絶対リターンかIRRか?

仕事柄、よく起業家の方にVCはどれくらいのリターンを求めているのですかと聞かれるのですが、投資ステージによっても全然異なるのですが、シリーズAの投資を専門とする私しては、最低10倍のリターンとお答えしています。仮に1億円の投資した場合に、10億円のリターンは必要だよということです。

昨今IPOまでの期間が長期化しているので、仮にIPOまで8年かかるとすると、10倍のリターンで、IRRベースで約33%になります。グローバルで見ると、機関投資家がVCというアセットクラスに求める一般的な期待リターンが約30%なので、それに準じている感じになります。

もちろん全てが上手くいくわけではないので、実際には、20-30倍程度以上のリターンを出すものも複数必要になってきます。ちなみに、私の個人的な過去5年のトラックレコードいいますと、一番低いIRRで4%、高いところで200%超で、中央値でみると70%くらいになります。結構ボラタリティが激しいものですね。

ここまで書いておいてなんですが、実は、一般的にGP(ファンドの運用責任者:General Partnerの略)は、IRRにそこまで固執していません。
なぜならば、GPのインセンティブは、IRRに紐づいているのではなく、リターンの絶対額に紐づいているからです。

具体的には、仮に50億円のファンドを運用したと仮定して、10年で200億円にしたとします。
この場合のGPに入るインセンティブは、(200-50)×20%=30億円になります。これをIRR観点でみると10年で4倍ですので、IRRでは約14.9%になります。同じ50億円のファンドを7年で150億円にしたとします。この場合、GPに入るインセンティブは(150-50)×20%=20億円になります。
IRR観点でみると7年で3倍なのでIRRは17%になります。
*GPの成功報酬は、キャピタルゲインの20%が相場です

上記のとおり、VC的には、IRRよりもリターンの絶対額が増えることを志向しますので、時間がかかっても(ファンドライフは通常10年の期間で、延長2年というのが一般的です)大きなリターンを得ることを狙っていきます。
逆にファンドの出資者(LP:Limited Partner)からするとIRRが高い方を志向します。何故なら、早く回収できたら、その分を他のより有利な運用先にお金を回すことができるからです。
(ちなみにここでいっている出資者は純粋にリターンのみを求める金融投資家を指しており、事業会社のような事業シナジーを求めるような出資者は想定していません)

ここにGPとLPとの間に微妙なコンフリクトが生まれます。
もちろん起業家にも影響が出るわけで、VCが短期志向のEXITを求めるようになると、Jカーブの深い、いわゆる“掘る”ビジネスは、やりにくくなってきます。もちろん、LPがGPの投資・回収方針に関与することは、原則的にはありませんので、コンフリクトが表面化することはあまりありませんが、起業家の人にとっては、こういう背景があることは知っておいてもいいかもしれません。

では、VCは本来通り、長期志向で大きなリターンを狙っていけばいいのかというと事はそれほど単純ではありません。
というのは、我々のようなVCのファンドマネージャーは、平均3-4年ごとに新しいファンドをレイズしていくというビジネスサイクルになっています。ファンドレイズをする際に、LP候補から、
「前のファンドのパフォーマンスはどうなっているのか」という質問を当然受けるのですが、その際に、「非常に順調に成長していて、未実現利益ですが、〇〇億円あります」というのと、「非常に順調に成長していて、既に実現利益も〇〇億円出ています」というのでは、全く説得力が違ってきます。みな、頭では将来、大きなリターンが出るのだろうなとわかってはいるのですが、やはり既にリターンが出ているかどうかは、ファンドレイズの際の引きの強さに響いてくるという現実があります。実際に、前のファンドの〇〇%回収出来ていないと、次のファンドには出資しないという方針のLPもいます。

以上をまとめると、VCの志向としては、リターンの絶対額を目指すものの、ファンドレイズの観点から、タイミングによっては、一部の長期的に見込まれる大きなリターンの可能性を捨てて、短期の確実なリターンを得ることを志向することもありえるということです。

もちろんLPの方を納得させるだけの圧倒的なリターンをたたき出すことが最も重要なのは言うまでもりません。そうすれば、時間コストを超えてIRRが高くなるわけですので。

一方で、起業家の方の立場からすると、上記のVCの行動原理を知っておいた上で、いつ設立されたファンドなのか、設立して何年くらい経っているによって、自分達のEXITの際にも多少なりとも影響があることを知っておいても損はないと思います。

VCのEXIT戦略というのは、上記も含めて結構深いので、それはまた別の機会にでも書きます。

長文読んでいただき、ありがとうございました!

*かなり簡略化して書いているので、誤解を招く表現もあるかと思いますので、何かあれば直接ご指摘ください!

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Tatsuo Tsutsumi

ベンチャーキャピタリスト/STRIVE 代表パートナー

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