見出し画像

能「皇帝」に思う事 その10

面(おもて)の照り・曇り

能面の事を面(おもて)という。能面は角度によって表情を変える(様に見える)事ができる仮面である。

面には「受け」というのがあって、それは能面の角度で決まる。一番ニュートラルな角度を基準として、下を向くと「曇る」、上を向くと「照る」という。一般的に曇ると表情は曇り、照ると表情は明るくなる。

これは現代の「能楽ワークショップ」における能面の解説の中でも最も“一般的な”解説方法だ。上記のショート動画で一度ご確認頂きたい。

蝋燭の灯りに照らされた能面

2018年の秋、ヴィラ九条山のスタジオでシモンとバンジャマンと、灯りを消した部屋の中にいた私は、蝋燭の灯りで能面を照らしながら”一般的な”解説をいつも通りに始めた。しかし能面の表情はその解説とまるで”逆の変化”を見せたのだった。その後、色々試して分かった事は、光源の方向によって能面の表情は違った変化を見せるという事だった。

この表情の変化を見た時に一つ思い出した光景がある。それは夏の怪談話をする人が下から懐中電灯の光で顔を照らす光景だ。おそらく容易にイメージできる人が多いと思う。

野外の能と篝火、そして能面の表情

このシリーズ、能「皇帝」に思うこと その5で述べた通り、五番目の切能物の上演時間には篝火が焚かれる事がイメージできるのだが、その光源も能面より低い位置から来るもので、その照明効果には暗闇との相乗効果が期待できる。

能面のある種類には眼の部分に金具を施したり、金泥(きんでい・膠と金を混ぜたもの)を塗ったりするものがある。これも”一般的”な説明では「人間ではない役」を演じる時に使う、と言ったりする。

この種類の能面を暗闇の中で下からの灯りを使って見るとどうなるか。試しにやってみると上記の”一般的”な説明が、とても深いものだったと分かった。むしろ切能に使われる能面の形状は、下からの光源でより効果的に見える事を前提としたものに思えてくるのだ。

つづく

第八回竜成の会「皇帝」ー流行病と蝋燭ー

令和5年5月28日(日)14時開演

絶賛発売中!
チケットはこちら
https://teket.jp/1133/20033


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?