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【I didn't know I was looking for love until I found you.】

妻と知り合ってから今年の夏で丸10年が経つ。

付き合って2か月で一緒に住み始め、それから1年半後に入籍した二人は、誰も信じちゃくれないが、知り合ってから実は一度も喧嘩をしたことが無い。

(まぁ、お互い、少し不機嫌になった事は何度かある気がするけど)

かつて恋人だった妻は、今では私のよき理解者であり、人生を共に歩むパートナーであり、家族であり、私の一部であり、なんというか、ある意味、私自身でもある。

妻と知り合う前、私は具体的に結婚を考えた事が二度あった。最初は神戸の震災の頃、二度目は21世紀に入って少し経った頃だ。当時の事はもはやはっきりとは思い出せなくなっているのだけれど、どちらもそれなりの交際期間を経てはいたが、些細なことでの交際相手との喧嘩はしょっちゅうだった気がする。

互いの愛情(のようなもの)を押し付けたり、見返り(のようなもの)を求めたり。それが愛するということなのだと当時の私は思っていたのかも知れない。

二度の破局は私の心に大きな穴を残したが、時間と共にいつの間にか塞がり、私はこの先ずっと一人で生きて行くのだろうと思っていた。妻と出会うまでは。そう、時間と共に、穴に落ちない、穴を見ないスキルを身につけていただけで、実は塞がってなんかいなかったのだ。

コーヒーが好きな私、紅茶が好きな妻。
うどんが好きな私、蕎麦が好きな妻。
タバコを吸う私、タバコを吸わない妻。
酒を飲む私、酒を殆ど飲まない妻。

二人の間には、挙げ始めればキリがないほど些細な違いがあるが、そんなのはまるで関係なく、妻と出会った事であっという間に埋まった穴。一人で生きていくなんて思っていたが、無意識ではその穴を埋める女性をずっと探していたのだ。この10年、私が笑顔で、健康で、好きなことばっかりしてこれたのは、間違いなく妻のお陰だ。

そんな幸せな日々に、昨年12月20日、初めて大きな影が落ちた。酒もタバコもやらない妻の左乳房に癌が見つかったのだ。

告知前と告知後。見た目は何も変わらず、自覚症状もない妻。既に埋まっていた年末年始の様々なイベントを、上の空でこなす私。マンモグラフィー、針生検、MRI、CTっと検査は続き、癌の実感なんて何もないまま、ベルトコンベヤーで運ばれるように、今年の2月15日、妻は左乳房を失なった。

残せたかもしれない乳房を全部摘出する事を決断した妻。その決断に至るまで、その理不尽さに、不公平さに、私などよりもよっぽど憤り、悩み、怯えた筈なのに、妻が下した決断は揺らぎない物だった。

癌の診断は間違いでした。

妻にとって一番望ましい、誤診という結果は、医師を変えても出なかった。ならば残された選択肢の中から、ベターなものを選ぶしかない。

癌による死のリスクを可能な限り排除したい。

妻が全摘出を選んだ理由は、言ってしまえばただそれだけの事なんだが、その背景にあるものは、単に自分が死にたくないだけでなく、これからも少しでも長く私と一緒に過ごしたいという願いもあったのだろう。そう、10年前の出会いで穴が埋まったのは、私だけじゃなかったのだ。それだけで、なんというか、私のような屑野郎でも、生まれてきて、今まで生きてきてよかったなぁなんて思う。

この世界において、死は日常からほんとうに上手く隔離されているのだけれど、今、妻を失うことを具体的に想像すると、その穴のあまりの大きさに絶望的になる。

癌を告知した際、医師はこう言った。

「ご主人、これは逆にチャンスですよ。奥さんをしっかりケアし、今までの接し方を見直し、是非、夫婦の絆を深めてください」...っと。

馬鹿を言うな。手術の傷が回復しても、きっとこの先、私も妻も何も変わらないだろう。私はこれからも、タバコも吸うし、コーヒーも飲むし、バイクも乗るし、ドラムも続けるだろう。妻の癌をきっかけにそれら全てをやめてしまうと、妻が好きになってくれた私ではなくなってしまうし、それはきっと妻の望む私の姿ではない。二人の生活がそのように変わってしまわぬよう、妻は自らの意思で乳房を切ったのだから。

これだけの事が起きて、何も変わるまいと決意する事は簡単なことではないのだが、妻の癌をきっかけに変わってしまうと、今までの10年が嘘になるような気がするのだ。

生活の為ではなく、単なる趣味として私はバイクに乗る。ただそれだけで他の人より死のリスクは高いので、私は毎日、今日が最後になっても後悔しないような覚悟で妻と接してきた。恐らく妻もそれは同じ。だから私が何をしても、どこへ行っても、いつも笑顔で私を送り出し、笑顔で迎えてくれていたのだと思う。そう、お互い、出来る事は日々ほぼ尽くしているつもりなので、基本的に、互いの生き方、接し方は変わりようがないのだ。

摘出手術は成功した。が、比較的早期での発見であったにも関わらず、病理解剖の結果、リンパ節への転移が2個あった。念のためにと、医師は抗癌剤での治療を勧めた。二人で随分悩んだが、最終的にはホルモン療法のみでの治療を妻は選択し、その選択を私は尊重した。

術後の説明で執刀医が見せてくれた、ビニール袋に詰められた、手術前まで妻の乳房だった肉塊の暖かさを思い出しながらこのNoteを書いている私の左顎には、実は2年前から腫瘍がある。細胞診の結果、私の腫瘍は良性だと判明したのだが、将来、悪性化する可能性があるらしい。日常生活には何の支障もない腫瘍だし、手術をすると顔面神経に麻痺が出る可能性があるらしいので、出来ることならこのまま放っておきたいのが本音ではあるのだけれど。

ふざけ合って、じゃれあって、馬鹿話をして、ずっと笑顔で。そんな、お互いが居心地いい時間をこれからもずっと過ごす為に。

暖かくなれば次は私の番。ほんま、人生、色々。

I must be stronger.



#乳癌 #手術 #全摘 #腫瘍 #夫婦

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