胸に宿った意思は消えずに、大切にしまわれています。

文化祭通信「NODU」vol.2 裏表紙
『QJ Quick Japan』(太田出版/2004年1月発行)

あれから20年。窪塚洋介さんにもう一度聞いてみた。

 2004年1月。生徒が「先生大変です。これ、読みましたか?」と『QJ Quick Japan 52号』を持って、職員室に飛び込んできた。なんと、インタビューで窪塚さんが私たちのことを語っているではないか!!
 「今、イラクで米軍が使った劣化ウラン弾の被害で無能症とか、脳みそのないまま生まれてくる子とか、すごい奇形で生まれてくる子がいっぱいいて、で、その写真を撮っている森住卓さんというカメラマンがいるんです。大阪府の学校の文化祭でその写真を展示して、みんなでそれについてディスカッションしたんです」(P.36) 。窪塚さんは、続けて「脳みそのないまま生まれてくる子が生まれてきたのは、俺たちに怒りを覚えさせるために生まれてきたんじゃなくて、もうそういう子がたちが生まれてこない世界を作るために、その子たちがいるんだと思う」と語っていた。 

 あれから20年。窪塚洋介さんにこのnoteを読んでいただき、メッセージをお願いした。再び祈るような気持ちで窪塚さんの事務所にメールでお願いした。快諾を頂いた。しかも 窪塚洋介さんから直筆メッセージが届いた。

窪塚洋介さんからのメッセージ(2023.06.05)

変わらぬ熱い思い  時空を越えて癒しと刺激 頂きました

 「さすが、キング」「顔も心もイケメンすぎる」。今は35歳になった教え子たちから、歓喜爆発、高校生のように興奮した言葉でLINEは溢れた。
  20年前も今も、窪塚さんはそうだった。ウクライナや香港など、世界のどこかで苦しむ人がいる。なんとかしたいという気持ちが沸き起こる。冷笑主義なんて知らねぇよ。一人ひとりの胸に宿る平和を願う気持ちや感謝にまっすぐになる。ポジティブチューニング全開で言葉にすることが大切なんだ。
 窪塚洋介さん。本当にありがとうございました。


このnoteを読んでくださった方へ。ご意見・ご感想を聞かせてください。
https://forms.office.com/r/K4xhqrCNcY


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?