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山脇由貴子さんに聞く!児童相談所の話、児童心理司という仕事(前編)


柿次郎:Dooo!!司会の徳谷柿次郎です。どうぞよろしくお願いします。
本日、Dooo!!ゲストをご紹介します。元児童心理司で心理専門家の山脇由貴子さんです。よろしくお願いします!

山脇:よろしくお願いします。

心理専門家の山脇由貴子さん。東京都の児童相談所で19年間児童心理司として働いてきました。山脇さんはこれまで「いじめ」や「不登校」そして昨今急増している「児童虐待」など悩みや問題を抱える大勢の子供や親と向き合い、問題解決に導いてきました。2015年には児童相談所を退職し、現在は都内に心理オフィスを開業。大人から子供まで男女問わず、幅広い人々に心理カウンセリングを行い悩みや問題に導いています。前編では、そんな山脇さんに児童相談所時代の話、そしてこれまであまり知られてこなかった児童心理司という仕事についてもたっぷりお聞きします。


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19年間児童心理司を・・・

柿次郎:心理専門家の元児童心理司…ちょっとどういったお仕事をされているのか、教えていただいていいですか?

山脇:はい。元々私児童相談所に勤務していて、児童相談所の中で働く心理の専門家を厚生労働省で「児童心理司」という風に定めているんですね。悩んでいる子供や悩みのある家族の相談を受けて、お子さんの心理テストや知能テストというのをとったり、お父さんお母さんからお話を聞いて問題の原因がどこにあるかねって分析して、そのあとにそれじゃこれから何をしていったらいいかっていうケアの内容を考えるっていうのも児童心理司の仕事ってことですね。

柿次郎:なるほど。それをもう19年ぐらい?

山脇:はい、19年間都内の児童相談所でやっていました。

柿次郎:その電話してくるのは、子供なのかそれとも親なのかどっちですか?

山脇:圧倒的に親や、今虐待がね、報道でもたくさん流れていますけど、虐待を発見した近所の人だったり学校の先生だったり保育園の先生だったりっていうところからも相談はきます。

柿次郎:そういう1つアラートが出たときに対処するというか。

山脇:どういう風に関わるかはみんなで考えながら心理的なアプローチを考えていくってことですね。

柿次郎:なるほど。児童相談所っていうのは、結構どこにでもあるものなんですか?

山脇:そうですね。全国の都道府県と政令指定都市に設置をされています。

柿次郎:なるほど。じゃあ何かあればそこに電話しようねみたいなものが学校にも紙に書かれていて、そこに相談しようみたいな。

山脇:そうですね、今はもう虐待を発見したら通告するっていうのが義務になっているので、東京なんかだど住宅が密集しているので近隣からの通報、怒鳴り声がするとか鳴き声がするっていう通報もとても多いですね。

柿次郎:それは先に警察に電話がいったりとかするってこともあり得ますよね?

山脇:警察に連絡がいくこともありますし、ただ「189(いちはやく)」っていう児童相談所の児童虐待専門ダイヤルってものがあるんですね「189」っていう。それがだんだん広がってきているので、やっぱり警察に電話するほどでもないかなって方は児童相談所に電話してくる場合が多いと思います。

柿次郎:そうなんですね。


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児童相談所は0歳から18歳の子供の関するすべての相談を受ける公的な機関です。その対応を主に行うのは、児童福祉司と呼ばれる子供や親の相談に応じ、調査・指導をする職員山脇さんのような心理の専門家である児童心理司。しかし最近では、悲惨の虐待を救うことができなかった原因として、児童相談所本来の役割が機能しているかという問題が報道でも度々取り上げられるようになりました。山脇さんは著書『告発 児童相談所が子供を殺す』の中でもその仕組みについて綴っていますが…



児童相談所の構造的な問題

柿次郎:その児童相談所のお話をお聞きしていると、結構仕組み的に難しさというか…。

山脇:そうなんですよね・・・。

柿次郎:そこちょっと教えてもらってもいいですか?

山脇:もちろん、専門家もいるんですけれども、あくまでも各自治体によって差はあるんですけど、自治体によって例えば東京都なんかは公務員の一移動先でしかないんですね。

柿次郎:なるほど。

山脇:だから、東京都の公務員試験を受けて公務員になった人が配属される場所でしかないので、児童相談所で働きたくないって思っている人や児童虐待にできれば関わりたくないなって思う人も配属されるっていう問題があって。で、その人たちが研修3週間なんですけど東京は、3週間の研修を経て1人前として子供の命に関わる児童虐待、それから家族の運命に関わる問題についての判断をしていかなきゃいけない訳ですよ。この親は虐待する親か続ける親なのかとかっていうことを。それはやっぱりなかなかできないことであって、そのできないことをやらせているっていう自治体の問題というか国の問題でもあると思うんですよね。だからやっぱり事件が起きてしまうっていう現実はありますよね。

柿次郎:そっか…。公務員的には3年ごとに部署の配置換えとかになるとかで急にお達しがきて、「今日から児童相談所で」みたいな。けど、専門的な知識とかそういったものがない訳ですもんね。

山脇:相談の経験、相談を受けた経験もないし虐待の内容なんか何も知らないしどうやったら虐待を見抜けるかなんて当然わからないし、親御さんとの面接スキルもない人もやってくる訳で。もちろん私がやっていた児童心理司みたいに心理の専門家として採用される人もいますけれども、ケースワーカーの役割の児童福祉司っていう方が移動先の1つでしかなくて、いろんな職種の人・新卒の人もやってくるってことですね。

柿次郎:新卒でもいきなり?

山脇:はい、いきなり配属されてくるということがあるんですよ。

児童心理司に求められるスキル

柿次郎:その児童心理司の人に求められるスキルというか、どういったことにある程度精通していないといろんなケースの子供たちの事例に対応できないんですかね?

山脇:当然ながらまず心理テスト絶対できないといけないです。知能検査も基本的には重要で、知能検査っていわゆるIQを測る検査なんですけど、これが必要なのはこの子がどのくらいの能力があってどのくらいの表現力があるかってことと、どれくらい真実を語れるかっていうことも関係してくるので、これはやっぱりやらなくちゃいけないってことと。知能テストも心の状態を見るわけで話をしているだけだと人間って嘘もつくし隠し事もいっぱいしますし。本当は虐待をされていても本当のことを言えない子もいっぱいいるので、私がやっていたのが「はい」「いいえ」式の検査の他に「投影法」っていう絵を描いたりとか「ロールシャッハテスト」っていうインクの染みを見て何に見えますかというテストなんですけど、そういうものから深層心理をちゃんと見ていくっていうことのスキルは絶対的に必要ですね。

柿次郎:なるほど。主観でどうこうではなくて、そういうテストを用いたデータの中からどう対処するのかっていうものをちゃんと。

山脇:印象じゃなくて科学的根拠をこうあるんですよっていうのを示せないとやっぱり専門性がないっていう風になってしまいますね。

著書に込めた思い

柿次郎:なかなかそこの課題って、僕も普段接することのない世界ではあるんですけど・・・こちらですね『児童相談所が子供を殺す』という著書。なかなか強いタイトルではありますけど。

山脇:そうなんですよね。ただ、現実に事件で報道されているように子供を救えなかったっていう事件がやっぱり起きてしまうので、児童相談所の構造的な問題ももちろんありますけど、やっぱり児童相談所っていうのは子供の言うことは絶対的な真実として扱わなければいけなくて子供の言葉を最優先しなきゃいけないっていう徹底して子供を守るんだってことがどうしてできないんだろうって。

児童相談所の職員であれば当たり前にやらなきゃいけないことができていない現実をどう改善していったらいいのかっていうのを考えた時に今の問題点を本に書くしかないなって。タイトルは出版社が考えたんですけど(笑)。

虐待する親の心理ケアも必要

山脇:だから、当然ながら子供に愛情を注ぎたいけど注げない親もいて、(親が)叱るだけとか子供を児童相談所が保護するだけじゃなくて、親の心のケアやどうしたら虐待をしなくなるのかっていうのも真剣に取り組まなきゃいけなくて、そこはまだ十分にできていないと思うので。これからは虐待する親の心理の分析とかも、もっともっと突っ込んでやっていかなきゃいけないなぁって風には思います。

柿次郎:それを好意的に対応してくる人って少なそうですよね。

山脇:そうですね。

柿次郎:要は自分が親としてできないってことを認めた上で、そこに協力するってことですよね。

山脇:そうですね。

柿次郎:はぁ~・・・いろんな親の人たちは追い込まれている?なぜ虐待が起きるのかっていう環境の要因って複雑じゃないですか。

山脇:本当に自分も虐待されて育ったって人もいますけど。そもそもやっぱり関わってもらった経験がないから、掃除の仕方なんて分かんないし赤ちゃんが何食べるかも分からないし、でもどこに相談に行ったらいいかってのも分からないっていう人もいるので、ちゃんとケアしてあげれば子育てできるって親もいるんですよね。一方で、絶対に子供を返してはいけない親もいるのも現実なのでそこの見極めっていうのが凄く難しい。

柿次郎:なるほど・・・帰しちゃいけないっていうのは家でまた?

山脇:(子供を)家に帰したら虐待が再発するであろうことが確実な親もいないわけではない。やっぱりいるので、そこをきちんと見極めるっていう意味でもかなり専門性は高くなければいけないと思います。


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児童相談所は強大な権限を持っている

柿次郎:その児童相談所としては、いろんな状況を把握して家に帰さないっていうことをちゃんと権利として持てる施設ってことなんですね?

山脇:もちろんです。児童相談所はもの凄い強大な権限を持っているので、家の玄関さえ開けてくれれば家の中に立ち入ることもできますし、あと家庭裁判所の許可を得ればですけれども鍵壊して家に入ることもできますし、親の許可なく保護するっていう権限も持っているので学校や保育園からそのまま子供を保護して親に保護しましたよって事後報告ってこともできるんです。

柿次郎:そうなんですね。

山脇:親が帰して欲しいって言っても帰せない子供については、家庭裁判所に申し立てれば親の許可なく施設に18歳まで入れることもできます


親と離れた子どもたちのケア

柿次郎:それが目の前の虐待から離れたとしても子供自身の心のケアとか、親と離れている自分であったりとかっていうのもちゃんと児童相談所が18歳まで見てくれるってことなんですか?

山脇:いやぁ~なかなかそこまで丁寧にできていなくて・・・。

柿次郎:難しいですよね。

山脇:やっぱり施設に入れると終わっちゃうってこともいっぱいあると思うんですけど、私は少なくとも親との交流が全くできない子もいるのでそういう子には1か月に1度、2か月に1度会いに行くようにしていました。やっぱりすごい喜ぶし誕生日をお祝いしてくれる人がいないわけですからね。だから私が「次はいつ来よっか?」って言って手帳に日付を書き込むを見ないと話が終わらないって子もいて。

柿次郎:次の約束をちゃんと目の前でしてくれないと。

山脇:でも、誰よりも私を愛してくれるので風邪引いて一番先に気づくのは子供で「病院行きなよ」って言って、次に会ったときに「風邪治った?」って聞いてくれたりとかっていうのもあるので、それはすごく嬉しかったですよね。手をかけるだけ子供からいっぱい愛情をもらえるので。

柿次郎:ひとりだけではないわけですよね?見ているのは、常に複数人というか。

山脇:そうですね。

柿次郎:それを常に対応していくっていう仕事っていうのは尊いですけど、やる側も愛が必要ですよね?

山脇:あーそうですね!

柿次郎:愛を配る原資がないとなかなか。

山脇:子供に対して愛を注げないってことは全然なかったというか。やっぱり愛してもらった思いの方がないし、頼ってもらえればそれはそれですごく嬉しかったので、今の仕事に関連するんですけど例えばすごい虐待受けてきた男の子が「このままだとある日、俺は誰かを殺す」と思ったんですって。「誰かを殺すに違いない」と思って虐待の後遺症で。「早く捕まえてくれ」と思ったので交番の前で包丁を持って一晩立ってたんですって。でも、捕まえてくれなかったんですって。

柿次郎:それだけでは?

山脇:それだけでは。で、その日の朝5時に私に電話をしてきて「助けてください」って。すごい私嬉しかったんです。「あ、こんな時に頼ってくれるんだ」って。「あ、すごいな」って思ったので、そういう意味でも愛をいっぱいもらえるというか。それは定期的に会ってなきゃだめで、年に1度しか会わなきゃそんな人に頼らないじゃないですか。当たり前に。そういうことで、定期的に会うのは当然手帳は何か月先までずっといっぱいでしたけど。でも、すごく今報道されてるのと違う意味での児童相談所の良さはたくさんあります。

柿次郎:なるほど。

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児童相談所が改善すべき点は・・・

柿次郎:今だからこそ19年勤めて2019年のタイミングで児童相談所っていうものはもっとこうした方がいいんじゃないかとか、こんな風にやっていればよかったなぁとか発見とかありますか?

山脇:いろいろ提案はしているんですけど、できなくもないのはやっぱり採用形態を変えれば良いのかなって。各自治体でできるので児童相談所職員になりたいって人を採用するっていうのはできないことではないんですよね。知識がなくても子供を守りたいって意欲があるっていうのはすごい大事なことなので、そういう人を採用するっていうのとやっぱり経験と知識がなきゃできないことではあるじゃないですか。虐待する親なのか見極めるとか子供が虐待されているかどうか話を聞き取るとか。そこはやっぱり育成期間を年単位で作るみたいなことは私は必要かなという風には思ってますね。分からないことだらけでしたから私も配属された時は。だからそこを現場で全部やっていけって言っても子供相手に、子供を実験台にするわけにはいかないですからね。そこはもっと育成を丁寧にやらなきゃいけないと思っていますね。


児童相談所の歴史と役割の変遷

柿次郎:なるほど。そもそも児童相談所自体が戦争孤児の対応として生まれた施設で。

山脇:戦争孤児救済のためなので、元々の設立の目的が違うんですよね。その後色々広がっていって、例えば東京なんかかなりの数ですけどいわゆる療育手帳っていう知的障害の手帳の認定も児童相談所がやっていて、児童相談所しかできないんですね実は。だからかなりの数が当然来ますし、その知的障害に関する手当の申請も児童相談所でやるのでそのどんどん増えていく中で虐待は最後の最後に付け加えられたってことなんですよね。

柿次郎:すごい役割も広くなっていって、かつ社会課題ってものが複雑化してその中でストレスが溜まりもちろん保育園入れられないとかっていうとこでも・・・。

山脇:そういう問題もありますよね。

柿次郎:昔みたいに長屋でおばあちゃんが居たから子育てのストレスもちょっと経験した人の知恵で救うとかやりにくくなってますよね東京だと。

人の心には愛情の器がある

山脇:そうですね。だから、私がずっと経験してきて・・・愛を注がれないで育った子って愛を注げないんですよね。


山脇:つまり人間の心って必ず愛情の器ってものがあると思っていて、この器に親を中心とした大人がいっぱいいっぱい愛を注いであげて、そこから溢れた分が子供が人に注げる愛なんですよね。

柿次郎:はぁなるほど!

山脇:それは大人も同じです。でも、この器がいっぱいじゃないとすごい苦しいので。でも、愛を求めているってことに本人は気づけないんですよ。だから、金銭欲とか物欲とかっていうものに置き換えられて感じられるんです。だから、私たちなんかも寂しいときにやたらに食べたりとか。要らない物を買ったりっていうのは、この愛情の器がちょっと足りなくなっているときなんですよね。でもここには愛しか入らないのでやっぱりここには子供にいっぱい愛を注いであげなきゃいけない。それは私は親以外の大人として注ぐ意味があるのかってずっと考えてきましたけど、それはすごくあるんですよ。やれること全部やってあげると子供は絶対に覚えているんですよね。出会った瞬間から「山脇さんあのときこう言ったよね」「山脇さんこうしてくれたよね」って全部覚えていて、それが彼らが大人になったときに愛を注げる力に繋がると私は思っているんですね。

心の穴が埋まらない理由は

柿次郎:なるほど・・・。いやぁ~僕最近、心の穴?穴っていうものをテーマにいろいろ考えることが多くて、それは好奇心とかでもいいんですけども。僕自身も自分の中で心の穴があるって自覚はあるんですね。それでまぁ頑張って仕事をして、お金を稼いでとか自分の過去の環境から抜け出そうと思ってやって来たんですけど、それで多少お金を稼いでも穴が埋まらないなとか。お金がちょっとあるからそれで物買うとか、物欲とか。そっちの方に欲求がスライドしていっているだけで、自分の根っこは全然埋まらないことに気づいて・・・。どうしたらいいんですかね?(笑)

山脇:やっぱりでも、愛を注いでもらうには何をしらたいいかはやっぱり愛を注ぐしかないんですよね。


柿次郎:自ら?

山脇:そう!愛を注ぐと相手の愛の器が溢れるからこっちに返ってくる


柿次郎:はっ!!待ってて埋まるものではないと。ちゃんと還元してっていう。

山脇:そうですね。

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柿次郎:まだまだお聞きしたいことはあるんですけども後編に続きます
引き続き山脇由貴子さんにお話をお伺いします!Dooo!!