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中国の現代インスタントラーメン事情

【ホット検索ワードから見る中国 vol.4】

ドキュメンタリー監督 竹内亮

中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。

今回のホット検索ワード「方便面生日(インスタントラーメン誕生の日)」

(炮灰攻略より)

(微博より)

1958年8月25日、世界初のインスタントラーメンが誕生しました。さすがラーメンの故郷・中国。たくさんの人がこの誕生日をお祝いしています。中国大手メディアの头条新聞でも祝われていました。


発明したのは、日清食品の創業者・安藤百福さん。日本統治時代の台湾で生まれ、元の名前は呉百福さんと言うそうです。お祝いコメントの中には、「今日は自分の名前に”呉”がある事を誇りに思う!」といったコメントもありました。

皆に愛されるインスタントラーメンですが、どうやら中国のインスタントラーメン事情は、日本とはだいぶ違うようです。今回は、中国のインスタントラーメン事情をお伝えしたいと思います。

「INS風」インスタントラーメン店


日本と同様に、近年多くの中国人も「インスタ映え」するものを撮影しSNSにアップして楽しんでいます。中国では、インターネット統制のためInstagramは使用できないのですが、写真映えするものを「INS風」と呼んでいます。

最近、中国全土に急速に増え続けている「INS風」のお店があります。それが「泡面小食堂」です。なんとこの店では、世界各地のインスタントラーメンが食べられるのです。その種類は100種類を超えるそう。

もちろん麺とスープだけが出てくるのではありません。具材や器、盛り付けもしっかりこだわっていて、普段食べている普通のラーメンもすっかり「INS風」な見た目に変わって出てきます。

日本でよく食べられている「一平ちゃん」もこの通り。

もちろんオシャレになった分、値段もあがっています。中国の一般的なインスタントラーメンは5元から10元(80円から160円)ほど。それが、大体15元から25元(240円から400円)になって出てくるそうです。「インスタントラーメンにそんなに払えるか!絶対に行かない!」という人もいる一方で、オシャレさに魅かれて食べに行く人もたくさんいるようです。内装にもしっかりこだわっているのも、人気の理由です。

(画像全て 泡面小食堂公式微博より)

カラフルなパッケージ

中国のインスタントラーメン売り場を眺めて、ふと気が付いたことがありました。それは「異様にカラフル」だということです。

日本のインスタントラーメンの場合は「醤油は赤、味噌はオレンジ、塩は青、豚骨は黄色」と、味によってパッケージの色が分けられています。

しかし中国の場合、日本のようにスープの味で分類されているのではありません。そのため、各会社が思い思いに色を付けるため、売り場はとてもカラフルになっています。

元祖・旅のお供


中国の友人と一緒に旅行に行った時、「まず旅行用のおやつを買いに行こう!」とスーパーに誘われたことがありました。“遠足みたいで懐かしいな…”なんて思っていたら、その友達が真っ先に向かって行ったのは、おやつ売り場ではなくカップラーメン売り場でした。

とりあえず中国流を試してみよう、と思い一緒にカップラーメンを購入。翌日、旅行先へ向かう列車に乗るやいなや、「じゃ、食べよっか」と友人がおもむろにカップラーメンを取り出しました。「ここで食べるの?!」と驚きましたが、周りをよくみてみると、ほかにもカップラーメンを抱えている人がちらほら。

(客运站より)

列車で旅行するとき、日本では駅弁を楽しんだり、コンビニで買ったご飯を食べたりする人が多いと思います。中国では、カップラーメンを食べたり、果物やひまわりの種などを食べたりしている人が多いのです。

各車両に給湯器が用意されているので、お湯もすぐに調達できます。また、日本のカップラーメンとは違い、中国で販売されているカップラーメンには必ずフォークが入っています。なので、“箸を忘れてしまって食べられない!”という状況にはならないのです。

(フォークは蓋を押さえるのにも便利 东方网より)

旅のお供として活躍するカップラーメンですが、2016年には匂いが強いことを理由に高速鉄道内での販売が停止されてしまいました。今年にはラーメンの匂いが原因で乗客同士が口論になったというニュースもありました。

列車内でラーメンを食べること自体は禁止されていませんが、今後は少し肩身が狭くなってしまうかもしれません…。少しずつマナーが改善されていくにつれ、中国らしい光景がなくなってしまうのは、少し寂しい気もします。

日本のラーメンは、実は「ラー」麺じゃない

話は少しそれますが、日本のラーメンの始まりは明治期だと言われています。開国に伴い、海外から多くの外国人が日本へやってきました。そのとき、中国からやってきた人たちが、今のラーメンのルーツとなる中華麺を伝えたそうです。

しかし、はじめから「ラーメン」と呼ばれていたわけではありません。昔は「中華そば」と呼ばれていたそうです。「ラーメン」という呼び名を日本に普及させたのは、まさに1958年に登場した「日清チキンラーメン」の存在でした。

では、この「ラーメン」という名前はどこから来たのか?その起源は中国の「拉面」にあります。この「拉(ラー)」とは「(手で)引く」という意味を持ちます。つまり、中国では引き延ばして作られた麺を「拉面」とよんでいるのです。日本で食べられている麺は製麺機で延ばしたものがほとんどなので、中国語の意味に則れば、実は「ラーメン」と呼ぶことはできないのです。

(生地を伸ばしながら麺を細くしていく 校园司令より)

お金持ちに愛される インスタントラーメン


最近は海外旅行に出かける中国人もどんどん増えてきました。なんと、彼らの約50%の人たちが、旅行先の食事に慣れないことを心配して、インスタントラーメンを持って出かけているというのです。旅行先で自国のものを食べるなんて少しもったいない気もします。ですが、海外旅行に行くとき、インスタント味噌汁やふりかけを持っていく日本人もいるので、それと同じようなものなのでしょう。

昔、上海の空港で日本に帰る便を待っている時、多くの人がインスタントラーメンを食べているのを見て、不思議に思いました。「なぜ彼らはこれから海外旅行(日本)に行くのにインスタントラーメンを食べるのか?」と。

ただ、その謎はすぐ解けました。それは空港のレストランの値段が、市場値段の数倍、時には10倍近く高いからです。量が少なくて不味い定食を食べて、120元(2000円)とか平気で取られます。だったらインスタントラーメンなら安いし、味も確かだから、損はない、ということです。私も普段、インスタントラーメンは食べませんが、空港ではよく食べるようになりました。

自国の物を持って行くだけでなく、旅行先でインスタントラーメンを買う中国人も多いです。ある調査によると、海外旅行に行く中国人の約60%が現地でインスタントラーメンを購入しているようです。

爆買いする中国人を見たことがある人は分かると思いますが、中国人は旅行に行くと誰にあげるでもなく、“とりあえず大量に買っておく”という傾向があります。そんな時、軽くて、美味しくてみんなで分け合えるインスタントラーメンが重宝されているのでしょう。

その傾向が相まってか、平均月収が1万5000元から2万元の人たちよりも、2万元以上の人たちの方が、旅行先でインスタントラーメンを買う傾向が強いという調査結果がでています。

(平均月収と旅行先でインスタントラーメンを買う旅行客の割合の関係 ZOL新闻中心より)

炊飯器やウオッシュレット、化粧品に薬。これまで多くの日本製品が爆買いによって、中国へ旅立っていきました。次に来るのはインスタントラーメンかもしれません。

(記事作成 竹内亮 石川優珠)

竹内亮

ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー (株)ワノユメ代表

2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由」の放送を開始し、2年半で再生回数が3億回を突破。中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で「2017年・影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。