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<TBSドキュメンタリー映画祭2024 舞台挨拶レポート 15日(土)〜20日(水)>

ついに3月15日(金)より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷にて、映画祭が開幕しました!!
初日から、3月17日(日)までの3日間と、20日(水・祝)では、各作品の舞台挨拶を実施し、さまざまな作品の監督や出演者が登壇しました!
ここでしか舞台挨拶のレポートを全てお届けします!


○舞台挨拶レポート 15日(金)

①『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』

【登壇者】監督:金富隆 ゲスト:大友良英(音楽家)

(左から 金富隆、大友良英)

故・坂本龍一氏が遺した言葉を軸に平和への想いに迫る本作。金富監督は、本作で使用された坂本氏の貴重な映像の数々について「テレビの放送で流れるのは撮影したほんの一部。素材の90%は放送されることなく眠っています。坂本さんの言葉は今でも聞かれるべきものがあると思ったので、膨大に眠る素材を自分なりに必死に見ながら紡いでいきました」と、完成までの道のりを述懐しました。一方、坂本さんと親交の深かった大友氏は、「坂本さんの言葉がこのような形で残ることをテレビ局がやるというのが凄い。未来に伝えようという意思が伝わって来て感銘を受けました。坂本さんが亡くなりお葬式も出来ないまま1年が経ったので、動いている坂本さんを見てウルッとしました」と感動していました。また金富監督は、坂本氏の人柄について「坂本さんは裏方の人間にもフラットに接してくれる。今回の作品を通して改めてそんな方だと思った」と述べると、大友さんも「坂本さんは誰に対しても対等であろうとする人。坂本さんはキャリアもポジションも含めて周囲が自分と気軽に接しにくいのを承知で、色々な人たちと対等であろうとする努力をしているように見えた」と優しい人柄を偲んでいました。

②『私の家族』

【登壇者】監督:久保田智子 ゲスト:杉山文野(東京レインボープライド代表)

(左から 久保田智子、杉山文野)

2019年に特別養子縁組で新生児を家族に迎えた、元TBSアナウンサー・久保田智子監督自身の家族に迫る『私の家族』。久保田監督は、「作り手としては取材対象に近づいて生の映像を撮りたいと思うけれど、一方で自分は取材される側でもあって…。そこには自分を守りたいという気持ちもありました。曝け出して大丈夫なのか?私の家族はどう思うのか?そんな葛藤がありました」と心境を吐露しました。不安な背中を押してくれたのは「せっかく作品として発表するのならば、社会に影響を与えられる方が良いのではないか?」という夫からの一言だったと語りました。久保田監督は「この作品は家族が賛成してくれたからこそ出来た映画」と家族のサポートに感謝していました。
また久保田監督は、「特別養子縁組を選択する前は、家族とは子供を産んで育てることだと思っていました。それが自分に出来ないと思った時に、急にマイノリティーになる瞬間があると感じました。当たり前が出来ないと知った時に、どう生きたらいいのかわからない葛藤もありました。その意味でも選択肢があることは大切。一般的な当たり前から外れても選択肢さえあれば別の選択をすればいいと前向きに思えるから」と、特別養子縁組を経ての想いを口にしていました。
 
舞台挨拶ゲストとして登場したのは、東京レインボープライド代表で、自身もトランスジェンダーの杉山文野さん。友人からの精子提供により、パートナーと二人の子供を育てている杉山氏は本作を観て、「自分には子育ては出来ないと思っていたので、ゼロだと思っていた分、実際に子育てが出来るとそのふり幅分楽しんでいるところがあります。血の繋がりさえ気にしなければ、子育ては出来る」と実感したと話しました。LGBTQ+当事者で実際に子育てをしている人もいるそうだが、「日本では法的なハードルがあり過ぎてその数は限られている。選択肢が増えることによって子育てへの様々な関わり方が生まれたら嬉しい」と時代の変化に期待していました。
舞台挨拶の最後には、久保田監督は「自分のありのままを受け入れるのは難しかったけれど、ありのままの自分を受け入れて生きるしかないと思うことが出来て、それを発信するところまで来たわけですから、作品が完成して上映に立ち会っていることが感慨深いです」と噛み締めるようにコメントしました。

③『映画 情熱大陸 土井善晴』

【登壇者】監督:沖倫太朗 ゲスト:土井善晴(料理研究家) LiLiCo(TBSドキュメンタリー映画祭2024アンバサダー)

(左から、沖倫太朗、土井善晴、LiLiCo)

「一汁一菜」というシンプルな暮らしを提唱し、その気さくな人柄も相まって幅広い層から支持されている土井善晴さん。テレビ版をベースに映画化した本作について、沖監督は「土井先生の喋りは、どこを切ってもうっとりと聞いていられるので、番組の25分の尺に収めるための編集が大変でした。しかも土井さんは突然大事なことを言ったりするので(笑)、そこも難しかった」とその苦労を語りました。土井氏とバラエティ番組で間接的に関わったことがあるというLiLiCoさんは、「土井さんには2回救われました。1回目が、その番組の企画で土井さんが私の料理の盛り付けを凄く褒めてくれたこと。そこから料理にハマりました。そして2回目が、今回のドキュメンタリー映画。料理ってこれで良いんだと、心の中が曇りから晴れになりました!」と笑顔で告白。

そんな土井さんは、多忙から解放されたことで、料理に対して自由な発想を得ることが出来たと話します。「長らく『おかずのクッキング』をやっていて忙しかったのですが、それが終わったら自由になれた。心が自由になるのは幸せなこと。プレッシャーを感じていたんでしょう。あれは私の料理ではなく、みんなのための料理を作っていたんです。それが終わった途端、自由になったら毎回新しい料理が出来た」と、心境の変化を実感しました。そして「日常の料理にレシピなどいりません。料理なんて習わなくていい、ホンマにそう!」と名言を放っていました。

④『ダメな奴 ~ラッパー紅桜 刑務所からの再起~』

【登壇者】監督:嵯峨祥平 ゲスト:紅桜(ラッパー)

左から 嵯峨祥平、紅桜の妻、紅桜

伝説のラッパー・紅桜の再起を追った本作の舞台挨拶には、嵯峨翔平監督と紅桜さんが登壇しました。この日初めて本作を鑑賞したという紅桜さんは、「自分の顔が出ていて照れ恥ずかしい。自分の事よりも、仲間たちの表情が見られて嬉しい」と照れつつも公開を喜んでいました。思春期からラップ好きだったという嵯峨監督は、紅桜のことはYouTubeで見て初めて知ったそうで、「色々なラッパーがいる中で、紅桜だけが自分にガーンと来た。この人を追いたいと思って会社に企画書を出したら、『コンプラ的に大丈夫か?』と言われたので調べたら、なんと獄中にいた」とまさかの出会いを振り返りました。

嵯峨監督からオファーの手紙を受け取った際、紅桜さんは「何を考えてるんだ!?」と思ったそうですが、「誠心誠意、自分の姿を見てもらおうと思った」と出演を快諾。一方、嵯峨監督は紅桜さんからの返信の手紙について「とても綺麗な字で、男性とは思えぬ文字と間隔だった。紅桜はちゃんとした凄い奴だと字から読み取った」と意外な一面を紹介しました。
『ダメな奴』というインパクト大のタイトルについて、嵯峨監督は「紅桜といるとダメな奴だなと思うこともあるけれど、そういうヤツこそ愛すべき存在だと僕は思う。優等生、コンプラ、正論が幅を利かせている中で、人間は多面的だぞと。そんな思いを込めています」と説明。これに対し紅桜さんは「面白いからいいかなと。自分もダメな奴だけど、頑張る。そんな事を感じてもらえたらいいのかなと思います」とコメントしました。
イベントの最後には、そんなダメな奴、紅桜さんを支える奥様が大きな花束を持ってサプライズ登場!そんな奥様の姿に紅桜さんは、「俺は大好きとしか言えない。大好きすぎてたまらない」と愛情を溢れさせ、会場が大きな拍手に包まれていました。

○舞台挨拶レポート 16日(土)

①『サステナ・フォレスト ~森の国の守り人(もりびと)たち~』

【登壇者】監督:川上敬二郎 ゲスト:蔵治光一郎(東京大学大学院教授)

左から 川上敬二郎、蔵治光一郎

“森の国”、日本の現在を、森の守り人達が語る『サステナ・フォレスト~森の国の守り人(もりびと)たち~』の舞台挨拶には、川上敬二郎監督と、作品にも出演している蔵治教授が登壇。蔵治教授は「林業が抱える複雑な問題をわかりやすくシンプルなストーリーにして伝えている。まさに監督の才能のたまもの」と完成作を絶賛し、「都会に住む私たちの生活から遠ざかっている問題を、自分事として受け取って観てほしい」と呼び掛けました。
一方川上監督は、日本が抱える問題点について「日本の国土の約7割は森林で、先進国の中ではフィンランド、スウェーデンに次ぐ第3位。日本はサンタクロースやIKEAを生んだ国レベルの森の国にも関わらず、6割くらいは輸入に頼っており、豊かな森が活かされてない」と指摘しました。これに蔵治教授も、「日本の木材生産量は非常に少ない。森林面積で考えたら今の5倍くらい増やしても大丈夫なはず」と解説を加えました。
ネックになっているのは“森の国の守り人”=林業従事者の減少だといいます。蔵治教授は「現場で働く担い手が少ない。本来は10万人くらいの人間が必要だけれど、現在はそのほぼ半分。さらに減少傾向にある。待遇面もそうだが、林業が魅力的かつ安全な仕事だと知ってもらうことが大切」と訴え、川上監督も「メディアの力不足によって林業や森林の魅力が伝わっていない。その思いがこの映画を作りたいと思ったきっかけ」と話しました。
日本の大切な自然を守り、育むためには「教育の中で持続可能な森林作りを教えるのもありだと思う。スマホもいいけれど、自然の中に入ろうよと気にかければ若い人たちにも森の魅力や課題、偉大さを感じてもらえるはず」と川上監督。蔵治教授も「利便性と経済性を大切にした結果、都会暮らしが増えた。そんな時代において、森に入ることは贅沢なことだとされているけれど、その贅沢をエンジョイする世の中になってもいい。ヨーロッパでは入林権が国民に認められており、散歩する程度ならば所有者の許可がなくても自由というルールがある。日本にはそのルールがないので、そこの変化にも期待したい」と提言していました。


②『カラフルダイヤモンド~君と僕のドリーム~』

【登壇者】監督:津村有紀  ゲスト:古川流唯・内海太一・設楽賢・高垣博之・國村諒河・岡大和・小辻庵・関優樹・永遠・加藤青空

名古屋を拠点に活動するBOYS AND MENの弟分・カラフルダイヤモンドの奮闘を追った『カラフルダイヤモンド~君と僕のドリーム~』。舞台挨拶には、津村有紀監督とカラフルダイヤモンドのメンバーから古川流唯さん、内海太一さん、設楽賢さん、高垣博之さん、國村諒河さん、岡大和さん、小辻庵さん、関優樹さん、永遠さん、加藤青空さんが登壇しました。
チケット即完で迎えたこの日の舞台挨拶。古川さんは「凄く緊張していたけど、皆さんに笑顔で待っていただけて…。そして僕らカラフルダイヤモンドの歴史を見てもらえて嬉しいです!」と喜色満面。設楽さんも「場内に入った瞬間、皆さんの顔がいっぱいあって良かった。ドキュメンタリーということで堅苦しいイメージもあったかもしれないけれど、皆さんが笑顔で観てくれたのが嬉しいです。この作品を通して僕らの魅力が伝わったら!」と期待を寄せました。高垣さんは、「感動的なシーンもあったので、皆さんのお顔に涙の跡の線2本があったら嬉しい。ポップコーンを食べながらカラフルダイヤモンドを見ることはレア体験。2回目を見る人は、ポップコーンをマストで作品を見てほしいです!」とお勧めしました。岡さんは「上映初日という特別空間を皆さんと一緒にいられるのが幸せです。ステージに立って良かった、ドキュメンタリー作品になって良かったと思えました!」と感激していました。

グループにとって初の密着取材となった本作。これに小辻さんは「初の密着ということで緊張したけれど、メンバーそれぞれの顔がしっかりと映っていて、しかもメンバーの知らないところも知れたりして嬉しかった」と達成感を覚えたことを明かしました。関さんは「真面目に語っているシーンは正直ド緊張しました。でも監督とどんどん打ち解けて、素の表情になっていきました。インドカレー屋さんのシーンでは、思わず素の姿になっています!」と見どころポイントも挙げていました。永遠さんは、「映画の経験もドキュメンタリーの撮影も初めてだったのでド緊張。それもあってか僕は素が出る前に撮影が終わりました。…この作品に映っている永遠は、永遠の中の永遠じゃないところが出ています。まさに永遠役の永遠でした」といまだ緊張しきりの様子でした。加藤さんも「カメラや照明、そして何人もの大人に囲まれて、そんな中で椅子に座らされて質問されて…。緊張しないわけがない!カメラには映っていないけれど手はブルブルでした。ヤバかったです!」と大いに緊張していたことを明かしていました。

劇中には、國村さんと内海さんが神妙な面持ちで本音を吐露するシーンも。内海さんは「お好み焼き屋さんで1時間語る予定が、大いに盛り上がって3時間くらいになった。お店の席に座った時は緊張していたけれど、本音をぶつけ合うことが出来ました」と回想。國村さんも「毎日会っているのに、最初は元彼に会ったみたいな気まずい雰囲気に(笑)。一緒に暮らしているのに、『最近元気?』とか聞いたりして。でも自分の中で思うところもあったので、今日はその話をするぞと挑んだ。あの瞬間に思いをぶつけることが出来て、本音トークが出来ました」と手応えを感じていました。内海さんは「あの本音のぶつけ合いをきっかけに前に進めた気がする」と本作の撮影がグループとしてのターニングポイントだと実感していました。
そんなメンバーたちの姿に、津村監督は「彼らはこちらが質問を投げかけなくても色々な話をしてくれて、それが自然とドキュメンタリーになった。グループとしてはもちろんの事、それぞれ個人としても考えが深くて、ご本人たちの哲学も滲み出しています。私は彼らよりも倍以上の年齢だけれど、彼らの考えや悩みが重なるところもあって勉強になりました」と影響を受けていました。

舞台挨拶の後には、カラフルダイヤモンドのメンバーたちが観客を見送る「ハイタッチ会」も実施!映画の感想や応援メッセージを伝えられたメンバーたちは、ますますまぶしい笑顔を見せていました。

○舞台挨拶レポート 17日(日)

①『旅する身体~ダンスカンパニー Mi-Mi-Bi~』

【登壇者】監督:渡辺匠、志子田勇  ゲスト:KAZUKI(サインパフォーマー) 東ちづる(俳優・一般社団法人Get in touch 代表)

(左から 渡辺匠、志子田勇、KAZUK、東ちづる)

「未だ見たことのない美しさ」を観客に届けるダンスカンパニー「Mi-Mi-Bi」に密着した本作。志子田監督は、作品が完成した際のMi-Mi-Biメンバーの反応について「僕の目という客観性を通して、自分たちの活動がこういう風に他者から見られるのかということを知っていくという反応がありました」と報告しました。制作する上では「ナレーションやテロップを排したのは、彼らが本番で見せるダンスをそのまま映像として残したかったから」と臨場感にこだわったことを明かしました。一方、渡辺監督はバリアフリー上映に触れ、「バリアフリー上映製作のプロの方にも協力していただき、通常ではない形で上映をしています。より多くの方々に観ていただきたい」と呼び掛けていました。
 
本作にも出演しているKAZUKIさんは、「ドキュメンタリー映画を観る機会がないので、撮影中はどのように自分が映るのかイメージが出来なかった。でも完成作を観て、自分は人の目にこう映っているのかという発見があった。特性を持った人たちとの間には見えない壁があるはずなのに、グラデーションが溶けるような心の繋がりが一つになって作品としてまとめられていて感動しました」と絶賛していました。

当日も含め既に2回本作を観たという東さんは、「本番までのプロセスを見ることが出来て驚いたし、表現することは生きることだと実感した。前のめりになって観ました」と感動していました。バリアフリー上映にも触れ、「見えない人にも聞こえない人にも楽しめる作品であることを広く伝えたい」と意気込み「私たちは特性を持つ沢山の方々と生きている。その事実を映画で伝えることは大きな力になる。様々な特性を持つ人たちがエンターテインメントの世界でもっと活躍してほしい。そのチャンスを作る一助にこの映画はなると思います。施しではなく、誰にとってもチャンスのある世界になればいい」と期待を込めていました。

②『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』

【登壇者】監督:佐井大紀 ゲスト:小川哲(小説家)

左から 佐井大紀、小川哲

1980年代当時、ハーレム教団と称され注目を集めた謎の集団「イエスの方舟」の現在に迫る『方舟にのって~イエスの方舟45年目の真実~』。佐井監督は「イエスの方舟」を題材にした理由について、「当時からハーレムやセックスカルトという言葉が当てはまる集団という報道のされ方をしてきたが、彼女たちの生活を見ることでその存在をどう受け取るのか考えてもらいたかった」と明かし「自分自身、今回の取材を通してわからなくなったりもしました。彼女たちからは強い思いで自分たちの人生を突き進むたくましさを受けましたが、距離を詰めるたびに“イエスの方舟”という実態がわからなくなる不思議な感覚がありました」と振り返りました。
ゲストとして登壇したのは、数々の賞を受賞する小説家・小川哲さん。小川さんは本作を見て、「佐井監督の作品は伝えたいことではなく、問いたいこと考えたいことが先にあり、問いかけが原動力となり、それにドリブンされる形で映像が進んでいく。問いが先にあると全体の構成がアンバランスになるが、カメラを持っている当事者の疑問がダイレクトに伝わってくる。今回はその問いすらも彼女たちの生活に触れることで変容し、監督自身も全く想像しない地点に辿り着いている」と分析しました。「その姿勢がモノ作りをする上で誠実だと思った。全体の構成を考えて作るのも重要だが、僕はそこに共感する」と激賞しました。
 
現在放送中のTBSドラマ『Eye Love You』を手掛けるなど、普段はドラマのプロデューサーである佐井監督は、「普段の仕事では構成を先に決めて、どのような目線で視聴者に見てもらうかを考えているけれど、ドキュメンタリーはそのテレビドラマ的な作り方でやるとウソっぽくなる。最初に方向性を決めることも大切だけれど、ドキュメンタリーではそこをあえて外したらどうかと意識して取り組んでいる」と打ち明けました。映画では、イエスの方舟として共同生活を送る女性たちに直接マイクを向けているが、佐井監督は女性たちの共通点について、「知的で気の強い女性たちで、それぞれが明確な意思を持っている。洗脳されているからそうなのか、それとも彼女たちが元々持っているものなのかはわからないけれど、全員の女性からは強い意志と知性を感じました」と解説していました。また小川さんは、20代にしてセンセーショナルな題材に挑む佐井監督の姿勢を賞嘆し、「次の作品も含めて、佐井監督が50歳、60歳になった時にどんな大人になっているのかも気になるところ。これからも長い目で見守っていきたいです」と才能に惚れこんでいました。

③『最後のMR.BIG~日本への愛と伝承~』

【登壇者】監督:川西全 ゲスト:伊藤政則(音楽評論家)

左から 川西全、伊藤政則

“さよならツアー”のために来日したアメリカの人気ロックバンドMR.BIGに密着した本作。音楽評論家の伊藤さんは、「熱量がないとここまで作れない。個人ではなく会社としてここまでやったという功績は大きい。(亡くなったMR.BIGのメンバー)パット・トービーの視点もあり、MR.BIGに対して日本のファンがどう向き合ってきたのかの視点もある。これまでにない視点で描かれるMR.BIGのドキュメンタリーだ」と絶賛しました。さらに伊藤さんはMR.BIGの魅力について、「音楽は当然ながら、彼らには庶民レベルでの人としての良さがある。人間力が高い」と分析。川西監督も「インタビューでは4人のバランスの良いケミストリーを感じた。前に出てくるビリー・シーンさんとエリック・マーティンさん、黙ってしまうポール・ギルバートさん、そこを上手くコントロールするパット・トービーさん。そのバランスが美しい」と素顔を紹介しました。また、MR.BIGの日本愛をヒシヒシと感じたという川西監督は、「震災など日本が苦しんでいる時期に来日してライブをやるという行為は、まさに無償の愛に近い。そこに打算はない。それがMR.BIGと日本のファンのお互いが惹きつけられる要素。アメリカでのインタビューの際も、日本の事をいつも気にかけてくれていました」と、バンドの親日家ぶりを回想しました。
 
今回の作品ではMR.BIGの“さよならツアー”の様子が収められているが、伊藤は「実は今年の夏あたりにニューアルバムを出すらしい」とまさかの事実を明かし「もしそれが300万枚くらい売れたらどうするの?バンドは終われるの?それだけ好評ならばツアーだってやるだろう」と今後の展開に期待していました。“引き際”問題もありますが、伊藤さんは「彼らが出来ると思うならばやればいい。年齢を重ねた衰えなんて、それはリスナー側の問題。ファンが許せばそれでいい」と、MR.BIGの活動の継続を願っていました。

④『オキュパイド・シティ(原題)』(海外招待作品)

【登壇者】監督:スティーヴ・マックイーン監督 ゲスト:ビアンカ・スティグター(原作者)
※オンラインでの舞台挨拶

左から スティーヴ・マックイーン、ビアンカ・スティグター

海外招待作品からは、A24が製作した上映時間4時間超の大作『オキュパイド・シティ(原題)』が上映されました。『それでも夜は明ける』『SHAME -シェイム-』で知られる、アカデミー賞受賞監督スティーブ・マックイーンと、監督の妻であり原作者のビアンカ・スティグターが、オンラインで舞台挨拶を実施しました。夜遅い時間帯にも関わらず訪れた多くの日本の観客に向けて、「この長い映画のために時間を割いてくれてありがとう」と感激の面持ちで挨拶しました。
スティグターによる書籍「Atlas of an Occupied City (Amsterdam 1940-1945)」をベースにした本作について、マックイーン監督は、「妻の出身地アムステルダムを知っていく中で、アムステルダムとは過去が現在にそのまま生きている都市だと思いました。なぜならばアムステルダムには、日々の生活の中にナチスに占領された証拠が残っているから。そこで映画監督として、過去と現在の二つの時間を、“場所”という一つのフレームに捉えることで、生と死を一度に捉えることが出来るのではないかというアイデアが思い浮かびました。現在に過去を投影する、しかも過去の映像を使うのではなく、妻が書いた文字を使いながら過去と現在をオーバーラップさせようと思った」と解説しました。
一方、妻スティグターさんは「アムステルダムの過去の映像を使用しないことによって、この映画は記憶に対する瞑想のような作品になりました。現在と過去がボイスオーバーや映像で交わることで混乱を呼び起こすと同時に、過去と現在が繋がっているのだという効果が生まれたはずです」と語りました。これにはマックイーン監督も、「人生には混乱がつきものだから、この映画を観て受け取った混乱は間違いではない」と狙い通りだと話しました。
 
またスティグターさんは、本作を4時間超えの大作にした理由を問われると「題材がその時間を求めたからです。単に物事を知ることと全身全霊で感じることは違います。この作品は歴史の“授業”ではなく“瞑想”ですから。その瞑想に対して観客が身をゆだねて心を開いてくれれば、本作の意図はおのずと感じることが出来ます。皆さんをそのような状況にするための必要な4時間なのです」と必然的上映時間だと答えました。
最後にマックイーン監督は、「本作はアムステルダムという具体的な都市の物語であると同時に、どこにでも当てはまる普遍的な物語でもある」とアピールして「改めて日曜日の遅い時間にも関わらず、この作品のために多くの時間を当ててくれて感謝します。次は日本で直接皆さんとお会いしたいものです」と来日を約束していました。

○舞台挨拶レポート 20日(水・祝)

①『BORDER 戦場記者×イスラム国』

【登壇者】監督:須賀川拓、ゲスト:白川優子(国境なき医師団)

戦場ジャーナリストとして最前線で取材を続けている須賀川監督が手掛けた最新作にして、過激派組織イスラム国の“いま”を追いかけた『BORDER 戦場記者 × イスラム国』では、シリア奥深くの砂漠にある難民キャンプを取材し、壊滅したと思われていたイスラム国の極めて危険な思想にいまだ共鳴する人々がいる現実をあざあざと映し出しています。
須賀川監督は「作品の中にはショッキングな映像もあるが、これが現実に今起きていることだということを知ってほしい」と満員の会場に向けて呼び掛け、出演者でもある白川さんも「本当にヘビーな作品でした。ただこれが現実に起きている事実。映画に出ている身としても、受け止めなければいけないと思いました」と述べました。
また須賀川監督は、本作で取り上げたイスラム国について「皆さんに今日持って帰っていただきたいのは、イスラム国は過激で危険な思想を持っているが、その考え方は一般的なイスラム教徒とは違うということ。彼らはコーランの教えとはまったく反したことをしている。イスラム国という名前のせいで、多くのイスラム教徒は心から傷ついている」と解説しました。
「国境なき医師団」としてさまざまな紛争地域を訪れた白川さんは、中でも本作で取り上げられたシリア・ラッカの惨状は「思い出すだけで辛い」と言うほど、凄まじいものがあったと語ります。これに須賀川監督は、「言葉は悪いが、国境なき医師団とは紛争地域の記者たちの間では“ヤバい人たち”と言われている。なぜならば、国境なき医師団は最後の最後まで人道支援を貫くから。そんな彼らが撤退したら、その地域には絶対に行ってはいけないという不文律があるほど」と明かし、「お互いによくぞ生きて戻って来られたなと思います」と互いを労っていました。
一方、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くガザ地区の現在について、須賀川監督は「毎日のように子供が死に、病院が爆撃され、民間施設が破壊されて戦闘が起こり、多くの人々が命を落としている」と伝え「ガザの被害も深刻だが、イスラエル側の人質も1,000人くらいおり、その安否は一切わかっていない」と、地獄のような状況だと説明しました。
紛争や戦争が長期化すると、日々のニュースとして報じられる機会も減少していきます。これについて須賀川監督は、「テレビのニュースとして見出しが経たないような内容であっても、現実を伝えることが出来るのが映画の力。私はテレビ記者ではあるけれど、そこにこだわることなくさまざまな形で紛争地域の現実を伝えたい。ガザに取材に入ることが出来れば、いつか作品にしたい」と意気込みを語りました。
 
そんな紛争地域に対する支援の心構えについては、「気負い過ぎない方が良い。自分の生活と折り合いをつけながら、小さな接点を持つだけでもいい。彼らが望んでいることは、忘れないでほしいということ。忘れてはいないということを伝えるだけでも彼らの心に与えるものは違う。それくらいライトな姿勢でもいいと思います」と須賀川監督。白川さんも、「私たちも過激思想を持つ人たちも同じ人間。お互いの考え方の違いを認めて理解して尊重する。違いを攻撃するのではなく、違いを受け入れることも大切」などと思いを語りました。


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