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『ロックの正体 歌と殺戮のサピエンス全史』発売記念企画!

4月25日に新刊『ロックの正体 歌と殺戮のサピエンス全史』が発売されます。

ロックの正体 歌と殺戮のサピエンス全史 https://amzn.asia/d/eYTW2Gq

これは晶文社スクラップブックに連載したものを大幅に加筆したものですが、

http://s-scrap.com/category/kashiharatatsuro

実は『ロックの正体』にはプロトタイプとなる文章が存在します。
今から4年前、作家にして翻訳家にしてミュージシャンの西崎憲さんの『全ロック史』が発売された時、ビッグコミックオリジナルのコラムのコーナーであるオリジナリズムに「『全ロック史』が遂に出た」というコラムを書いたわけです。何を隠そう、この原稿用紙でたった3枚のコラムが、500枚を超える『ロックの正体 歌と殺戮のサピエンス全史』のプロトタイプなのです。
今回、発売を記念してプロトタイプをnoteで公開することにしました。
『ロックの正体』は、このプロトタイプから晶文社連載に文化進化した後、更に単行本バージョンへと文化進化したので全部読んでくださるとありがたいです。
はい、それではここから〜

「『全ロック史』が遂に出た」

   数年前から刊行が噂されていた『全ロック史』が遂に出た。文字通り全てのロックの歴史である。著者の西崎憲は作家、英米文学の翻訳家として知られるが元々は作曲家であり楽器演奏者としての視点も活かされている。年表と巻末の索引を含めると500ページに達し重量は700グラムを超える大著だ。だかしかしロックの歴史が半世紀を超えた今、それだけの文字数を費やしたとしてもロックの全てを語ることは不可能に近い。たとえ、この三倍の分量があったとしても全てのロックを語り尽くすことはできないだろう。そんなことははじめから承知の上で五年以上の年月をかけて書かれた労作なのだ。ロックについて書かれた本は数多くあるが、個人による全史というのは世界的にも珍しいのではないか。いささか粗雑な言い方になることを許してもらえるならば、20世紀というのは前半が世界大戦の時代で後半がロックの時代だった。ポピュラーミュージックであったが故に、膨大な数のミュージシャンたちだけではなく彼らを支えたリスナーもまたロックというムーブメントの参加者である。多くのミュージシャンたちも元はリスナー、つまりロックの消費者だったのだ。しかもロックにはメッセージ性があり、政治や社会問題とも簡単にリンクする力があった。とはいえ、ロックが最も輝いたのは60年代後半から70年代にかけてで、80年代の半ばには一種の停滞期に入る。70年代のうちにニューヨークにパンクが出現し、そのパンクがロンドンに輸入されてセックス・ピストルズが作られ、あっという間に解散する。本書が凄いのはピストルズ以降果てしなく細分化して行くかに見える各ジャンルを細かく追いかけていることだろう。昔からロックを語る言葉はしばしばルーツの探求へと向かう。たとえばローリング・ストーンズのファンはストーンズに影響を与えたマディ・ウォーターズのような黒人ブルースマンの音楽を探し出して聴くし、ストーンズのメンバーもそういったレジェンドたちを顕彰し共演したりしてきた。ロックには常に源流探しの旅が伴うのだが、本書は逆にハードロックからヘヴィーメタルへ、パンクからハードコアへ、更にテクノポップ、グランジへと再生産を続けながら拡散し細分化してゆく道のりをロック本らしからぬ静謐な文章で描いている。この終わりなき細分化を追いかける著者の旅は、それと同時にロックが持っていた神話をも解体してしまう。本書の終盤で西崎はこう書く〈確かにロックと反抗については茶番であったと断言してつぎに進むべきだろう〉と。ロックが反抗の音楽だったことも、今の若い人には順序だてて説明しないと理解してはもらえない時代が来た、ロックは今や老人の音楽なのだ。だがしかし文化は常に進む。この文章を書きながら僕が聴いていたのは民族楽器とホーミーで武装したモンゴルの匈奴ロックThe HUだった。ロックはまたしても新たなる扉を開いている。

以上、20世紀の前半が世界大戦の時代であり、後半がロックの時代であったという話は既にあったわけです。そこに進化心理学やら哲学的自然主義やら文化進化論やら、色んなものをぶち込んだら500枚を超える分厚い本になったのでした。

文責・樫原辰郎

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