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Patti Austin / Live At The Bottom Line

今回はボーカリストPatti Austinの1979年リリース作品「Live At The Bottom Line」を取り上げましょう。78年8月19日The Bottom Line In Greenwich Village, NYC録音 David Palmer, David Hewitt, Engineers Mixed At Van Gelder Recording Studios, Rudy Van Gelder, Engineer CTI Label Produced By Creed Taylor
vo)Patti Austin ts)Michael Brecker key)Pat Rebillot leader, key, arr)Leon Pendarvis Jr. g)David Spinozza b)Will Lee ds)Charles Collins per)Erroll “Crusher” Bennett chorus)Babi Floyd, Frank Floyd, Ullanda McCullough arr)Dave Grusin, Arthur Jenkins, Jr
1)Jump For Joy 2)Let It Ride 3)One More Night 4)Wait A Little While 5)Rider In The Rain 6)You’re The One That I Want 7)Love Me By Name 8)You Fooled Me 9)Spoken Introductions 10)Let’s All Live And Give Together

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Patti Austinの名唱、素晴らしいサポートメンバー、そしてPattiを愛する熱狂的オーディエンスによるアプラウズ、彼女の代表的ライブアルバムです。
91年CDでのリリースに際して未発表1曲とPatti自身によるメンバー紹介のスピーチが追加され、曲順もレコードとは大幅に変更されました。おそらくライブでのオーダー通りだと思われます。またライブの録音自体はNYのスタジオ系ミュージシャン達のホームグラウンド的ライブハウス、The Bottom Lineで8月18日、19日の2日間に渡り2ステージづつ行われました。
両晩全く同じ曲を演奏しましたが初日18日はミュージシャンやレコーディング・スタッフ達のためのwarm up的に行われ、にも関わらずクオリティとしては両日殆ど同じでしたが(さすがNY第一線のプロフェッショナル集団です!)19日の方が若干スムースに演奏されたという事で、当夜の2nd setのテイクが採用されました。ファンとしては2日間のレコーディングの全貌を是非とも聴いてみたいものです。
可能ならば「The Complete Patti Austin Live At The Bottom Line ’78」の様な形で。演奏のクオリティが両日殆ど同じだとしても、演奏の中身は随分と異なる筈ですから。

Pattiは76年にCTIより初リーダー作「End Of A Rainbow」、2作目「Havana Candy」77年と立て続けにリリースし、本作が3作目になります。クロスオーバー、フュージョン真っ盛りの時代に脚光を浴びました。
CTI Creed Taylorの名プロデュース、充実した共演者、アレンジャー、そして何と言ってもPattiの抜群の歌唱力が聞き手に訴えかけました。同世代の黒人女性ボーカリスト、例えばDonna Summer、Brenda Russellたちよりも頭一つジャズ度を感じさせるセンスは共演者をインスパイアさせ、本作ではライブ録音という事もあり、さらにオーディエンスを巻き込み、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げました。

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この作品はレコードで発売当時から愛聴しています。ギターDavid Spinozzaのバッキング、Will Leeのタイトで都会的センス溢れるベースワーク、そして何より我らがMichael Breckerの参加です!「Hello Michael、今までのCTI 2作ではお世話さま。殆どソロが無いかも知れないけど、ボトムラインでの私の3作目のライブレコーディングに付き合ってくれるかしら?」というPattiからのオファーに「もちろんだとも!Pattiのレコーディングに呼んでもらえて嬉しいよ。ソロが無くても全く構わないからさ、君と一緒に演奏が出来るのを楽しみにしているね。」と言うやり取りがあったかまでは分かりませんが(笑)、Michaelの参加作で本作のように徹底したオブリガード、アルバムサイズの短いソロだけでの使われ方、参加の仕方のライブレコーディングと言う例は少ないです。しかし随所に、PattiがMCでも述べているMichael流の隠し味、スパイス的な演奏がこの作品のクオリティ、レベルを別次元にまで高めています。彼の参加無しではこのアルバムは成り立たず、仮に不在では凡演とまで行かずとも歴史に残る作品にはならなかった事でしょう。
それにしてもMichaelの歌伴の演奏の上手さはどこから来ているのでしょうか?ここでの演奏から痛感してしまいます。自身がリーダーになり表に立つ場合と、裏方〜伴奏者に立場が変わった時のチャンネルの変え方が実に徹底しており、あくまで主体の音楽性を映えさせるのですが、実は自分自身のテイストもしっかりと表現していて、主体との化学反応、お互いの音楽のブレンド感、間合いを繊細に図りながら大胆に演奏をする、バランス感の権化と言えましょう。

それでは収録曲をCDの曲順ごとに触れて行きましょう。1曲目Jump For Joy、The Jacksonsの77年ヒット曲です。Michaelのサックスにはエフェクターがかけられています。この頃の彼の使用楽器、6万7千万台のAmerican Selmer Mark 6にはネックにピックアップ用の装着台が付けられ、ここにPZMというバウンダリー・マイクを装着します。ここからの電気的信号をミュートロンというエフェクター(今となっては伝説的なエフェクターです)に通すことにより、ワウがかけられた音色に変化します。

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こちらは78年9月New York All Starsで来日時の写真で、まさしく同じセッティングによるものです。これに更にオクターヴァーを装着したサウンドをThe Brecker Brothers Band「Heavy Metal Be-Bop」のFuky Sea, Funky Dewでのカデンツァで聴くことが出来ます。
Charles Collins、Will Leeが繰り出すグルーヴがとても気持ち良いです。Frank、BabiのFloyd兄弟、Ullanda McCulloughのバックコーラスも曲にゴージャスさを加えています。
2曲目はJackson兄弟の三男でMichael Jacksonの兄、Jermaine Jackson78年のヒット曲Let It Ride。Spinozzaのギター、Michaelのワウ・テナーが良い味付けをしています。歯切れ良く吹いているテナーサウンドがワウの効果でホーンセクションにも聴こえます。ヘヴィな、ノリの良いファンクナンバーに仕上がっています。
3曲目Stephen Bishop76年のヒットナンバー、One More NightはAORファンにとっては堪らない選曲です。Pattiの歌いっぷりでこの曲に更に魂が込められました。
4曲目Kenny Loggins78年のヒット曲Wait A Little While、オリジナルのキメ、構成をまんまコピーして演奏しています。こちらもファンにはドンピシャなナンバー、ここでのMichaelのイントロ・メロディの吹き方、テナーの音色、そして間奏のソロが素晴らしいのです!ソロの後半、High E音の割れ具合のカッコよさ!僕にとって完璧なMichael Breckerの演奏、ソロの一つです。実はこの曲も雑誌Jazz Lifeの取材でMichael本人に聴かせ、コメントを貰った中の1曲です。こちらもご紹介したいと思います。

次は、パティ・オースティン(vo)の「ウェイト・ア・リトル・ホワイル」(ケニー・ロギンス作曲)。これはNYボトム・ラインでのライヴ・ヴァージョンです。
〜曲をプレイ〜
MB: ドラムは誰?
ーチャールズ・コリンズです。
MB: お〜っ!彼のことはすっかり忘れていたよ(笑)。でもこのギグのことはよく覚えている。バンドもオーディエンスも最高でね、パティも言うまでもなく素晴らしかった。本当に偉大なミュージシャンであり、素晴らしい女性だね。このライブをやるまでは、彼女がこれほど偉大なエンタテイナーとは知らなかった。自分のプレイに関しては、ずいぶん内向的に感じるね。この雰囲気に合わせようとしていると同時に、自分の個性を織り交ぜようとしているね。レコードの音はかなり酷いものだね(笑)。多分これは持っていないんじゃないかな。極めてドライな音だね。彼女の歌だけではなく、ソウルとエレガンスは本当にすごい。改めて彼女の歌声を聴くことができて嬉しいよ。自分のプレイに関しては、これも別人のような気がするよ(笑)

演奏を聴きながらこのコメントを改めて読むと感慨深いものがあります。とても彼の言うような、内向的な演奏には感じませんが、演奏している本人には気になる所なのかも知れません。

5曲目はPattiの長いトークから始まり、「黒人女性がカントリー&ウェスタン音楽なんて歌えないと思ってない?」と言いながらRandy Newmanの77年のヒット曲Rider In The Rainを歌い始めます。後ろで奏でているSpinozzaのカントリー&ウェスタン調のギターが実に良い雰囲気を醸し出しています。
6曲目はレコード未収録のナンバー、78年の映画Greaseのヒットした挿入曲You’re The One That I Want、原曲は映画出演のJohn TravoltaとOlivia Newton-Johnのデュエットで歌われています。
7曲目はPatti自身のナンバーにして代表曲、78年Quincy Jonesの大ヒットアルバム「Sounds…And Stuff Like That!!」に収録されているLove Me By Name。オリジナルではEric Galeがストリングスをバックに良い味を出していますが、ここではMichaelのむせび泣くテナーソロが聴け、フラジオB音の確実なヒットにさすが、と感じてしまいます。

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8曲目はJeffrey Osborneが在籍していたバンド、L.T.Dの78年ヒット曲You Fooled Me。こちらもオリジナルのアレンジを踏襲して演奏しています。コーラスやギターとテナーのユニゾン、効果的なパーカッション、メチャイケナンバーです!
9曲目に該当するのはPatti自身によるメンバー全員の丁寧な紹介、楽しげに悪戯っぽくしながらも一人一人に対する尊敬の念、思いやり、愛情をとても感じます。特にMichaelには別格な紹介がなされており、「ここにいるのは本物のMichael Breckerです!どうぞお立ちください!」彼はきっとその時、はにかみながら、椅子から立ち上がって深々と挨拶をしたことでしょう。
10曲目ラストを飾るのは8曲目と同じくL.T.D.の78年ヒット曲Let’s All Live And Give Together、当夜はもうかなりの曲数を歌っているにも関わらず、しかも2nd set最終曲、ここに来てPattiはますます喉の調子が良くなったのでしょう、信じられないほど高い声を確実に、見事にヒットさせています!凄いです!

こうやって見ると本作の収録曲は76年から78年の間にリリースされたヒット曲ばかりで構成されている事になります。そしていずれの曲でもオリジナルの歌よりもPattiのボーカルの方に表現力を強く感じ、ライブレコーディングでありながらも彼女の歌唱力の実力をまざまざと見せつけられました。


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