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秋田「いちじくいち」をプロデュース 編集者・藤本智士さん ~前編~

柿次郎:「Dooo!司会の徳谷柿次郎です。きょうは秋田県・にかほ市に来ています。『北限のいちじく』とありますが、ここはいちじくが有名な場所で生のいちじくがこんな感じで・・・売り切れています(笑)。(ちょっと前まで)すごい行列が並んでいて、あ、こちらがいちじくですね。

このいちじく目当てに人が集まっているこの場所は、僕がすごく尊敬している編集者の藤本智士さんがプロデュースしていて、今回は藤本さんに話を聞きにきています。Dooo!」

10月6日、7日の2日間、秋田県にかほ市で開催された「いちじくいち」。地元生産者によるいちじくの販売や全国の飲食店・物販店のマーケットなど盛りだくさんのマルシェイベントです。柿次郎も長野のお店「やってこ!シンカイ」のブースを出店。2016年にスタートしたこのイベントは今年で3回目、2日間で5000人の来場者で賑わいました。この「いちじくいち」を開催したのが柿次郎が尊敬するという編集者の藤本智士さんです。

藤本さんは地方をテーマにした雑誌や書籍の編集を手掛け、秋田県発行のフリーマガジンの編集長も勤めました。その秋田県ですが、少子高齢化・人口の減少は日本一。まさにこれからの日本が突き進む未来の先頭を行くトップランナーです。その秋田で人口減少時代に適した新しいくらしを提案し、身の丈にあった豊かさについて考えるイベントを作りたいという藤本さん。
「いちじくいち」が目指す先にあるものとは何なのでしょうか?

柿次郎「本日のゲストは編集者の藤本智士さんです。」
藤本「よろしくお願いします。」
柿次郎「藤本さんに色々聞きたいことありますが、まずどんな人か?
秋田でなぜこんなことをやっているのか?」
藤本「僕は柿次郎と一緒で職業的には編集者。本作ったり雑誌作ったり、最近は柿次郎のようにネットメディアの編集もやっているけど僕は編集を広義にとらえているので本や雑誌作る以外にも、たまには企業さんと商品作ったり。今回で言うと町の皆さんと一緒にこういう場作りをするのも編集のひとつだと思っていてそういう意味での編集者だと思っている。今回は「いちじくいち」というイベント。秋田県のにかほ市で秋田県の最南端。『北限のいちじく』といういちじくの最北端の生産地でそのいちじくを真ん中にしたマルシェイベントをやっています」


柿次郎:「出身は兵庫県?」
藤本「僕は普段は兵庫県の西宮に住んでいて、そもそもは2012年から『のんびり』というフリーマガジンの編集長を4年間ぐらいやっていて、それが秋田県庁の仕事だったので、それがご縁で秋田に来るようになり、今もなお」
柿次郎:「『のんびり』の取材の過程でこのいちじくに出会った?」
藤本「そもそもこの町には池田修三さんという木版画家がいてその人の特集を昔、『のんびり』で組んでこの町に来るようになったというのがご縁。

そのときにいちじくが売っているのはなんとなくは知っていたけど僕たちが普段食べているいちじくって桝井ドーフィンっていう品種なんだけど、それが静岡とか愛知で生産されていて柿次郎が東京だったり、僕が大阪で食べているのはそれ。

それは赤くてでっぷりして完熟を食べる。でもこっちのいちじくは全部緑で小さい。なんでこんな若いのにもぎっているのだろうと思って何でかなと思ったら品種が違った。ホワイトゼノアという品種で、僕が面白いと思ったのは北限なのでどうしても成長が遅い。冬が来ると急に成長が止まるからそれも含めて小さいままらしいけど、そうすると糖度が若干低めだったりするので皆さん保存食として甘露煮にする。

甘露煮にして食べるのがこの町の文化で、青いままのいちじくを持ってかえって家で甘露煮にすることを知りそう思いながらにかほの人の家にあがっていくと、よくコーヒーと甘露煮が出される。」

柿次郎:「お茶の間で必ず?」
藤本「そうそう。それが強烈に甘かったり。基本は保存食だから」
柿次郎:「漬物みたいに塩漬けを砂糖でやるかみたいな」
藤本「できるだけ保存できるように砂糖をドバっといれるような文化なので、甘いわとかちょっと苦手やなとか・・・思っていたりしたけど、今この時代は保存しなくてもいいじゃない。冷蔵庫あるから。保存食のままでいかなくてもいいんじゃないかと思って、そこに僕の編集の余地がある気がした。せめてそれを糖度を抑えていちじくのコンポートって売った途端に違うお客さんが買いそうという編集ができる気がしたし、もともと池田修三さんというアートで出会った町なのでもう少し食文化で何か出来ればと思っていたところに出会いがあった」


柿次郎:「自分たちでやっているんですよね?」
藤本:「そう。柿次郎も最近、長野と二拠点でやっているし僕も地方のお仕事をしたり声をかけてもらうことも多いけど、秋田に関して、僕は足を突っ込みすぎているから若干、愛が芽生えてきていて鳥海山綺麗!とか振り返れば日本海綺麗!とかやたら風光明媚なすばらしい環境があってご飯もウマイので。この町自体を知ってほしいなと思って、この町にいろんな人が来てもらうようにするにはどうすればいいかといつしか悶々と考えるようになった。」


柿次郎:「いちじくいちは何年目ですか?」
藤本:「3年目。」
柿次郎:「一回目は結構難しかった話聞いたことありますけど」
藤本:「人がそもそも来るのだろうかとか色々悩みながら初年度を迎え、実はこの会場は3年目は変えたけど、1年目から廃校になった小学校を使っているのは変わらなくて別の学校だったけど、廃校になるくらいなので辺鄙なところにあると。車でしかたどり着けないところに何人くるだろうということで目標1000人にした。ふた開けたら5000人来てくれた。」

柿次郎:「1年目で?想定の5倍」
藤本:「怒られまくって・・・」
柿次郎:「キャパシティを越えてしまった?」
藤本:「2キロ先まで渋滞で、駐車場もいっぱいで車を路肩に停めていくから警察にもこっぴどく怒られ、お客さんからもクレーム、クレームで・・・という1年目」

藤本:「このイベントで何がやりたいかって、聞く人からすると上から目線と思われるのであまり言わないけどリスペクトの気持ちを持ちながらも“お客さんのクオリティを上げたい”。役所ベースだったり自治体が主催になると、結局成果は何人動員したかということになる。僕も5000人来てくれたね、やったねという充実感もあるけど、本当にただ受身で何かやってるなと、何やねん!駐車場どうなってんねん!みたいに帰っていくお客さんはできれば結構ですと言いたいくらいの感じだから。それよりもこうやってやっているんだと意味合いを理解してくれたり、その裏にある物語を汲み取ってくれたりとかそういうものの価値をいろんなことで評価できる人がローカルに増えるといいなと思っていて、たとえ一個一個の単価が上がってもいいから普段食べれないもの、クオリティの高いものを出してくれと(出店者に)お願いしている」

柿次郎:「いいものを知って、後戻りさせなくする?」
藤本:「単純に視界広がると絶対いいと思うから。視界が広がるだけで豊かになるのでそういう目線で地元のものを見て、結構地元の人が出店しているので、僕らはローカルに色々行っていると比べる対象がある。ここの店がめちゃうまいというのは他と比べてめちゃうまいと思っている。でもこの町に住んでいる人はここ美味しいなと思っても比べることができない。それをこういうところで改めて出し方もきれいとかしっかりうまいとかいうのを再認識してもらってやっぱり地元のこの店めちゃうまいんだなという風にまた思ってもらえるといいなって」

この「いちじくいち」、地元にかほ市のバックアップもありますが運営の費用については、補助金などの公的資金には頼っていません。そこで3回目の今年、挑戦したのが「クラウドファンディング」です。会場整備費用などに充てるため目標金額を200万円に設定し応援を呼びかけました。

柿次郎:「今回、クラウドファンディングを使ってこのイベントに対してみんなでお金集めてということをなぜやろうと思ったかということとやってみてどうだったかということもあるけど、ついさっき目標金額200万円達成したんですよ。」
藤本:「ありがとうございます。うれしい」
柿次郎:「イベントを開催しますというプロジェクトでなかなか200万円って即時的な場所にお金を集めるのは大変じゃないですか?」
藤本:「本当にクラウドファンディングって試される。勇気いるんだよね」
柿次郎:「数字が全て出ますからね」


藤本:「それでもやる意味は感じていて本当に自腹でやっているんですよ、このイベント。自腹といっても僕のポケットマネーという意味ではないけど、『のんびり』という秋田でやっている会社の中でやっていて、だから頑張って回収したい。初年度結構な赤字になり、2年目は入場料をとろうという話になった。じゃあいくらとるのかとか、まだ2年目だしある程度の人にも来てほしいしと思った結果、入場料自由というわけわからん感じに。入るときにお賽銭箱みたいなものを置いて」
柿次郎:「投げ銭的な感じで気持ちを置いていってくれというような感じですね」


藤本:「見てくれたらわかるけど朝からすごい行列で、10時でみんな血眼になっていちじくを買い求めにくるから、全然目に入ってないのお賽銭箱。3年目の今年は退場料をとろうと。入場無料、退場料有料ってこれもよくわからないけど、これもドネーション制で帰り際に自分の満足度でお金を落としてくれたらいいなって。入場料自由ってしただけでね『あなたたち補助金とかもらっているんでしょ』とか『何で入場料とるの』とか行ってくるおばちゃんとかいる。やっぱりみんなそう思ってるんだなとローカルでイベントをやるということは、イコール予算化された中でやっているんでしょと。よそ者というかあなたたち業者さんでしょみたいな感じの圧が結構な感じできたので。これは自分はいいけどスタッフもそうやって言われたら疲弊するからこれはまずいなと思って、僕たち自腹でやっているんですということを言わなければいけないなと。あんまり言えてなかったけど、これをちゃんと言おうと言ったときにそれをただ言うより、こうやって困っているからクラウドファンディングしますといったほうが届くのではと思って、目標額を達成するのも大事だけどそれ以上になんでクラウドファンディングやるかはそれは自分たちでやっているからで実際に累積の赤字がこれだけあるとちゃんと言うというためにクラウドファンディングをやった」

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後編につづく・・・