一日の大半を会社で過ごすサラリーマン

中国でも「働き方革命」

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

「996」=朝9時~夜9時まで週6日

「996」という数字の組み合わせを聞いたことがありますか?主にIT業界で、朝9時から夜9時まで、週6日働くことを指します。この言葉は2016年に、中国で繁忙期となる10、11月に心構えとして社員に呼び掛けたのが始まりでしたが、その意味を変え、今中国で話題になっている言葉です。
同時に、働き方改革が叫ばれている日本と同様、中国でも仕事への考え方や制度の見直しが呼びかけられているのです。

仕事と睡眠時間以外に、中国人の余暇時間は約2.27時間。欧米の5時間と比べて半分ほどしかなく、最近は「996」を皮肉って「996ICU」(996で働いて、病気になった時はICUに運ばれるほどの重症になっている)、「807」(朝8時から深夜0時まで毎日)、「716」(朝7時から深夜1時まで、休みは1日)という言葉も生まれています。

(一日の大半を会社で過ごすサラリーマン  大风号より)

日本で放送されているドラマ「わたし、定時で帰ります」は中国でも有名で、多くの働く社員から支持を集めています。字幕の付いたドラマのシーンを編集し、SNSで自身の心境と一致していることをつぶやく若者も多くいます

残業は一日3時間まで、且つ月に36時間まで、平日の残業代は1.5倍(休息日の残業代は2倍、法定休暇日は3倍)という国の方針のもと、プログラマー達による企業のブラックリストとホワイトリストが公開されました。ブラックリストには数多くの有名なIT企業が名を連ねていたのです。
アリババの創業者、マー会長が「996」を擁護する発言をして炎上に繋がるほど、中国では労働時間が問題になっています。
(マー会長はかつて、8116+8、朝8時から夜11時まで週6日、日曜日は8時間で仕事をしていました。現在は一日12時間を年12カ月。しかし全ての人が実現できることではないと批判されてしまいました。)

中国は1994年に隔週休日を取り入れました。翌95年には週休2日制に。
しかし現在では、週休2日にも関わらず、休みなく働いている人もいるのです。

さらにウェイボーでは、広東省で通知された退勤後の取り組み方案が話題になっています。珠海市香洲区が「仕事の負担を減らすための解決へ調印した」というもので「一つの所属でWeChatグループ(連絡網)はひとつ、出社時間外は仕事に関する連絡をしない」ことを提案しました。
このニュースは #微信群下班不许发工作消息(退勤後のWeChatでの仕事連絡禁止)のハッシュタグとともにすぐに拡散され、各地域から「うちの地域でも導入して!」との声が上がっています。

(微博より)


気楽さ>出世

中国では今でこそ転職はキャリアアップとしてプラスの意味を持ちますが、70後80後(70年代、80年代に生まれた世代)は「転職先はすぐに見つかるものではない、簡単には辞めずに、数年間踏ん張りなさい」と言われていたそうです。そしてこの世代は、真面目に働いて多くのお金を稼ぎ、家族を養うことに重きを置いていました。

では、90後(90年代生まれ)はどうなのでしょうか。

アンケートによると90後が仕事に求めるものは「気楽さ>福利厚生の充実>昇給・出世」という結果が出たそうです。
家族を養うために仕事をしていた70、80年代を親に持つ彼らは、金銭的な援助が比較的十分にあるのです。そしてインターネットの普及と同時に成長してきたことから、個性を尊重され、選択肢が広がり自由を愛す環境にありました。一人っ子政策下にもあったことから家族の寵愛を受けて、勉強以外の分野で苦労をした経験がないことも大きな理由となっています。

現在社会人1年目は95年生まれ。ある会社の面接で、とても印象の良かった学生が最後「会社にお茶の時間やジムはあるか、私はそういう生活の質を重視している」と話したことで採用に至らなかったという話がニュースになりました。実際、職場に対しこのような条件を求める人は、95後年代に多く見られます。もちろん全員が最初から理想の仕事に就いている訳ではなく、入社してから「996」だったことが分かり、一年以内に転職をするパターンも多く見られます。

「996」を支持するのは経営者やオーナーといった上層部で、反対しているのは一般のサラリーマンたちです。「996」に耐えかねて転職したものの、転職先で以前とは比べ物にならないほどの仕事を任され転職を後悔したという、「蓋を開けるまで分からない」状況でもあるのです。これは、楽をしたいという気持ちが原因なのではなく、生活が労働時間に支配され身体が持たないという当然の主張なのです。


9月始まりの中国で「五月病」

なんと日本から中国へ輸入された言葉に、「五月病」があるのです。4月に年度が始まり、新しい環境へ慣れるために必死に働きGWによって伸びてしまうという、日本ならではの病気ですが、9月が年度始めの中国でも、五月病のワードが使われているのです。ウェイボーでは「この症状が出たら五月病」と五月病の分析・紹介がされていたり「五月病の症状、今は6月だから六月病だね(笑)」とのコメントがあります。

(五月病の症状を表したウェイボーの投稿)


「日本は過去に996制度を取り入れて失敗し、現在の無欲社会が出来上がった。現在の中国がまさにそうなりつつある」

経済による貧富の差がある中国では、誰もがお金持ちの親を持っているとは限りません。「996」に反対しているだけではなく、無欲社会を防ぐ考えも出ています。中国では、日本のかつてのモーレツ社員や高度成長の時期を「996」に当てはめ、現在の無欲社会の原因と考えることが度々あります。

(996の風刺画「私のパパの目のクマ、こんなに大きいの」「わあ、私のパパもよ!」环信より)

高薪不喜欢还是底薪很喜的工作-你哪一个?

ある番組で「好きじゃないけど給料が良い仕事と、給料は低いけど好きな仕事。どっちを選ぶ?」というテーマのもと、討論が行われました。
給料がどんなに良くても、ストレスが溜まって身体を壊すという意見や、給料が低いと、いざ病気になったときに治療費が払えないという意見が飛び交いました。給料が良く、好きではない仕事を選んだ人の背景には、一人っ子政策による、将来一人で6人の介護(両親と、それぞれの祖父母)のため多くのお金が必要というものもありました。また、今好きなものはいつか好きではなくなることもあるが、今嫌いと思っていることは克服する余地があるし、成長にもつながる。嫌いな仕事で稼いだお金で好きなことができる、と考える若者もいるのです。

このように、働き方に関するディスカッションが様々なところで繰り広げられています。「996」の労働時間問題は、働き方へ向き合う場へと変わっています。中国の発展に貢献し、世界における地位を確立させた経営者達の努力は、皮肉にも「996」制度によって批判されてしまいました。海外は家族が優先で残業はなし、日本は社畜として働きづめと言われてきましたが、労働問題は今や、日本だけではないのです。

(記事作成 竹内亮 時沢清美)