見出し画像

2019年3月の音楽(とか)のこと

家事を例えば料理、洗濯、整頓、掃除と分けたときに「掃除」だけが異常に苦手である。足を踏み入れると、一見すっきり片付いている我が家の二見目で、悲しくなってしまうほどに蔓延るホコリや水アカたちを引っ越しに伴ってタイムリミットに怯えながら一掃した。特に水回り。栄えあるMVPはこいつです。

心を無にしてコシコシしたあの記憶。真っ白新品ではこんなにも威厳たっぷりなのに、ちょっとずつ摩耗し黒ずみながら、文字通り身を削って汚れに立ち向かってくれる姿の愛おしさ。

旅行をしているか、引っ越しの準備をしているか、飲酒しているかの3月。大学院の卒業式も終えたこの1ヶ月で完全に疲れ果ててしまっている。先月から引き続いて夢中な60年代後半~70年代のフォーク/SSWを合間を縫って掘っていくのが楽しくて、さらにその合間の合間でかろうじて新譜を拾っていくような流れ。


新譜

Solange「When I Get  Home」

Helado Negro「This Is How You Smile」

Yves Jarvis「The Same But By Different Means」

柴田聡子「がんばれ!メロディー」

Ahmed Ag kaedy「Akaline Kidal」

kitchen「pussy willow」

君島大空「午後の反射光」

THE NOVEMBERS「ANGELS」

Christian Scott「Ancestral Recall」

ゆっくり腰を据えて聴けないと、入ってくるものも入ってこないようで、特に話題作は今更僕が薄っすい感想、評を書いても面白くなさそうに思う。

大注目作にはこんなに素晴らしいレヴューもあるし。僕にとってひたすら縁のない要素で構成された傑作としておなじみTHE NOVEMBERS新作。3曲目「Everything」はチャゲアスっぽいというのはよく言われているが、僕は聴いて最初 the pillowsかな?と思ったということを一応書いておきます。柴田聡子の新作は今月例外的になかなかの回数を聴いた新譜で、たくさん元気をもらった。「涙」はいつ聴いても泣きそうになってしまう名曲です。Yves Jarvisはトラック数と尺からSolangeの新作に似たフィーリングも窺い知れて面白い。先月号で挙げた70年代に活躍したSSWのTerry CarrierやFrank Ocean、Moses Sumneyなんかもだけど、フォーク/SSW文脈がR&B/ソウルと緩やかに混じりあった音楽は本当に大好きです。一応Bandcampでのディグなんかも今月してないわけではなくて、印象に残ったのはどちらもフォークを基調としたAhmed Ag KaedyというマリのSSWとkitchenというアメリカのバンド。どちらも日本で聴いている人はほぼいなさそうだ。

20年ほど前、出始めの七尾旅人を聴いた人たちはこんな感触だったのかなーと思いながら君島大空を聴いたり。Christian Scottの新作はダントツ今年ナンバーワンの「ヤバさ」をもった作品なんだけど、聴いててとても疲れてしまうんだよなー。そのほか有名どこで聴けてなくて悔しいやつは最後の最後に自分用としてもまとめておいたのでゆっくり聴き進めたいなー。シングルは特に忘れがち、後回しにしがちでThe Nationalの新曲すらまだほとんど聴いていない。


旧譜

今月も引き続き60年代後半~70年代のフォーク/SSWに夢中だ。ほんの半年くらい前まではむしろ苦手だったここら辺の時代の音を、いつの間にか最も豊かだとすら感じるほどになっているなんて自分が一番びっくりしている。シンプルにソングと生楽器のアンサンブルの豊饒さだけを追求したら行き着く先としてとても妥当だと今は思う。

Judee Sillというシンガーを知れただけでもう大満足。今年新譜も併せて初聴したものの中で彼女の音楽を越えるものはないだろう、とまだ始まって3ヶ月で言い切ってしまいたい。一生聴く音楽になると思います。生涯残したアルバムは70年代に残したたったの2枚。ホワイトゴスペルやクラシック音楽の要素も色濃い美しい浮遊感をもったソングが完全にツボ中のツボだし、ストリングス、ブルースハープ等が目立つアレンジも多彩で的確だ。2nd終盤の大曲「The Donor」のエクスペリメンタルな構成なんて50年近く前のものとは思えない。教えてくれたフォロワーの友達ありがとう。聴いたことない人けっこういると思うのでこれはぜひ聴いてみてください。割と有名どこと繋がるエピソードとしてクラムボンが「LOVER ALBUM」でカバーしていたというのがあります。さすが我らがクラムボン。僕は聴いてたのに知らなかった。いま改めて聴いたら、もともとアレンジやちょっとソング自体もクラムボンに近いところあるなーと気づく。いいカバーだ。


Judee Sill以外だとそれなりに有名なのはKaren Daltonか。これも最高によかった。the band「In a Station」もこの人の歌にしっかりなっている良カバー。そのthe bandも引き続きたくさん聴いた。あとここら辺の女性SSWはけっこう数聴いて例えばVashti BunyanやSibylle BaierやKate Wolfなど。ここらまで行くと名前を見かけてストリーミングの検索窓に放り込んでも未配信、みたいな例も増えてくる。Karen Daltonの1stとかもなくて聴けてないし。こうして人はアナログ沼なり中古盤沼に足を踏み入れていくのか。Pearls Before Swineはロット三船さん岡田拓郎さんのこれのSSW回から、John MartynはNick Drakeとも親交深かったSSWだ。たしかこのアルバムのバンドメンバーはNick Drakeのそれとも同じメンツだった気が。

Arctic Monkeysの去年の作品の参照としてどこかで名前が出ていたDionのこのアルバムも今の気分にドンピシャ。先月のレナード・コーエン「Death of a Ladies' Man」だったりフィル・スペクターは偉大だ。The Velvet Undergroundのオリジナルメンバーとして知られるJohn Caleは初聴。ボーカルスタイルがかなりFleet Foxesのロビン。ソングライティングもThe Velvet Undergroundより温度感があってこれはこれで最高のフォークロックです。

70年代から抜け出すとThe Magnetic Fieldsの3枚組3時間作をちょっとずつ聴いたり。エッジの効いたボリュームながら中身は良質インディーロック/フォークです。昨年の2ndアルバム「魔法」が大傑作で今でもよく聴いているSSW優河のストリーミング配信されていない1st「Tabiji」も買ってみたら、1stに負けず劣らずのクオリティーでますますファンになってしまった。2ndよりも1stはジャズやR&Bっぽい匂いが強めで、そこからくる絶妙にウェットなところが、ただのフォークシンガーとは一味違う彼女の魅力かと思います。


ライブ

3/1 中村佳穂×GRAPEVINE @ 赤坂BLITZ

あとはこれに行けなかったのが悔しすぎる。沖縄の石垣・竹富島に行っていた。そっちもとても楽しかったですが、イ・ラン、折坂悠太、曽我部恵一 抱擁家族(メンバーに平賀さち枝さんがいる!!)、とどめの蓮沼執太フィルと僕のためのようなイベント。しかも蓮沼執太×イ・ランの共作曲の披露もあったなんて。そういえば年末あたりにあった中村佳穂×蓮沼執太共作曲完成という話はその後どうなったんだろうか。音源化が超待望されるネタが複数ある蓮沼執太大先生。



その他雑記

文芸作品。旅行での総計25時間のフライト時間でそれなりに読書は捗りました。上田岳弘「ニムロッド」もよかったし、ずっと読もうと思っていたトマス・ピンチョンに手を出したりした。「競売ナンバー49の叫び」です。訳者志村氏の「解註」の方が本文よりページ数の多い一章をワクワクしながら読み進めてからの2~4章で挿入される映画や戯曲の内容描写のパラグラフでちょっと挫折も頭をよぎってからの、5章以降抜群のグルーブ感で表現されるパラノイア。僕にはそれなりになじみ深いマクスウェルと彼にちなんだ「マクスウェルの悪魔」のプロットはそれ自体と、さらに解註が素晴らしい。

『マクスウェルの悪魔は「選り分ける」ことを仕事とするが、エディパもこのあたりから特に、おびただしい情報の中で選り分けることをやらなければならない。読者も読者の立場から情報を選り分けつつこの作品を読んでいくことになる。』

4章解註のこの言葉にはある種の勇気をもらったようにも思うし、この作品に限らない真理のような姿勢にも思う。

映画は何本か。話題作はピーター・ファレリー「グリーンブック」はまあまあ、クリント・イーストウッド「運び屋」はそれよりはよくて観てよかったと思ったけど、本当にガツっと来るようなのは他にも出会えなかった。明後日あたりようやく劇場でアルフォンソ・キュアロン「ROMA」を観れそうなのが超楽しみなのと、4/12公開の「魂のゆくえ」はめちゃめちゃよさそうで目をつけています。

入社してしばらくは居住地を転々とするホテル暮らしの日々が続くので、まだまだ音楽や諸々との付き合い方にはちょっと厳しい戦いを強いられそうです。共に戦う私のギアたち。

7月のフジロックに向けて少しずーつ完全体に戻していきたいな。そういえば、超よさそうなディスクガイドを見つけたんですが、まだ買えてないんだった。持ってる人いますか?



最後の最後は予告通り今月聴けてなくて悔しい有名どこ詰め合わせをどうぞ。


どうぞお気軽にコメント等くださいね。