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chelmicoの明日はどっちだ?

待望の、chelmicoの新譜「gokigen」がリリースされた。
全14曲。先行してリリースや配信されていたのは「COZY」「3億円」「Meidaimae」「O・La」の4曲。期待と少しの不安を抱えながら、残り10曲をダウンロードして聴き始める。

Rachel とMamikoの2人で結成されたchelmico。
「映像研には手を出すな」のテーマソング「Eazy breezy」で気になって「COZY」のPVで夢中になった。そんな人は多いんだろうと思うし、僕もその一人。

「COZY」での仲の良い2人の感じは「映像研」の高校生たちの楽しそうな様子とつながって感じられたし、時に「好き」が暴走して、どこまでも突っ走っていく感じは「Eazy Breezy」の疾走感そのものだった。

だから新たな曲が出るたびに、僕らは「今回は、どっちの方かな?」とちょっとドキドキする。COZYの後、Rachelの出産明けの久々のシングル「三億円」はトリッキーに躍動する感じで格好良かったけど、最初はちょっと車酔いする感じにもなった。その後の「Meidaimae」は等身大の心情を綴った穏やかな「cozy」路線。でもPVはホラー映画っぽい感じで驚く。(明大前をほっつき歩くリリックビデオはも素敵だった)

専門的なことはわからないけど、2人のラップスキルとリズム感が特別なものであることはわかる。きっとトラックメイカーの才能たちも、彼女たちのラップを想定してある種の勝負のようなものを仕掛けていて、難しい乗り物のようなトラックを、Chelmicoの2人が軽々と乗りこなす、そんなイメージは伝わってくる。

その冒険心と密度の濃さに盛り上がれる時は元気な時。でも、ちょっと置いてきぼりのような気持ちになる時もあった。コロナ禍の、ちょっとダウンな時なんかは特に。

でも彼女たちは「まだまだ落ち着いてられるか」とばかりに、前進することをやめない。COZY的なレイドバック路線。それが多くの人に愛されていることをわかりながら、アーティストとしての本能が、そこにとどまり再生産することを健康的だと感じていないんだろう。

アーティストって難しいし、面白いよな、と思う。

「gokigen」の14曲。

1. intro
2. Roller Coaster
3. 三億円
4. moderation
5. December
6. Touhikou
7. Where you at?
8. interlude
9. COZY
10. bff
11. ISOGA♡PEACH
12. O・La
13. Meidaimae
14. Miterudake

冒頭の「Roller Coaster」は戦闘宣言。
「急上昇。急降下。急旋回」「転がる方向に身を任せろ」「壊れたシートベルトを装着」
「浮くときあって、沈むときあって、凪なんてないぜ」
行こうぜ、と僕らを先導する。部屋から外に出てきなよと。

そして「三億円」で明確に突きつける。
「アンタは、そこでChillってな。うちらは先に行くってば」
さらに「moderation」は、重低音のリズムが響く酒飲みソング。いや、酒飲み失敗ソングというべきか。真夜中の怪しいムードが漂う

そして、ここからアルバムのムードは転調する。
「December」「Touhikou」「Where you at?」

元気な人の元気さの裏にある揺れ動く気持ち、久しぶりの人に会う不安。自分の気持ちと相手の気持ちを高速で計算して、その先の一歩を踏み出そうか迷う。そんな内面が綴られていく。Mamikoのソロでの世界観にもつながる楽曲。序盤の勢いが、中盤の内省を際立たせる。

激しい傷、ではない。それでも消えることのない痛みの記憶。いつ終わったのかもわからない関係。そんな悩みを遅くまで聞いてくれる友達のように「COZY」は優しく響く。低く流れるベースラインが傷ついた心を支えてくれる。Chelmicoの2人はPVでとっても楽しそうだ。

Chelmicoの表面と裏面。それがわかりやすく提示された流れが終わり、さぁここからどうなるんだろうと思う。

アルバムはもう一度走り出す。「bff」は落ち込む友達をチアアップする、疾走感あふれるナンバー。なんだかU2みたいにストレート。
かと思えば「ISOGA♡PEACH」は、きゃりーぱみゅぱみゅっぽい、オモチャ箱的なカラフルさで、思わず笑顔がこぼれる。
「週3勤務で、週4休み。年に3か月、夏休み」のキラーフレーズ。
「3億円」にも通じる、笑っちゃうような本音は、きっとMamikoによるもの。そんなに慌ただしく生きていたくないというシンプルな思いが伝わってくる。まったく、その通りです。

そしてRIP SlYMEのFUMIYAがトラックを作った「O.La」から「meidaimae」
アルバムを聴くまでは、両極端のように思えた楽曲が自然の流れとして受け止められることに気付く。

ラストナンバーの「miterudake」最後はどんな曲で終わるのかなと思ったら、驚くほど普通な「服を買うのって大変」みたいな歌で笑う。アルバムは良くも悪くも完結してない。どこか「現状報告」といったニュアンスも残る。

chelmicoの「これまで」と「今」がよくわかるアルバムだった。
でも「これが私たちの全部じゃない」そんな風にも響いた。わかったように書いているこの文章も、まったく的外れかもしれない。

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