見出し画像

39歳父の竹修行奮闘記 第六回「0.01mmの世界で竹を剥げ」

竹細工に必要な竹ひごを作るために、前回竹を割った。

さあいよいよ今回は、割った竹を剥ぐ!ハグさせてください。

今回も前回の割り同様、竹割り包丁を使う。

別府竹細工の場合、竹割り包丁の柄と刃の間にある胴金(どうがね)という部分を使って剥ぐのが一番オーソドックスな突き剥ぎという技法。

ちなみにこんな感じ。

最初にプスリと刃の部分を入れたら、後は胴金の部分を使って、竹を薄く平らな状態にすべく、剥いでいく。厚さの調整は竹をつかんでいる左手で行う。厚くなったり薄くなったりしないように、絶妙な角度で胴金が入っていくよう、サポートしてやる。と、文章にしてしまうと何のことはないが、これが至難の業。

まず求められる精度。今週から始まった第一課題「六つ目編み盛かご」の編みひごは、幅5mm、厚さ0.55mmと決められている。よく見てほしい。厚さは0.5mmでも0.6mmでもない、0.55mmと指定されている。日常的に精密機械や顕微鏡を使ってる人ならともかく、日常生活で0.01mm単位の精度を求められることなどない。

・にんじんは1.25mmにスライスする

そんなレシピは見たことがない。何気なく日常を生きている人には、0.01mmどころか、0.1mmの世界すらあまり馴染みがない。ではそんな日常の延長のアバウトな感じで、まあ0.5~0.6mmくらい、まあ下手すりゃなんとなく1mm以下って感じでいいっすか、というわけには残念ながら行かないのである。

剥ぎの技術が未熟だとどうなるかというと、編みにくい、下手すれば編めない。これはなかなか重たい。ひごを取るのは目的ではない。編んで立体に仕上るためのひごである。なのに厚さをしっかり剥ぎ揃えないと、そもそも編めない。薄ければ最悪折れる。厚ければ編み目が揃わない。なんて非情な現実だろう。

というわけで、竹細工をやっていく上で、剥ぎの技術は仕上がりを大きく左右する最も大きなファクターだと言っても過言ではない(はず)。

ではどうやってそのミクロレベルの厚さを測るのか。現代は便利な道具がある。デジタルノギスだ。

最新技術を駆使して伝統工芸を更なる高みへ

などと安直に考えてはいけない。アナログノギスにはJIS規格があるが、デジタルノギスにはない。それはなぜか。実際に使ってみるとわかる。

力の入れ具合によって0.15mm程度前後するのだ。

これは本当に困る。我々のような初心者は見た目や手触りで竹の厚さを推測することができないので、デジタルノギスに頼るしかない。だが、実際やってみると、ギュっと力を入れて測った時と、フワッとやさしく測った時で、0.15mmほど数値がぶれる。

たかだか0.15mmではないかって思うでしょう。

だがこれが非常に大きい。課題の竹ひごの厚さは0.55mmだった。0.5mm~0.65mmでは困る。実際にできあがったひごを手で曲げてみると、0.5mmと0.55mmと0.6mmは確かに違うのだ。しかも竹が違えば、同じ厚さでも弾力は変わる。職人がデジタルノギスに頼らない理由はそこにある。数値ではなく、実際に編むときに必要な弾力を基準に職人は厚さを決めているのだ。オー、ザッツ職人技。

と偉そうに言っても、昨日今日始めた初心者にそんな芸当はできるはずもなく、あくまで目安としてデジタルノギスを使いながら、少しずつ手先の感覚を研ぎ澄ませて行く。こればかりは色々な竹で試してみる以外に方途がない。剥いでいるとき指に伝わる感覚、そして剥ぎ終えたひごを曲げてみた感覚、いくつもの感覚を統合していく。

ちなみに今回紹介しているのは一番オーソドックスな突き剥ぎだが、剥ぎの技術としてはそれ以外に、口剥ぎ、足剥ぎ、抱き剥ぎなど様々あって、それぞれ熟練を要する。うむ、道は長い。深奥なる竹細工の世界。

さあ剥ぎができた!お次は幅取りでひごの幅を揃えていく!続きは次回!

この記事が受賞したコンテスト

いつもご覧いただきありがとうございます。私の好きなバスキング(路上演奏)のように、投げ銭感覚でサポートしていただけたらとても励みになります。