売出か?長期保有か?

間もなく上場するとある会社の売出の殆どを既存のVCが占めているということについてツイッターで話題になっていたのを見て、私なりの考えをお話したいと思います。

ツイッター上で議論になっていたことを簡単にまとめると、
「売出の95%がVCって、そもそもこの会社の将来がないと見ているのではないか」という意見に対して、上場経験者等からは、「そんな単純な話ではない!」という反論があったりしていました。

上記について私の考えは、“どちらも正しい。どの立場で見るかによって変わる”ということです。

先ず、起業家・経営者の立場で見てみましょう。起業家からすると、上場後のVCというのはなかなか厄介な存在であります。VCが運営するファンドには、ファンドライフ(ファンドの運用期間)というものが決まっているので、いつかは必ず株を売却しなければなりません。ゆえに、もしそれなりのポーションを持っているVCが、上場後も株を持ち続けていると、将来の売り圧力となってくるわけで、出来るだけ早くそのポーションを長期的に保有してくれる投資家に持ってもらいたいというのが本音であります。
一方でVCとしては、上場後、初値がつき短期的に株価が上がっていくことはある程度は見込めるので、本来であれば、売出に応じるよりも上場後に相場を見ながら市場で売却してく方がリターンは増える可能性が高まります。
では、何故、売出に応じるのかというと、株式市場おいて、いい投資家(長期的に保有してくれる機関投資家等)に株式を保有してもらうためには、一定程度の流動性を確保することが必要なのですが、公募だけでそれを賄おうとすると経営陣の持分比率に結構の希薄化が生じてしまうため、既存株主からの売出が求められてくるのです。それでもあまりにも安い公募価格だとVCも売りたがらないのは当たり前なわけで、今回のケースのようにVCがほぼ売出に応じているということは、逆に言うと、VCもそれなりのリターンを得られているということになります。これは経営者及びCFOが主幹事証券との交渉や機関投資家とのコミュニケーションを通じて、適正に期待値を上げていき、高い評価を得た結果であり、VC側もある程度の納得感を持って売出に応じるわけです。それが出来るということは、極めて優秀な経営者、CFOであり、正しいIR戦略を持っていたといってもいいと思います。

一方で、逆のケースもあります。日本ではそれほど多くはないですが、VCが上場後も株式を持ち続けているケースがあります。上場前から“中の人”として、その企業や経営者を熟知しているがゆえに、上場は単なる通過点であり、中期的に成長をして株価が今よりも上がるのは確実だから株式を保有し続けるというパターンです。実は、これは私が20年以上前に、大学院時代に研究していたテーマで、「ベンチャーキャピタルのお墨付き効果」
というものです。中のことをよく知っているVCが継続的に持ち続けるというシグナルこそが、長期の株価形成に役立つというものです。これは起業家とVCの信頼関係があるからこそ出来るものであって、ある意味での理想のケースなのかもしれません。今回のケースを批判的に捉えている人は、無意識のうちにこの「ベンチャーキャピタルのお墨付き効果」を前提に考えていると言えますので、冒頭のような批判的な意見を持つのもわからなくはないです。

このように、IPOのタイミングでVCが保有株式全部を売り出すとか中期的に保有し続けるのは、どちらも経営者とVCとの関係性(力関係や信頼関係)や、VCのEXIT戦略に依存するものであり、どちらが正しいということではないというのが、私の考えです。

別の観点では、そもそも公開市場については素人のVCがマーケットリスクを取るべきではないというLP(Limited Partner:ファンドの出資者)目線での見方もありますし、VCのファンドのコンディションによってEXITの仕方も大きく異なるわけなので、上記の2点の考え方だけでEXITスタンスが決まるものではないことは、お伝えしておきます。

いずれにせよ、VCのEXIT戦略は、IPOにしろMAにしろ奥が深いというか面白いので、もう少し頭の中が整理出来たらまたnoteにでも書いてみようと思います。


*結構簡略化して書いているので、何かご意見・ご指摘あればメッセお願いします!

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