さいおうがうまちゃん

公園を歩いていたとき、昔好きだった人が犬をいぬちゃんと呼んでて笑った。
年下のわたしに合わせて、その人はのらねこをねこちゃんと呼んでいた。
それはわかるのだけれど、いぬをいぬちゃんは面白かった。

動物の名前って、ねこはねこってかんじでかわいし、いぬはいぬって感じでかわいいし、うさぎはうさぎかわいい、とりはとりかわいい。
たぬきやきつねもずるい。
名前をつける天才がいたんだなぁとおもう。

昨日は本気で体調が悪くて、いつもしゃべり足りないのに、息が切れて、これ以上しゃべれねぇ…ってなって休んでばっかだった。普段は立ち通しでやる仕事だけど、何度も座り込んでしまった。
ほんとに吐くかと思った。

熱中症、かな?ちょっとひさびさにこれはやばい、って頭痛だったんだけど、痛み出してからでもイブAでもある程度効くってことはやはり熱中症だろうか。
うーむ。

そんなわけだから失敗続きでふんだりけったり、慌てどおしなのだ。
でもなんでだろう、がっくりきて諦めると周りの人が優しくて、どうにかこうにか励まされながら1日終えて、病院にお泊まりした(熱中症のせいではない)。

個室なので(贅沢したわけじゃない、個室しかだめだったのだ)、優雅優雅。
感じの悪くない写真もかかっている。

よーしパソコンさん頑張ろうね、と思ったら、日中の酷使がたたったか、熱暴走してしまったらしい。

ごめん、ごめんね……えんえん謝る。かわいそうなことをしてしまった。わたしは機械をかわいがるほうなので、つらい。
そして現実問題、パソコンがないと入院2日目は何もできない。朝、気付け薬のかわりにアイスを食べてみたら、胃もたれしてよけいひどい。
仕方なく、検索して古今集春上をえんえん読んでいた。

1日終わって病院をでるとき、技師さんのお一人と目があった。髪の長い女性。けっこうご迷惑をおかけしてしまったのだけど、お前か、という顔でにっこり笑って、お疲れ様です、と言ってくださった。

日暮れ前。よい頃合いだ。雨は上がっていた。
何もしてないのに気疲れしているし、頭痛がすごい。もともと寒がりなのに、冷房がきいてる病院内でも暑くて、参ったなと思った。
このまま電車に乗ると酔いまくるから、病院の近くをふらふらしてみたら、感じのすごくいい本屋さんがあった。
美術、特に写真関係に特化してるお店だった。so booksさん。

ウヒャヒャ、となって背表紙を見て回る。かわいい扇風機が回っていて、本棚もかわいい。
わたしがそちら方面に疎いのが残念だ。1920sとかモダニズムの頃の芸術写真はけっこう好きだし、アジェとか、ベッヒャー夫妻とか、キーファーとか、杉本博司とか、見たことある作品であれは好きだった、というものはあるのだけど、そしてたぶんわたし写真芸術と相性かなりいいのだけど、自分からたくさん見に行ったりしてなくて、開拓してないのだ。

まぁそんな感じで店内ウロウロしてたら、向井周太郎があるじゃないですか!
ちょうどレジュメに北園克衛とかアポリネールとか載せたところで、運命を感じてしまった。
買う。

お店の方が優しくて、声をかけてくださる。「これはいい本です」ふへ、みたい返事しかできなかったけど、選んだ本をそう言ってもらえるとうれしい。
さらに甘えて、黄色くて、ネロリってタイトルの写真集ありますか、って聞いてみる。
写真家の方の名前を失念してたのだけど、果敢に手垢のついたクリシェやセンチメンタルに挑んでいるように見えて、うっかり泣いてしまって、買わなきゃ、買わなきゃなと思ってた写真集だった。
(京都の恵文社も置いてた。京都から持って帰るのはさすがにきつかった。)

so booksさんには在庫がなかったけど、同じ方(吉野えりかさん)の前の写真集があって、買わせてもらった。
お店のカードもいただいた。

ただでさえ、頭痛がひどい上に動かぬパソコンに書類にお泊まりセットまで抱えて大荷物。
その上重量物を増やしてしまった…と思いながら、とてもうれしい。
歩きながらニコニコしてしまうので、道行く人に不審な目で見られる(荷物多すぎたのもあるけど)。

それでもニコニコした足が止まらないので、奥渋方面に足を伸ばしてみる。
もっと渋谷寄りにあるチーズ屋さんの2号店とか(あそこおいしんだよなぁ)、インスタでよくみるコーヒー屋さんとかがあって、かっわいー雑貨屋さんがあった。
大荷物で入るのは憚られたけど、表に前から探してたビニール素材のカゴバッグがお手頃価格であって、もう入るしかなかった。

そしたら、前早稲田の、早稲田の本キャン近くにあるsなんとかっていう雑貨屋さんでみた、機内用カトラリーがあった。ほしかったのに、迷ってるうちに売り切れたんだった。
これは運命。さらにいうとシ・ド・レのグラデーションに鳴っている鉄器の風鈴。こいつもお手頃価格。運命。

店内のカフェには常連らしきおばあちゃまがバニラアイスと店員のお姉さんたちと和んでいた。
そういえばちょっと前、集団の人間の陰湿さを「女の子」という語に託してしまったがために炎上したまんがを見た。
個人的には、あの描き手の描いたものは「」つきの女の子であり、作者自身は人間の陰湿さを特定の性だけに帰属させる気はなかったのだと思う。むしろ、子供時代はそう思ってしまっていたけれども成長とともに脱却できた、と言いたかったのだろう。
ただ表現が明瞭だったか、というとかなり微妙なところで、描きたいもの(過去の自分)と描き手の距離感が甘かったのかな、そもそもやっぱりバイアスから脱却しきれてなかったんじゃないかな、と思う。もっと丁寧に言えば、小さい頃の自分に深刻な影響を与えたバイアスを、描き手はそう簡単に捨てたくなかったのではないか、と思う。(わたし自身が自分の負の思い出を後生大事に抱えている類なのでそう思うだけで、的外れだろうけど)。批判は免れないだろうし、批判で指摘されていることは有用だろう。描き手が公益性とかを考えずに、自分自身の作ってきた自分の像に依存してかいてるものでも、すぐ公になっちゃうのがインターネットだよな。わたしも危ないぞ。

えー閑話の閑話の休題。とにかくあのお姉さんたちとおばあさんが話している様子って、これがシスターフッドだ、という感じだった。人間の社会っていいものだ、と思えた。
お店って、あなたと話したいという気持ちをお金に変えて、そのままあなたの生活を支える糧に差出せる仕組みなんだな、と思う。あなたの方はかわりにアイスクリームを手渡す。お金と近代の著作権については色々思うのだけど、このシーンは最高だなぁ。

カフェのカウンターは雑貨のレジのすぐそばだ。おばあさんはわたしのビニールのかごにふれて「なつかしい」と言った。
お姉さんが風鈴を包んでくれるのを見ながら「いい音」と目を細めて、少しわたしともおしゃべりしてくれた。
その遠慮がちで、あなたがわたしのパーソナルスペースに入ってくるから仕方なく話すのよ、という感じと、なつかしいものが買われていく様子を喜びもし、色々思う様子でもある感じの混ざり合った距離の取り方が、いい意味で日本人離れしていて、嬉しかった。
おばあさんのおかげでわたしの買い物は本当にいいものになった。

いくつか店員さんに質問したとき、姉妹店という言葉が出ていたので、ほかにもお店あるんですか、と聞いたら、ショップカードをいただいた。
店名も見ずに入っていたそこは、随分前に美容院の雑誌で見て、ずっと行ってみたかったピヴォワンヌさんだった。
そこの美容師さんは、わたしが和歌が好きだと言ったら、営業はがきに「冬ながら空より花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ」の歌を書いてくれるような人だった。
気になってる人がわたしのことけなしてくる、という話をしたら、それまではいけるんじゃないですかその人〜って感じだったのに、さっと「それはだめ!もっといい人が確実にいます!!」と言ってくれたのもよく覚えている。

優しい人のことを思い出せるのは、今わたしがいるこのあたりもなにやら優しいからだろうか。あたりのお店はどこも楽しげで、おしゃれだけど冷たくない。道行く人もたのしそうだ。
男性が、多肉やグリーンメインのジャングルみたいなお花やさんの前で足を止める。どうみたって、間に合わせのご機嫌とりにお花を買って持っていくという感じじゃない。自分が一所に暮らす鉢を選んでるように見えた。そういう人のいる町はいい町だ。

いならぶお店の什器もたのしい。
脚立にパイプを渡して洋服をかけてたり、その脚立からワイヤーをつり、丸いリングをかけ、そのリングにs字フックをかけ、そのs字フックにバッグをかけてるのなんか、とっても真似したい。

ただ、歩いて駅に戻ると、また熱中症っぽくなっている自分に、気づかないわけにはいかない。

電車内、できることが何もないまま、一生懸命なにか考えようとするけどもうだめ。

ギリギリの状態で降り、スーパーによって少し涼もうとしたけど生鮮食品売り場ですら暑い。

もうだめだ、と悟って必死で帰宅。
服を全部ぬぎ、エアコンをつけて、サーキュレーターを体に直撃させる。
(奥渋のおしゃれショップでも無印のサーキュレーター使ってて、ふふってなった)
手っ取り早い塩分がサッポロポテトだったのでyoutubeで服部平次の工藤集を聞きながら、一生懸命たべる。もうわけがわからないから、冷凍庫の食べ物のタッパー引っ張り出して首や太ももにあてて、溶けてきたら適当に食べる。
保冷剤も首に巻いた。ある限りのお水を飲んだ。

2時間近くかけて涼んでようやく回復してきた。そうだパソコン。
ごめんねごめんね、あなたのことが大切なの、ごめんね、謝りながらモニターにつないだら…復活!!!
前もこのパターンで、次に起動した時がだめだったから油断はできないけど、
嬉しい。嬉しい。ありがとう。

昨日今日こんな感じで、ずっと困っては優しい人にあうのを繰り返している。

自分はろくなことをしてないけど、嬉しくて、書かずにいられなかった。
ほんとはパソコンが心配で、こんなこと書くよりさきにやるべきことがあるのだけど、しまって置けない。
かつ、家中の水分を飲み干してしまったので、明日のパンとお水を手に入れてこないといけない。この時間ならさすがにわたしももう出かけられるだろう。

パソコンを置いていくのが心配だけど、待っててね。行ってきます。

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