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「一次情報」を超える「二次情報」を〝編集〟する-新聞記者の情報収集メソッド・初級編-

情報は誰かの〝解釈〟を経て、再び発信されるとき、必ず加工される。

我々が普段触れている情報はほとんどが二次情報、あるいは三次情報だ。

テレビや新聞が報じるニュースはすべて、二次情報。社会のどこかで起きた出来事(=一次情報)が、取材・執筆というフィルターを経て、二次情報として世の中に拡散される。そのトレンドを追いかけた個人コンテンツは三次情報に過ぎない。

情報は、情報源に近ければ近いほど価値がある。一次情報にアクセスできない人間は、Twitterに転がる三次情報、四次情報に消耗していく。

報道機関が備える一般人や新興のwebメディアに対する参入障壁は、情報源が常に一次情報であること。そして、新聞記者は二次情報でありながら一次情報と同等以上の価値を備えた情報を〝編集〟することができる

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今回のnoteでは、一次情報を超える二次情報の収集・編集方法を、つらつらと書いていく。興味があるなら読む前にいいね(スキ)を、読んだ後は拡散してくれるとうれしいです。

「後で読もう」で〝積みnote〟になっても寂しいし、反応が悪かったら需要がなかったということで削除します。もしくは気分で有料にする。

2019年10月1日
有料にしました。

ニュースって何?

ニュース(news)1 新しく一般にはまだ知られていないできごとや情報。「ニュースが入る」「ビッグニュース」2 新聞・ラジオ・テレビなどでの報道。「ローカルニュース」(出典 デジタル大辞泉 小学館)

ニュース(news)社会で起きた日々の事件,できごとのうち,ジャーナリズムによって公表される情報。ニュースは,無限の事実・できごとのなかから,マス・メディアの送り手であるジャーナリストが選び出し,価値づけをして,受け手である読者・視聴者に伝えられる。その場合判断の基準とされるのがいわゆる〈ニュース価値〉だが,これはジャーナリストたちの間に潜在する共通感覚であって,客観的に明文化することは困難である。従来,経験的にあるいは理論的にニュース価値の内包についてさまざまな定義づけが行われてきた。(出典 世界大百科事典 平凡社)

ニュースの重要性を左右する〈ニュース価値〉は定義されていない。我々マスコミの人間は、個別の事案についてニュース価値の有無を判別することは可能だが、ニュース価値を見分ける指標は持ち合わせていない。「新しく」「まだ知られていない」事象を明確な基準にあてはめることは難しいのです。

〈ニュース価値〉の判断は肌感覚。普段から世の中の出来事にアンテナを張って、経験則でニュース価値を判断するしかない。

新聞記者の情報収集

記者は頭の中からニュースをひねり出さない。常に自分の外側に記事のネタを求める。書き手の主観や予想を排除し、裏付け・根拠を示す。

記者にとっての情報収集って、ようするにニュースのネタ集め。世の中に溢れる情報から、ニュースを見出す。

ニュースを大雑把に分けると2種類。

1.行政、捜査機関、大企業などから発表されたもの2.記者が独自につかんだもの(独自ニュース)

2.はいわゆる特ダネ。

記者は特ダネにつながる情報を収集し、それらを取材によって裏取り・意義づけする、といった加工を経てニュースが完成する。

これはさらに細分化すると、

2−1.意図的に隠されている事実2−2.一次情報自体にはニュース価値がない事実

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独自ニュースは、報道という二次情報でありながら、一次情報と同等の価値を備えている。

2-1.は、正規ルートでは一次情報にアクセスすることができない。
2-2.は、単体では価値のなかった一次情報が、報道機関に意義付けされたことで社会的に意味を持った情報となる。編集された二次情報が一次情報の価値を担保する。

2-1.意図的に隠されている事実を知るために支えるのは、警戒されている相手との人間関係を構築し、情報を得る技術。情報収集メソッドの上級編。

今回取り上げるのは2−2.一次情報にはニュース価値がない事実。誰も気づいていないニュース価値を見逃さず、適切な編集を加えるための情報収集・編集について。

誰にでもアクセス可能な情報の中から、どのようにニュース価値が見出され、編集されるのか、実例を2つ紹介する。

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一次情報を積み重ね、意義づけする

とある地方都市。駅から道を隔てた駅前大通りの左折レーンには、いつも車線変更禁止区間ぎりぎりまでタクシーが2〜3台並んで客待ちをしている。車で走行する際は、禁止区間で車線変更しなければ左折できない状態になっている。駅では当たり前の光景だった。

ある記者が、飲み会を終え、その場所でタクシーを拾った。タクシーの目の前は車線変更禁止エリアだ。駅前にはタクシープールがあり、そこにもたくさんのタクシーが並んでいる。運転手に道を指示しながらふと尋ねた。

「ここって、本当に客待ちしていい場所なんすか?」

運転手は困ったように「ダメなのかもしれないですけどね、でもみんな並んでいますし」。

(交通ルール上は間違ってるということだろうか?だとしたら、取締りを受けることはないのか。他にも待つ場所はありそうだが)

疑問が残ったので先ほど指示した自宅の住所を取りやめ、タクシーを適当に走らせてもらった。しばらく会話をしていると、本来は客待ちしてはいけないかもしれないが、みんながそこで客待ちをしている。注意を受けたこともないし、自分だけがそこを使わないわけにもいかないと気まずそうに話してくれた。

翌日以降、記者が県タクシー協会へ取材すると、平成14年の規制緩和で新規参入が増え、街の特性から全国でも有数のタクシー都市になったという経緯が判明。市役所への取材で、増加後に一時期タクシー乗り場や客待ち場所を増やした名残で現在もタクシーが停まり続けていることが分かった。県警本部も、こうした背景から積極的な取り締まりはしていないと回答した。

「タクシーの数が多すぎると問題となっている。住民の足として活躍するタクシーだが、客の獲得競争が過熱化している。黙認によって、駅前大通りでは一般車両が交通違反をしないと左折ができないなどの状況がある」

この点を追及した記事は反響を呼び、市が新規参入を制限し、減車を進めるための「特定地域」に指定される後押しとなった。

駅前大通りにいつもタクシーが停まっているという一次情報自体にはニュース価値はなかった。交通違反の可能性もある、などと書いても「取締りを受けてないなら問題ないんじゃない?」という反論を受けるだけだ。

タクシー協会、市役所、県警の持つ一次情報も、それぞれにはさほど価値はない。しかし、これらを組み合わせ、増えすぎたタクシー問題として意義づけし、その舞台回しとして駅前の状況を切り取った。

独自ニュースとして出した二次情報の記事は、その地域の持つ問題を浮き彫りにした。単体では一見報道する価値がない情報でも、そこから見えてきた事実を積み重ねることで価値ある二次情報を生み出せる。

一次情報では表面化していない情報を読み取る

平成26年12月の衆院選。投開票から一夜明け、何気なくデータを見ていた記者は違和感を覚えた。

小選挙区と比例代表の投票者数に、1000人近い開きがあった。小選挙区だけ投票し、比例代表には投票しない有権者が1000人もいることはありえるのだろうか。疑問を市選挙管理委員会にぶつけ、報じた。

指摘を受けた市選管の調査で、開票所での投票者数の集計時、不在者投票などを誤って二重計上していたことが判明した。実際の票が1000票近く足りない事態に見舞われ、気づいた職員が整合性を図るため、白紙投票を追加していた。

白票の水増しに関与した職員2人は翌年、公職選挙法違反で書類送検された。

白紙投票が増やされただけなので、選挙結果には影響はなかった。データ上は問題なく選挙を終えたことになっていた。そして、票を持ち帰る有権者も実際にいるため、票数が合わないことはありえないことではない。

一時情報である、市選管発表の投票者数のデータ自体にはニュース価値はなかった。しかし、1000人という数に違和感を覚えて、「小選挙区の投票後に、比例代表だけ投票しない有権者が千人近くいることは考えにくい」と情報を編集したことで市選管の不正が発覚するに至った。

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価値ある二次情報を編集するのは最初の訓練

先述の2つの実例。一次情報自体は大きなニュースにはなりえない。しかし、わずかな違和感を見逃さなかったことで特ダネに昇華した。どちらも、マスコミの看板も長年培った情報源も必要ない。気づくか気づかないか、だけだ。

新聞記者はほとんどが入社と同時に地方に配属される。
東京と違って、世の中を揺るがすような事件はなかなか発生しない。毎日毎日あちこちうろうろと出歩いて、街の人と話してニュースのネタを探す。

漁船に乗って操縦桿を握る日もあれば、仮設住宅のバーベキューでひたすら焼きそばを焼くお兄さんになる。ど田舎の集落で聞き込みもするし、町役場と住民のまちづくり会議に参加することもある。

これは、と思う話を拾っても、取材していく過程でほとんどが徒労に終わる。
調べたら事実と違っていた、噂に尾ひれがついたデマだった。裏付けは取れたが、ニュース価値のないしょぼい話だった…。

自分の目で、足で玉石混淆の一次情報を集める中で、特ダネが飛び出すこともある。わけわからないことに巻き込まれて身についた謎知識が、数年経って役立つこともある。

地方の新人記者にとって、一人前になるための最初の訓練だ。

隠された事実を知る

隠された情報を入手する。これは段違いに難しい。

例えば事件なら、捜査状況を知り、特ダネをつかむためには報道対応の窓口である課長や副署長以外の警察官から情報を得る必要がある。捜査員に接触するため、名前や顔、住所を割り出す。夜討ち朝駆け(自宅前で出勤時や帰宅時に接触し取材すること)でやっと会えてもほとんどが塩対応で追い返される。悪天候の下、何時間も待ったのに一言も口を聞いてもらえないことなんてざらにある。

金銭を渡すこともない。相手にとっては記者が特ダネを書いてもひとつも得はない。それどころか、話したことがバレたら大問題だ。

それでも情報を得るには懐に入り込み、「こいつになら書かせてやりたい」「こいつに恥をかかせるわけにはいかない」という義理人情で情報をもらうしかない。

明確なノウハウはない。先輩や上司から聞かされた〝武勇伝〟を頼りに試行錯誤、あの手この手で情報を取りたい相手に接触する。

一次情報にはニュース価値がない事実から独自ニュースを出すのが情報収集の初級編とするなら、隠された事実をつかんで特ダネを書くのは情報収集の上級編だ。

二次情報の編集技術は継承されなくなる?

新聞記者の情報収集方法。初級編はニュース感覚を養成する訓練、上級編は警戒されている相手との人間関係を構築する訓練だ。

マスコミが斜陽となって久しい現在、記者の人数は減っている。今の新人が十分にこうした訓練ができる環境にいるとはいえない。俺は恵まれていた。入社から現在に至るまで、全力で「独自ニュースを書く」ことだけを至上命題に仕事させてもらった。

報道機関が100年間、やってきたことができなくなってきている。明確なノウハウもマニュアルも作られてこなかった。つーか今回分類したのも便宜上で、もうちょっと深く考察できると思う。考え方だけでも、どうにか残せないかなぁ、などと考えている。

ネットの台頭で、これだけ様々なメディアが出てきてもなお、テレビや新聞がある程度の権威性を保てるのは、二次情報でありながら一次情報と同等以上の価値を備えた情報を発信できるから。これをなくしていってしまうのはよくない。

最後に

Twitterでぼやいたら、クレメアさんからこんな返答がありました。

編集者の情報収集メソッドも紹介しておきます。

さらっと書くつもりが長くなってしまいました。

俺にとってこの種のnoteは情報整理と市場調査、ポジショントークです。

普段書いている記事が取材に基づくものであるのに対して、noteは100%自分の頭の中からひねり出す。(あと、たまに大学で学生相手にしゃべったりしてるんだけど、そのときのネタにもなるかなって)

そして市場調査。自分の好きな話を書いて、どんなネタがウケるのかを探っている。有料マガジンを開始します!とか言いたいけど今登録しているマガジン4つがどれも面白すぎて戦意喪失しました。

最後にポジショントーク。この手の話はさすがに俺にしか書けないはず…。

noteの労力の対価に欲しいものは「反応」です。いいね(スキ)、RT、リプライなど、なんでもいいから反応してくれたらめちゃめちゃ嬉しいです。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

たつのん(@tatsu_note)

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