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Frank Zappa / Zappa In New York

今回はギタリスト、コンポーザーFrank Zappaの傑作「Zappa In New York」を取り上げてみましょう。
1976年12月The Palladium In New York Cityにてライブ録音。翌77年UK発売、78年USA発売。cond,prod,g,vo,)Frank Zappa g,vo)Ray White key,violin,vo)Eddie Jobson b,vo)Patrick O’Hearn ds,vo)Terry Bozzio perc,synth)Ruth Underwood as,fl)Lou Marini ts,fl)Mike Brecker bs,cl)Ronnie Cuber tp)Randy Brecker tb,tp,piccolo)Tom Malone narr)Don Pardo timpani,vibes)David Samuels per-overdub)John Bergano per-overdub)Ed Mann osmotic harp-overdub)Lou Anne Neill
Disc 1 1)Titties & Beer 2)Crusi’n For Burgers 3)I Promise To Come In Your Mouth 4)Punky’s Whip 5)Honey, Don’t You Want A Man Like Me? 6)The Illinois Enema Bandit
Disc 2 1)I’m The Slime 2)Pound For A Brown 3)Manx Needs Women 4)The Black Page Drum Solo/Black Page#1 5)Big Leg Emma 6)Sofa 7)Black Page#2 8)The Torture Never Stop 9)Purple Lagoon/Approximate

発売当時レコード2枚組でリリースされました。後年やはり2枚組でCD化された際には未発表曲が5曲追加され、曲順も変更されています。ここではCDバージョンで見ていきましょう。

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そのまんまの表現です恐縮ですが、笑っちゃうくらいに物凄い音楽です!!カテゴリーとしてはロックの範疇に入るのでしょうか、門外漢なので分からないのですが一大ロック叙情詩、ロックンロール、メタル、プログレ、オペラ、コメディ、ジャズ、フュージョンと様々なテイストを包括した壮大な音楽です。大胆にして繊細、コミカルでいてシリアス、超絶技巧の演奏が実に平然と当たり前のように行われています。The Palladiumのステージには13人が上がり、オーケストラ然としてZappaが指揮棒を振りつつギターを弾き、喋り、歌っています。パーカッションで更に3人がオーバーダビングに加わり、総勢16名がレコーディングに参加しています。Moogシンセサイザーの音色が時代を感じさせる以外は現代の感覚でも実に斬新な音楽です。全曲Zappaのオリジナル、アレンジ、非常に難解なスコアを、ライブにも関わらず全く正確無比にトークやコメディ、寸劇を交えながら難なく緻密に演奏するそのヒップさが堪りません!(実際は綿密なリハーサルを何回も重ねているに違いないのでしょうが)参加メンバーのMichael、Randy のBrecker Brothers(BB)、ドラムスTerry Bozzioの参加に惹かれて友人にダビングして貰った事から聴き始めました。彼らのそこでの出会い、BBの傑作「 Heavy Metal Be-Bop」は Zappa In New Yorkでの共演無くしては誕生しませんでした。

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以前雑誌Jazz Lifeに僕はよく原稿を書かせて貰っていました。Michael Breckerにも新作のリリースや来日の際、本当によくインタビューをさせて貰いましたが、その回数の多さからネタ切れ感もあり(笑)「今までに彼がレコーディングしたソロの名演を聴かせてそのコメントを貰う」という企画を編集部に提案したところ、有難い事に制作会議を通り、2回もやらせて貰えました。素直な人柄のMichaelさん、自分の演奏を聴いた印象を包み隠さず何でもお話ししてくれましたし、レコーディングに纏わる話、ウラ話等実によく覚えているのには驚きました(こちらにもきっと面白い逸話を話してくれるに違いないという目論見もありましたが)。
でもやったこと自体を全く覚えていないNeil Larsenの作品「Jungle Fever」収録Last Tango In Parisの自分の演奏を「ずいぶんと派手なソロだね」と他人事のように話すのには大笑いしました。

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その1回目のインタビュー、10曲ほど聴かせた中に本作収録曲Sofaのコメントがありますので抜粋して掲載したいと思います。

ーあと2曲になりました。こちらはフランク・ザッパ(g,vo)の「ソファ」です。
〜曲をプレイ〜
MB:これはプレイした時以来に聴いたよ。このアルバムのことはいつも人に聞かれていて、聞かないといけないと思っていたんだけど、なかなかチャンスがなかったんだ。やっとみんなが言っている意味がわかったよ。国歌のような感じだね、金星あたりの(笑)。フランクのプレイはとにかく素晴らしい。彼は一緒に作業をしていても、本当に面白い存在だったね。彼自身はジャズのバックグラウンドを持っていないから、ジャズ・ミュージシャンにとても敬意を持っていてくれたね。ステージではふざけていたけど、作曲やプレイに関しては本当にシリアスだったんだ。それだけに共演するミュージシャンには正確さを強く要求した。ロニー・キューバ(bs)のプレイも素晴らしいね。いいレコードだ。今度買いに行かなきゃ(笑)。
ーこれはライブ録音ですよね?
MB:そうそう、NY14番街にあるパラディアムでやったライブだよね。たしかハロウィンの頃だったね(実際はクリスマスの頃)。たしか4晩連続でプレイして、「ブラック・ページ」のような極めて複雑な曲をやったんだ。この後に、フランクが私に「サックスとオーケストラの曲を書いたから吹いてほしい」と、オーストリアに誘われたのを覚えている。結局、私はいけなかったんだけどね。
彼のステージには30メートル近いバックドロップが吊られていて、そこに大きく「くたばっちまえ、ワーナー・ブラザーズ!」と書いて合った。それが4晩ずっとあったんだ(笑)(注:しかもこのアルバムはワーナー・ブラザーズから発売された)。そして、この時、私と兄のランディは初めてテリー・ボジオ(ds)に会ったんだ。彼のプレイに惚れ込んでしまい、私達のバンドに誘って「マイ・ファーザース・プレイス」というクラブで録ったライヴがアルバム「ヘヴィ・メタル・ビ・バップ」として発売されたんだ。そう考えると興味深い1 枚だね。

実に的確で素晴らしいMichaelのコメントです。この時彼はゆっくりと、その場に相応しい言葉を選びながら発言していました。ジャズ・ミュージシャンに敬意を払うZappaの繊細さ、ふざけていながらも音楽的要求には厳しいシリアスさ、ロックミュージシャンらしいユーモアのセンス、そして誘われたオーストリアの仕事はMichaelの代わりに誰が演奏しに行ったのかにも興味が尽きません。
Heavy Metal Be-Bopが録音されるにまで至るプロセスも垣間見る事が出来、インタビューアー、聞き手がどんな事を望んでいるのかをしっかり把握しつつの物言いです。

それでは曲ごとに見て行きましょう。1曲目Titties & Beer、マスクを被り悪魔に扮したBozzioとZappaのトーク、寸劇のためのナンバーです。アドリブの会話も含め、実にシリアスな妄想の世界を演じ聴かせています。ジャズのコンサートでは考えられないような内容のトーク、危なくて猥雑で下世話でメチャメチャですが、とっても大好きです!
2曲目インストによるナンバーCrusin’ For Burgers、前曲から間を置かず演奏されます。それにしてもこれは一体何という音楽でしょうか?人を喰ったようなメロディライン、暴れまくるBozzioのドラミング、延々と続くZappaのメタルギターソロ、Edward Van Halenを彷彿とさせます。マリアッチのリズム、雑多ではありますがZappa流の統一感の美学を感じさせます。
3曲目I Promise Not To Come In Your Mouth、叙情的で繊細なZappaの一面を見ることが出来る演奏です。
4曲目はSophisticated NarrationとクレジットされたDon Pardoによるナレーションから始まるPunky’s Whips。劇伴っぽいサウンドですが細部の構成に拘ったアレンジが聴かれます。何と言ってもメンバーの演奏のクオリティが高いのでしっかりと耳に入ってくる演奏です。Bozzioクレイジーさ、ヤバイです!
5曲目Honey, Don’t You Want A Man Like Me?はZappaのボーカルをフィーチャーしたラブソング、屈折した愛を語るのに相応しいバンドのアレンジが施されています。
6曲目は再びDon Pardoナレーションの登場によるThe Illinois Enema Bandit、この人の語りは全てを正当化してしまう説得力に満ちています(笑)。実話に基づいた強盗の事件を想像を加味しストーリーに仕立てています。リードボーカルはRay White、しかしこいつらは何でこんなにマジにこのネタで演奏出来るのでしょうか?
Disc 2 1曲目I’m A Slime、ホーンセクションのラインが印象的です。Zappaのトークに絡むDon Pardoのナレーション、Zappaのギターソロ、継続的に演奏されるホーンセクションのエグさ、Ronnie Cuberの音がかなり大きく、Michaelはフルートで参加しているようです。
曲続きで2曲目Pound For A Brown、インストによる演奏は8分の7拍子が基本となったプログレ系の曲です。Bozzioのフィルインは変拍子をものともせず本領発揮です。Michaelのテナーの音が良く聴こえるフリーキーなホーンセクションの合奏の後の3曲目Manx Needs Women、この頃から楽器を6万7千番台のSelmer Mark6、マウスピースをEddie Danielsから譲り受けたDouble Ring6番で演奏しており、真新しいラッカーの剥げていないテナーを吹く彼の写真がライナーに掲載されています。そして!そろそろZappa超絶技巧アンサンブルの登場の時間です!4曲目、5曲目のThe Black Page Drum Solo/ Black Page#1の前哨戦、ホーンセクションも大活躍です!The Black Page Drum Soloの打楽器アンサンブルの猛烈な合い具合の凄さから、続くBlack Page#1のアンサンブルは本作の白眉です!ここで聴かれる演奏は人間が織りなす合奏の極致のひとつと言って全く過言ではありません!この曲を大編成で、しかもライブでやろうと言うZappaの精神構造が知れません(汗)。それにしてもこれは多くの人に聴いて貰いたい音楽史上に残る名演奏です!!
5曲目は一転してファンキーでダンサブルなナンバー、Big Leg Emma。
6曲目は前述のSofa、Michaelがいつに無いエグいニュアンスでメロディを演奏しています。
7曲目はZappa自身の解説付きBlack Page#2、#1が難解バージョンだったのに対しこちらはニューヨークのティーネージャー向け簡単バージョンだそうです。僕には全くそのようには聴こえないのですが(汗)。
総勢16名のミュージシャンによる信じられないレベルでの超絶合奏!改めてこの演奏を聴いて、音楽って何て奥が深く、自分が拘っている事が何てちっぽけなんだろう、と思い知らされるくらい物凄い演奏です!!
8曲目The Torture Never Stopsの歌詞の内容はZappaの社会や歴史、世の中に対する負の行いへの抗議のメッセージが込められています。
9曲目ラストを飾るのはThe Purple Lagoon/Approximate。これまた凄いラインから成るインストナンバー。ソロの先発はずっとアンサンブルで温存されていたアドリブ・プレーヤー魂を全開にしているMichael、ここでのBozzioとのやり取りは既にHeavy Metal Be-Bopでの演奏を十分に感じさせます。続くソロはZappaのギター、この人の演奏を聴くたびにロックとジャズギターの語法、ライン、タイムの違いは決定的なのだと感じます。Cubarのバリトンソロ、ベースPatrick O’Hearn、Randyのコーラスをかけたトランペットソロ。Bozzioはジャズミュージシャンと対等に演奏出来るジャズスピリットを持ち合わせていますが、本作他のリズムセクション・メンバーに感じることは出来ません。この演奏の映像が残されていたらさぞかし秀逸なのだろうと思います。

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