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Cityscape / Claus Ogerman

今回は82年録音・リリースClaus Ogermanの作品でMichael Breckerをフィーチャーした傑作「Cityscape」を取り上げたいと思います。

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arr, cond)Claus Ogerman ts)Michael Brecker p)Warren Bernhardt ds)Steve Gadd b)Eddie Gomez(on 1, 3) b)Marcus Miller(on 2, 4~6) g)John Tropea(on 2) g)Buzz Feiten(on 4) perc)Paulinho da Costa(on 2, 4)
1)Cityscape 2)Habanera 3)Nightwings 4)In the Presence and Absence of Each Other (Part 1) 5)In the Presence and Absence of Each Other (Part 2) 6)In the Presence and Absence of Each Other (Part 3)
Recorded : January 4~8, 1982 Studio : The Power Station and Media Sound Recording Studios, NYC Label : Warner Bros. Records Producer : Tommy LiPuma

全曲Ogermanの独創的なオリジナル、深淵な音楽性を湛えたストリングス・オーケストラと緻密にして華麗なアレンジ、当時の音楽シーンを代表する敏腕ミュージシャンの参加、お膳立ては揃いました。フィーチャリング・ソロイストであるMichael Breckerは赴くままに自分のストーリーを語ればよいのです。サキソフォン・ウイズ・ストリングスはCharlie Pakerの昔からサックス奏者の究極の表現形態、ストリングスによるオーケストレーションは弦楽器が生み出す倍音の関係か、サックスの響きをより豊かにゴージャスにバックアップ、そして華やかに仕立て上げます。同じストリングスでもシンセサイザーのデジタルな音色では全く役不足です。本作でのMichaelの音色は彼の参加作品中屈指の素晴らしい「エグさ」を聴かせていますが、ストリングスにサウンドをブーストされた形と認識しています。
ちなみにこの時の使用楽器はマウスピースがBobby Dukoff D9、リードはLa Voz Medium、テナーサックスがAmerican Selmer Mark Ⅵ No.86351です。

Claus Ogermanはドイツ出身の作編曲家、膨大な数のアーティストの作品を手掛けていますがその正確な数は不明です。本名はKlaus Ogermann、いわゆるダブル”n”の苗字で、よくある~manのユダヤ系とは異なりますが彼の細部まで徹底的に構築された音楽性を鑑みると、知的作業、芸術的表現のレベルが高いユダヤ系なのではと想像してしまいますが、30年生まれでドイツ在住中第二次世界大戦のホロコーストとは無縁だったようなので生粋のドイツ人なのでしょう。59年に米国に拠点を移しVerve RecordのCreed Taylorの仕事を足掛かりに音楽生活をスタートさせました。因みに本作の印象的なリトグラフによるレコード・ジャケットは、ウクライナ出身のアーティストLouis Lozowickによるもので23年の作品、その名もNew Yorkです。Lozowickの方はユダヤ系のようです。

Ogermanの足跡をダイジェストにCD4枚組にまとめた作品、ドイツのBoutique Labelから2002年にリリースされたその名も「The Man Behind The Music」、収録されているAntonio Carlos Jobim, Bill Evans, Stan Getz, Frank Sinatra, Barbra Streisand, David Clayton-Thomas, The London Symphony Orchestrta等、手掛けたアーティストのあまりの多彩さに驚いてしまいます。

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Michaelを最初にフィーチャーしたOgermanの作品が76年録音「Gate of Dreams」、収録曲CapriceでMichaelのダークなソロ聴くことが出来ます。この当時の彼のセッティングはマウスピースがMaster Link(Otto Link最初期のモデル)、リガチャーがSelmerメタル用、リードはLa Voz Med. HardないしはHard、テナーサックスはAmerican Selmer 14万番台Varitone。作品中David Sanborn, Joe Sample, George Benson達とソロを分かち合っています。

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この時の演奏の素晴らしさから6年を経て本作へと繋がります。Michael自身の演奏も格段に進歩して今回は一作丸々のフィーチャリングになります。1曲目は表題曲Cityscape、「都市景観」とはジャケットのNew Yorkの景色の事でしょう。本作参加ミュージシャンがNew Yorkを拠点に活躍しているのは偶然か必然か、気心知れたMichaelの演奏に丁々発止とインタープレイを繰り広げています。一つ気になるのはMichaelとリズムセクションは同時録音に違いないと思うのですが、オーケストラ、ストリングスセクションは同録かという点です。89年1月21日、五反田ゆうぽうとで行われたTokyo Music Joy、Michael Brecker W-Unitと題され、Michaelの他Pat Metheny, Charlie Haden, Fumio Karashima, Adam Nussbaumと言うメンバーに小泉和裕指揮による新日本フィル・オーケストラが加わり、Cityscapeを再現するコンサートが開催されました。因みにJack DeJohnetteをドラマーに迎え、Methenyの「80 / 81」も再現する目論見もありましたが残念なことにDeJohnetteは不参加でした。同じくOgermanも来日しませんでしたが、収録曲中In the Presence and Absence of Each Other (Part 1), In the Presence and Absence of Each Other (Part 2), Cityscapeを演奏しており、ソロイスト〜リズムセクション〜オーケストラ、ストリングスセクションの同時進行が可能であることを実感しました。ただ当日はMichael君あまり調子が良くなく、どうした訳か例えばIn the Presence and Absence of Each Other (Part 1) のメロディを外しまくっていました。コンサート後本人に尋ねたところ、オーケストラの面々とコミュニケーションが上手く行っていなかった事をこぼしており、彼なりに気になる事があったため、いまひとつ集中力を欠いていた模様です。そういえば本作のストリングスセクションを含めたオーケストラに関してのクレジットが故意なのか、たまたまなのか何処にも書かれていません。
あたかも不安感を煽るかのようなストリングスのサウンドにMichaelの耽美的なサックスが絡み始めます。ストリングスの大海原を漂うかの如きMichael流シーツ・オブ・サウンド、その全てが的確な音使いに今更ながら脱帽させられます。ルパート気味に演奏されていましたが2’10″からリズムセクションが加わり、4’20″位からリズムが倍テンポになりMichaelの本領発揮、それに絡むGaddのブラシワークとバスドラムが大変効果的です。その後一旦Fineと見せかけて冒頭の「不安感」セクションに戻ります。Michael吹きっぱなしのオンステージは大団円を迎えます。
2曲目Habanera、ビゼーのオペラ「カルメン」やサン=サーンスの作品にこの名がありますが、元はCubaのリズムの形態の一つの名称で、Habaneraとは「ハバナの」と言う意味です。パーカッション、ギターも参加し、ベースもEddie GomezのアコースティックからMarcus Millerのエレクトリックに代わり前曲とは雰囲気がガラッと変わり、ここでしばしMichael君はお休みでその間オーケストレーションをしっかりと聴くことができます。6’06″から満を持してテナー再登場、最後まで演奏が繰り広げられますが、その後曲のエンディングまでどんなモチーフが必要なのか、どのようなメロディラインを経れば終止感を得られるのかまで、Michaelはお見通し、計算づくでのアプローチかも知れません。
3曲目Nightwings、冒頭フルートや木管楽器のアンサンブルが心地よく響きつつストリングスが絶妙に絡み、ピアノのイントロが始まります。Marcusのベースによるメロディ、その後フランス映画のバックグラウンドで流れているかのようなメロディをストリングがゴージャスに奏で、Michaelのソロが始まりますがこれが素晴らしい!4’15″からの倍テンポでさらにスピードアップ、リズムセクションも同時にヒートアップしてGaddが巧みに煽動します。その後Warren Bernhardtのソロに続きますがGaddの煽りにさらに拍車がかかります。ブラシを使ってこんなにも盛り上がるものなのですね! Bernhardtは MichaelとはSteps Aheadのアルバム「Modern Times」での共演仲間、身長193cmのMichaelよりもさらに背が高く2m近く身長がありそうで、その巨漢から繰り出されるピアノのタッチは実にクリアーかつ端正です。レコードでは以上がSide Aになります。

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4曲目から6曲目はタイトルIn the Presence and Absence of Each Other、Part1からPart3まで組曲形式になります。Part1はまさにMichaelのために書かれたかのようなメロディを持つ名曲、そして本作中白眉の演奏です。パーカッションが効果的にサウンドの味付けを施しています。輪を掛けて物凄いここでのテナーサックスの音色にまず圧倒されてしまいます!ストリングスのサポートのなせる技に違いありませんが、加えてソロの入魂ぶりといったら!鳥肌モノです!でも実はこの演奏の立役者はGaddとMarcusなのです。Gadd淡々とブラシでリズムをキープしていたかと思えば、Michaelの演奏に瞬時に反応し、その場にこれ以上相応しいフィルインは有り得ないという次元のフレーズを繰り出します。具体的には6’32″から、そして極め付けは6’50″のフレーズ!ホントに有り得ないです!一方Marcusは全編に渡り自由自在なアプローチでMichaelの演奏をバックアップ、7’00″過ぎた辺りから自在を通り越して自由奔放、好き勝手状態、7’48″頃からMichaelのソロが終わる8’05″まで笑いが止まらない程のメチャクチャやっています!満面の笑みを湛えたメンバー同士の抱擁が録音終了後行われたことでしょう。
5曲目Part2はOgerman自身の別な作品で、タイトルを変えて再演しています。2001年リリースClaus Ogermann / Two Concertos (Decca)
曲名はConcerto For Orchestra Ⅱ ( Marcia Funebre)となり、ほぼ同じアレンジでMichaelのテナーソロ抜きの演奏です。この作品はクラシック作編曲家としてのOgermanにスポットライトが当てられ、自身のピアノ演奏によるPiano Concertoの他、やはり自らコンダクトを務めたConcerto for Orchestra、ふたつの組曲から成っています。こちらも素晴らしい作品です。本作では冒頭からオーケストラをフィーチャーし、エンディング部分でMichaelのソロを聴くことが出来ます。曲想に由来するのかどこか物憂げなテイストを感じさせる印象的なテイクです。因みに作品ジャケットの絵画はNY出身の画家Arnold Friedmanによるもので、多分この画家もユダヤ系と推測されます。
6曲目Part3も前曲と同様にオーケストラの演奏がメイン、最後に閉会の辞を述べるが如く、エピローグとしてMichaelの演奏がほんの20秒程度フィーチャーされます。

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