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【読書日記】長崎ぶらぶら節

なかにし礼/新潮文庫
※ネタバレあります。

<あらすじ>

三人称視点固定。
主人公は長崎・丸山の芸者、愛八。
小さい頃に売られてからずっと芸の道を生きてきた愛八は、五十歳くらいになって古賀十二郎という学者に恋をする。
古賀は黒田家御用達の商家の跡取りだったが、商売を全然しないで学問に打ち込み、破産する。
破産してからも古賀は学問をやめず、愛八を誘って長崎に残る古い歌を収集する。
そこで長崎ぶらぶら節が発掘される。
愛八が亡くなるまでの物語。

<感想>

長崎ぶらぶら節というタイトルにするには、ぶらぶら節以外のエピソードが結構印象深い。
隠れキリシタンの歌もあったし、お雪の病気のこともあった。
ただ、じゃあ他のタイトルがあるかというと、ない。

愛八はかっこいい女性だと思う。
明治から昭和の時代に、自分の生きたいように生きるのは難しいんじゃないかと思う。
別に男性主体の分野に混じっていくわけじゃないんだけど、客に媚びず、やりたいように振る舞うところが読んでいて気持ちよかった。
勝手に古賀に恋しただけなのに、旦那に申し訳ないと言ってパトロンと縁を切ったり、子どもが頑張っているところを見るとどうしてもダメで花売りのお雪の花を全部買ってあげたり、そういう自分の尺度みたいなものがとてもはっきりしている。

愛八は思い立ったら自分一人で始めて一人でがんばってしまう。
そのがんばりを見た周囲の人たちが、愛八に共鳴して協力してくれる流れにしみじみする。
みんな愛八のこと好きなんだなあ、というのが台詞じゃなくてもわかる。
特にお雪の病気を治すエピソードは、敵対していた米吉まで賛同してくれる。
こういう展開はわかっていてもすごくいい。

始まりと終わりはお雪の一人称。
最後の二段落が特にいい。

 長崎ぶらぶら節ば歌いながら太鼓ばたたいておりますと、愛八姐さんがどこからともなく現れて、私に笑いかくっとです。そいが嬉しゅうてこの仕事が止められんとですたい。
 では今から、愛八姐さんに会いにいってまいりますけん。

長崎ぶらぶら節が継承されていくことで、愛八という女性の人生が継続しているように感じられる。
ここまでに読者はみんな愛八のこと好きになっちゃうから、愛八が死んで悲しいんだけど、その先があることで救われるんだと思った。


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