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2018年11月の音楽(とか)のこと

平穏な11月。いいリリースがそれはもうたくさんあって、充実感でいっぱいだ。新譜で音楽的好奇心を刺激されると、結局旧譜も気になってたのに手を伸ばしたくなって、あれやこれや聴いてしまい収集付かなくなってしまったり、しません!? 僕はします。それが今月。「せめてこれに載ってるのくらいは一通り押さえとかないとダメっしょ」とずーっと思ってはいる「Guitar Pop definitive」を引っ張り出してきて、ぽつぽつ聴いてみたりする。秋だし。

ギター奏者James Blackshawの、ギターポップの定義が全く分からなくなるオーケストラルスピリチュアルフォークサウンドにワクワクしたり(近年岡田拓郎氏との交流が盛んなのは後で知ったし、なんと今年リリースの「The Beach EP」では客演していた)、超有名どころThe Cure 、R.E.M.あたりをなぜかこのタイミングで恐る恐る初聴きしたり(The Cureはかなり好きっぽかった、やはり80年代のポストパンクは気に入るものが多い)、Nick Drakeもよかった。Nick Drakeという名前のラッパー感。なのだけど今月一番聴いたのはBen Wattの「North Marine Drive」です。前から聴いてたけど、この作品の本物の旨味が急に分かった気がして一人悦に入る。

あと2ヶ月で修論提出だ。毎月読んでくれている方からは遊んでばかりだと思われているかもしれないが、そこそこ地道にやっているので、修論だけなら余裕です。一気に戦況がひっくり返るかもしれないのが、別にもう1本投稿論文を書くことになる場合。今はどっちに転ぶか五分五分なので、ほどほどに気ままに過ごしている。

気を抜くと自宅のメインのテーブル上に本やらCDやらを積み上げてしまう癖がある。先日3、4ヶ月分くらいの「それ」を片づけたい欲が急に出てきて、本棚、CD棚等にせっせと収納した。5年間住んだ家からあと4ヶ月くらいで出るのだなーというのを踏まえると、これとかは売ってしまおうかしらとかその結果少数精鋭だけが残った陳列の美しさを想像してみたりとか、そもそもラック自体もっとかっこいいのに替える!と決意したりとか。本棚のアクセスもスルッスルになったわけで、そうなると前述の「Guitar Pop definitive」とかパッと手に取りたくなるという仕組み。

これまでのフォーマットを自らぶっ壊す触りの雑文の分量。いい新作がたくさんあったのに30年以上前の旧譜を先に紹介してみたりした11月号、ここからが本編のスタートです。


アルバム

ROTH BART BARON「HEX」

なんと言っても今月のハイライトといえば、ROTH BART BARONのニューアルバムで間違いない。これまでのディスコグラフィーと比べてみても明らかに「化けた」と思う。Bon Iver、The National、Son Lux、Dirty Projectorsといったラインナップと共に、インディーロック、フォークロックを未来へ牽引するようなサウンドアレンジ(「Inoccence」の管弦、ビートアレンジは神がかっている!!)と、もはや様式美のように鎮座する日本語がしっかりと聞こえてくるソング、という相対しがちな要素が実にすっきりと共存していることに本当に大感動。家で大音量で流しながら一緒に歌うのが本当に楽しい、というのがこのアルバムの魅力が一番伝わるエピソードかなーと今思って書いてみる。例えばそれこそ、ミスチル、BUMP、米津玄師なんかに夢中の層にも届いてほしい。そういうところとも張れるポテンシャルのある作品だと僕は本気で思う。

Villagers「The Art of Pretending To Swim」

Stephen Steinbrink「Utopia Teased」

9月くらいに出ていたVillagersのアルバムはmore recordsのtwitter投稿で知りました。ROTH BART BARONとは打って変わって、クラシカルなグッドメロディーのフォークロックかと思いきや、よくよく聴くとパーカッシブなビートが彩り豊かだし、いい意味で軽いドラムミックスはジャズ、ワールドを飲み込んだポップス(例えばAntonio Loureiro、cero)にも通ずる具合だったり、なかなか多彩な聴きどころがある。あと声質が超絶好みだ。Alex Turner×Sufjan Stevensというのがそれなりの精度の近似だと思うんですが、どうでしょう?フォークロックをもう1枚。Stephen Steinbrinkの新作はちょっとインディーポップ寄りで、これもしみじみ気持ちいい。Elliot Smithを引き合いに出されることが多いんだけど、Elliot Smith×Phoenix×Mac DeMarcoみたいな音楽だと思った。

Puma Blue「Blood Loss」

中村佳穂「AINOU」

ROSALÍA「EL MAL QUERER」

今大盛り上がりのUKブリットスクール勢。Puma Blueはフルアルバムとミニアルバムの中間くらいの何とも言えないレングスの作品をドロップ。これが本当に素晴らしくて、一気にこの界隈でのフェイバリットに躍り出た感すらあります。滑らかなソングと異様にざらついたサウンドテクスチャーの掛け合わせの妖艶なこと!!ベースとか低音をつかさどる楽器はまあ分かるんだけど、サックスや、クリーンなギターですら謎の振動が乗っかっているようなサウンドテクスチャーの圧倒的統一感。「Bruise Cruise」のふつふつ燃え滾るようなエモーショナルをチラ見せしてくるところもたまらんすよね。中村佳穂さんの新譜を聴いて、まだこんなすごい人日本に隠れてたのかと純粋に感動してしまう。無限に参照を挙げらそうな気はするけど、一方それは上辺をなぞっているだけのようにも感じてしまうようなソングライティングの懐の深さと、自由な歌唱(高音で喉を締めるような歌い方がワイルドで好きです)と、ぶっ飛んだ言語感覚。「そのいのち」とか七尾旅人に負けずとも劣らない常人離れしたフロウの連続ではないか。「最後のがキまったよね!」というフレーズがベスト・オブ・七尾旅人っぽいポイントです。例えばceroではちょっと優等生過ぎで(ceroはそれがいいんだけど)、もっともっと原始的なテクスチャー、つまり天才。その中村佳穂と同種の匂いを感じたのがスペインの歌姫ROSALÍAの新作。クラップが目立つパーカッシブな伝統的フラメンコと米英のR&B、エレクトロをうまく混ぜこんだ感覚がとても今っぽい。

Anderson .Paak「Oxnard」

Vessel「Queen of Golden Dogs」

Azekel「Our Father」

楽しみにしてたAnderson .Paakの新作も僕は好きなやつだった。フジロックでの彼のステージで最も感じたのは、とにかく楽しい音楽だなということで、今作はそのステージを思い出させてくれるような内容なだけで大満足。ポップで分かりやすくなってもそのビートセンスと、ラップと歌だけで、決めてしまう人。エクスペリメンタルなものは正直あまり分からないものもある中、Vesselはとにかく気持ちよくてよく聴いた。全編を通したビートやウワモノのコントロールが絶妙にポップでツボを突かれる。8曲目の「Paplu (Love That Moves the Sun)」の全能感よ。ロンドンのSSW、Azekelのデビュー作はMoses SumneyやFrank Oceanラインの黒さ以外の要素も巧みに混ぜ込んだソウルミュージック。そういう系の人たちの中では、ファンキーで素直に踊れる曲が多い印象だ。ただこれ聴いてるとJILはもっと今年話題になってもいいのになーと思う。

Sufjan Stevens「Lonely Man of Winter」

Grimes「We Appreciate Power (feat. HANA)」

Sufjan Stevensが今年もクリスマスソングをドロップ!!クリスマスに2枚のクリスマスアルバムやこの曲を聴くのが楽しみだ。「北朝鮮でのモランボン楽団にインスパイアされた曲で、人工知能の普及を目的としたアイドル・ユニットの視点で書かれている」という説明はちょっとよく分からないが、出たばっかりのGrimesの新曲も最高だ。インダストリアルノイズが絶妙に気持ちいい。

ライブ

11/18 ROTH BART BARON @大宮more records

大宮にある素敵なCDショップmore recordsへROTH BART BARONのインストアライブを見に行った。最新作「HEX」が入場券代わりという実質無料ライブとは思えない満足感。ただのお店なので、音量抑えめスリーピース編成という状況が逆に功を奏して、新譜の楽曲群の直接語りかけるような親密さや、静謐さが滲みでたアレンジが染みに染みました。特に表題曲「HEX」の三船さんの歌唱は改めて思い出しても完璧だったなー。ラフに歌うことで原曲の持っている緊張感が緩まって、そこからは包み込むような優しさが溢れ出してくるのです。

その他雑記

キャサリン・ダン「異形の愛」を読んで衝撃を受ける。フツウとは異形とは何なのかという主題というか本筋以外でも、イマジネーション溢れる描写や、文章自体の美しさにやられてしまった。序盤の5章「女々しく内気な暗殺者」はただただ文章として好きだし、念動力(テレキネシス)をもつ末っ子のチックが自身の「ものの動かし方」について述べる内容は、「あーそうなのか」と何故か腑に落ちてしまうような不思議な説得力と魅力があって素敵だ。

「え、本当はぼくじゃないんだよ。物が勝手に動くんだ。ぼくは助けるだけ」「水はいつも流れようとしてるけど、出られるのは穴やパイプを作ってやったときだけ。作ってやれば、どっち向きにも流せるでしょ」「大きな穴を開けたら、たくさん出てくる。針で突いたらチョロチョロ流れるだけ」「ぼくは流れるように穴を開けるだけ。おっきな穴も、小さなのも開けられるし、どっちの方向にも動かせる」「だけど、動きたがっているのは物そのものなの」

片付けをしていて、ちょっといつからの積読か分からないほど眠っていた、いとうせいこう「想像ラジオ」をイージーそうだしパラパラ読み始めたら、これがとんでもない大傑作。4章のダイアログ(でありモノローグ)に大げさじゃなく打ち震える。

Netflixオリジナル「マニアック」完走。ぶっ飛んだ世界が見進めるにつれてクセになる。普段の生活とは別の脳の回路を使って楽しむ感覚がよかった。実験世界の集大成的な9話がとても好きです。

A Ghost Storyはとてもいい映画だった。あんなにアンビエントな内容、演出なのにここまで親しみやすくて、ポップである作品がそうそうありましょうか。壁の切り込みに挟むメモ、もうあれだけでたまらない。

年間ベスト、上位9枚は1段も2段も飛び抜けた不動のやつが決っています。今年のはかなり一貫性のあるリストになりそうで、それだけ自分の好みの系統が豊作だったといえるし、好きな音楽の幅が狭いとも言えるのかもしれない。30枚それぞれにコメント書いて、詳細な総括もできたらいいなー。

どうぞお気軽にコメント等くださいね。