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#タクシードライバーは見た「歩きたくないワンちゃん」

犬、そう書くとなんか殺風景というか、モノで扱ってる気がして
ワンちゃん、にした。
決してかわい子ぶっている訳ではない。
ワンちゃんと言ってしまうほど溺愛している子がいた訳でもない。
ペットはこれまで金魚ぐらいだ。

金魚は金魚ってそのままいうのか、と自分でも思いつつ
乗務中に見たワンちゃんの話。

ペットを連れて歩く女性は都心部ではよく見る。
人間より嗅覚の優れた動物でありながら、排気ガスが舞うこの都心部を歩くときにどういう気持ちなのだろうと気になったりするが、
夜間のライトも、同じように厄介なのではないかと思う。
人間の顔の高さには当たらないがちょうどワンちゃんの高さに行くようになっている。
実際のところどうなのだろう。
話さないから気持ちは分からないが、眩しいはず。

そんな本当の気持ちの分からないワンちゃんの中にも
分かりやすく嫌なことは嫌だと表現する子もいることを知った。

23時を回った頃、その場所は活気あふれる繁華街。
飲み屋や何のお店か分からないような店舗も連なる通り沿いは、酔っぱらったサラリーマンがスーツ姿を崩し、つまみが効かなくなったかのような大音量で話している。
それをみて「うちどおっスカ?」と仕事に勤しむスーツ姿の男や
その横で壁にもたれ、片足を曲げながらスマホをいじるスーツ姿の男。
その人の動きを避けながらトロリと進む空車のタクシー。

この通りを、ワンちゃんを連れて散歩している女性が目に写った。
大して気に留めることはなかったが、
なぜかその場所で動かず止まっている。

ゆったりとした車の流れと共に近づくと、白い毛で顔の周りを覆ったフワフワのワンちゃんが力を抜き地面にぐでんと伏せている。

それを、飼い主がリードで「行くよ」と合図をしても動かない。

もう一度「い、く、よ!」とリードを軽く引くが立ち上がらない。

それを見かねた飼い主が無理やり引っ張ろうとしても動かない。

「あ~もう」と面倒な表情を見せた後、リードを真上に引っ張ると、
ワンちゃんは立ち上がるのではなく、力を抜いたまま持ち上げられた。
そのリードを降ろすと、再び地面に伏せる。

上下すると、まったくワンちゃんは力を入れず、
リードの動きに身を任せている。

そのワンちゃんは「もう、アルキタクナイ」
という気持ちがわかり易く見て取れた。

リードの先に真っ白の雑巾を付けて上げ下げしている風袋に、
思わず笑ってしまった。



ちなみにこのワンちゃんです






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