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Richard Tee / Strokin’

今回はピアニストRichard Teeの初リーダー作「Strokin’」を見て行きましょう。1978年NYC録音 Tappan Zee Records
1)First Love 2)Every Day 3)Strokin’ 4)I Wanted It Too 5)Virginia Sunday 6)Jesus Children Of America 7)Take The “A” Train
The ”Guys” key,vo)Richard Tee g)Eric Gale b)Chuck Rainey ds)Steve Gadd per)Ralph MacDonald harmonica)Hugh McCracken ts)Michael Brecker ts,lyricon)Tom Scott

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何とゴージャスな音楽でしょう!素晴らしいリズム、ビート、芳醇なサウンド、アメリカの黒人がのみ成し得るグルーヴです!と言ってもいきなり参加ドラムスのSteve Gaddがユダヤ系白人ですが(汗)、TeeとGaddの抜群のコンビネーションはStuff、Gadd Gangなどのバンド共演で生涯継続していました。Gaddのグルーヴには肌の色は関係ありませんね。

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Teeはニューヨーク州ブロンクスで生まれ育ち、教会音楽の洗礼を受け、子供の頃からの尊敬するアーティストがRay Charles、ピアノ奏者としてMotown Labelでの仕事を多数経験していると来れば表現するべき音楽の方向性はおのずと定まります。ピアノをこんな美しく煌びやかに鳴らせて、思わず腰が椅子から離れてリズムに合わせてしまうようなグルーヴ感の持ち主は他にはいません。どっしりしていてスピード感があるのです。そしてピアノソロ演奏も素晴らしいですが、バッキングのフィルインのテイストが半端なくカッコいいののです!初リーダー作Strokin’はTeeにとって満を持してのリリースになりました。
この作品を含めTeeは生涯に5枚のリーダー作を発表しています。彼の膨大なレコーディングの量にしては少ないかも知れませんが、自分が前に出てリーダーを取るよりも、主体を映えさせるために演奏するサイドマン気質が強い脇役タイプのミュージシャンだと思います。水戸黄門の助さん格さんですね(笑)。
Teeの生演奏を初めて聴いたのは78年のNew York All Stars、東京芝郵便貯金ホールのステージです。ホール鑑賞という、条件としては決して良く無い音響なのですが、ピアノの音がよく鳴り響いていたのを覚えています。
前回のBlog「Zappa In New York」の時に抜粋、引用したMichael Breckerの雑誌Jazz Lifeへのコメント、このアルバムの表題曲Strokin’での彼のソロを聴かせ、やはりコメントを貰っていますがこれが実に端的にTeeの音楽性、人柄について発言していますので、今回も抜粋し注釈を加えて掲載したいと思います。

ー次は、リチャード・ティー(key)の「ストローキン」です。
〜曲をプレイ〜
MB:リチャードは教会でゴスペルをやっていただけあって、とてもファンキーなアプローチをとっているけど、それを彼は別の次元まで昇華させてしまっているんだ。あまりにも強烈なスタイルを持っていて誰にも真似をすることなどできないよ。(レコーディングに誘われ)彼が私とプレイしたいと思っていたことは、とても驚きであったと同時に、心から嬉しかったんだ。それは当時の私にはファンキーな部分が足りないと思っていたからさ。でも、彼が私とプレイしたいという気持ちを表現してくれたことによって、とても救われた気がしたね。この曲に関してのソロはとても気に入っている。こうやって聴く限り、リリカルかつ濃密なプレイをしようとしていたように思えるんだ。グルーヴの中にいるんだけど、完全にノってしまうのではない、という感じかな。いろいろな要素をブチ込んで成功したいい例だね。これらの曲はどれを聴いても驚きの連続だよ。というのはこの頃の私の考え方と今とでは完全に変わってしまっているからさ。ほとんど別人のようさ。
リチャードとは、いろいろなツアーに一緒に参加したんだ。ニューヨーク・オールスターズの時には一緒に来日している。あれは78年だったかな?その後、ポール・サイモン(vo,g)のツアーで1年半ほど一緒に過ごしたんだけど、その間に病気で倒れてしまったんだ。リチャードとの活動はすべて素晴らしい思い出だ。彼がツアーで使うために、初めてシンセサイザーを買った時のことを憶えているよ。ホテルの彼の部屋に行って、シーケンサー部分の使い方を教えたことがあるんだ。クォンタイズの設定なんだけど、(教えようとしたら)その時彼は私を変人を見るような目つきで見ていたよ(笑)。(何でオレにそんな機能が必要なんだよってね)でもこれまで会ってきたミュージシャンの中で彼だけだよ、その機能がまったく必要なかったのは。彼のリズム感は本当に正確だったからね。ドラム・トラックなんかでもね。もちろん私のプレイはすべてクォンタイズしているよ。そのままではあまりにもヒドいからね(笑)。

「絶対音感」があるのなら「絶対リズム」もありそうですね。Teeにはきっと備わっていたのでしょう。リズム・クォンタイズに関するMichael流ジョーク混じりの謙遜は実に可笑しく、彼らしさが出ています。

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それでは曲毎に見て行きましょう。1曲目はChuck RaineyのオリジナルFirst Love。Teeのピアノのメロディに絡むストリングスが気持ち良いです。GaddのドラムとRalph MacDonaldのカウベルやタンバリンが重なり合い、絶妙なリズムを繰り出しています。Eric Galeのギター・カッティングが隠し味的に効いています。Tom Scottのテナーソロも曲想にマッチした語り口を披露しています。恐らくクリックを使わずに演奏していると思われますが、たっぷりどっしりとした安定感がハンパないです。
2曲目はTeeのオリジナルEvery Day。イントロのアルペジオを聴いただけでグッときてしまいます。ここではTeeのボーカルがフィーチャーされています。Galeのソロは音数少なめながら説得力のあるフレージングに仕上がっています。
3曲目表題曲Strokin’、前述のMichaelのコメントに補足する形で述べましょう。Teeの煌びやかなピアノ奏があくまでメインですが、曲自体同じモチーフを繰り返し徐々に盛り上がっていくドラマチックな構成に仕立てられ、後半のMichaelのソロ登場に至るまで、まだか、そろそろか、とワクワクしながら聴いてしまいます。Teeのピアノの合間に聴かれるストリングスが高揚感を煽り、一層ソロが楽しみになる仕組みです。それにしてもこの人のピアノは何でこんなに個性的な素晴らしい音がするのでしょう?そしてそして、いよいよGaddのフィルインに導かれてMichaelのソロが始まります!いきなりフラジオのG音、全音下のF音を引っ掛けて吹いていますが強烈なインパクト!!カッコイイ〜!端々にKing Curtisのフレージングの影響を感じますが、そこはMichaelの歌いっぷりで自分のものにしています。実は何度かソロを重ね、オイシイところを切り取り、レコーディング技術を用いてパッチワークのように貼り合わせたソロなのですが、そんな舞台裏事情は全くどうでも良い次元のハイクオリティーな演奏です。78年録音ですのでもちろん楽器はSelmer Mark6、6万7千番台、マウスピースはOtto Link Double Ring 6番、エッジーでコクのある音色です。この頃のMichaelはリズムがOn Top気味で演奏する時がありましたが、ここでは意識してか、否か結構On Topで吹いています。思わずクォンタイズしたくなってしまいます(笑)

以上がレコードのSide Aです。4曲目はMacDonaldのオリジナルI Wanted It Too、Scottのlyricon(うわっ、懐かしい!)Hugh McCrackenのハーモニカをフィーチャーしています。バックで鳴っているホーン・セクションはtp)Jon Faddis, Randy Brecker ts)Michael Brecker tb)Barry Rogersです。NYのスタジオ第一線らしいキレのあるセクション・ワークを聴かせています。
5曲目はTeeの蕩けるほどに美しいナンバーVirginia Sunday、Fernder Rhodesでメロディ、ソロ共に演奏しています。こちらの音色と曲想が良くマッチしています。先ほどのホーン・セクションにバリトンサックスでSeldon Powellが加わっています。良く鳴っていてセクションのサウンドをタイトに分厚くしています。Scottが再びlyriconでソロを取っておりアナログ・シンセサイザーの音らしく太い良い音色です。現代に於いてもはや使う人はいませんが。この曲はNew York All Starsでも取り上げられていました。そちらのRandy, MichaelにDavid Sanbornが加わった3管でのバージョンもとても素敵です。この曲を聴いていてVirginiaの日曜日はさぞかし優雅でメロウなのだろうな、と想像してしまいます。
6曲目はMotown仲間(?)Stevie WonderのオリジナルJesus Children Of America。前曲のホーン・セクションにさらにストリングスも加わり分厚く豪華なサウンドを聴くことが出来ます。Fender Rhodesにエフェクターを施したサウンドでTeeはソロを取っています。バックに生ピアノのバッキングも聴かれるので後からオーバーダビングしたものとなります。続くGaleのソロも味わいのある音色でFender Rhodesのエフェクター音と対になっています。
7曲目、レコードのラストを飾るのはTeeとGaddのDuetによるBill Strayhornの名曲Take the “A” Train。メチャクチャかっこいいです!グルーヴ、サウンド共に双生児のような2人です。ベースや他の楽器は全く不要です。この2人だけで幾らでも、延々と演奏する事が出来るでしょう。ソウルブラザーに乾杯!

余談ですが今から20数年前に演奏で名古屋に行った時の事です。街中にある鰻の老舗に昼間、名物ひつまぶしを食べに行きました。4人掛けのテーブルに僕が一人で座っていたところ、昼時で店が混雑してきたので従業員が相席をお願いします、という事で前に座ったのが黒人二人連れ。両名とも見たことのある顔なので確認したところRichard TeeとドラムのBuddy Williamsじゃあありませんか!もちろん初対面なので自己紹介をして「ところで何で名古屋に来ているの?」尋ねると新しく開店したライブハウスのこけら落としでの演奏、Cornell Dupreeのバンドでの来日でした。「Strokin’」やWilliamsの参加作の話などをしていると二人はひつまぶしを二人前づつ頼んでいます。結構な量のはずなので「二人前づつ食べるんだね」と聞くと「Yes, we love eel!!」と笑いながら答えてくれました。気さくな二人の人柄に触れられたのと同時に、素晴らしい演奏家は食欲も素晴らしいのだと実感しました。

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