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「ネットメディアの価値観を『ゆっくり・深掘り』へ」瀬尾傑さん(前編)



自己紹介をお願いします

柿次郎:
Dooo!!司会の徳谷柿次郎です。今日も宜しくお願いします。では早速今回のゲストを紹介します。スローニュース株式会社代表取締役であり、JIMAインターネットメディア協会代表理事の瀬尾傑さんです。宜しくお願いします。自己紹介をお願いしてもいいでしょうか。

瀬尾:
はい。瀬尾です。瀬尾傑です。カメラ目線ですか?(笑)もともとはですね、僕は出版社にいて講談社という出版社なんですけどそこで長い間編集者していたんですね。週刊現代とか最近話題になっている「FRYDAY」とかですね、そういうのもやったりしてました。それをやっているうちになかなか雑誌をつくっている環境が厳しくなってきて、雑誌が売れないですとかそういう時代が来たので。でもやっぱり自分は好きなことやりたいな、自分の情報を外に発信したいなと思って講談社の中でデジタルメディアを始めたんですね。その中でやっているうちにこれはもっといろんな形でやりたいなと思い始めて、去年の8月にスマートニュースに転職したんですね。使っていただいていますか?

柿次郎:
使ってます。僕は会社にも行ったことがありますし。

瀬尾:
有難うございます。それで今年・・・この前発表したのですが「スローニュース」という会社を新しくスマートニュースの子会社として作って、そこの代表をやっています。

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調査報道の支援を目指す

瀬尾:
取材の中にすごくお金も時間もかかる取材の世界というのがあるんですよね。「調査報道」というジャンルなんです。

例えば最近でいうと「パナマ文書」って・・・

柿次郎:
ありましたね、はいはい。

瀬尾:

世界中でパナマの会社を通じてお金持ちがいろんな・・・ある種ファンドとか使った形で脱税しているんじゃないかっていう文書ありましたけど、調べなきゃわからないこと、それをやるということはすごく意味があるわけですよね。今までわからなかった要するに脱税の仕組みなんかが公開されるという社会的意味はあるんですけど、お金がかかりすぎて今までのネットじゃできなかったんですよね。そこを変えたいと思って今度「スローニュース」という会社を作ったんですね。


「ファストニュース」重視を変えたい

柿次郎:
スローニュース株式会社ってすごい名前ですよね。

瀬尾:
いい名前でしょ?

柿次郎:
なんかいいですよね。

瀬尾:
もともとはやっぱり僕はこういう問題意識を持っていて。早くニュースを知りたい、早くニュースが流れるっていうことは大事だと思っているんです。ただ一方でそれがちょっと今そればかりになっているんじゃないかなというのを僕は心配しているんです。

テレビだけではなく今ネットのような環境ができてニュースの伝わる場所が広がったと思うんですね。日常生活の中でまさにスマートニュースもそうですけど毎日スマートフォン見ながらいろんなニュース見ることってあるじゃないですか。フェイスブックやTwitterでも流れていますし。

柿次郎:
あります、あります。

瀬尾:
その中で早いニュースだけじゃなくて実はもっとゆっくりニュースって消火した方がいいんじゃないかなって。発信する方もゆっくり、読む方もゆっくり。

じっくり取り組むニュースっていうのがあってもいいんじゃないかなと思ってですね、それでスローニュースという名前を付けたんですね。

柿次郎:
なるほどなるほど。

柿次郎:
ニュースを日々浴びすぎていて結構深刻なニュース、例えば殺人事件とかありますけど、地震のこととかも新しいニュースがくるとところてん方式でパンと後ろに追いやられて忘れちゃいますもんね。

瀬尾:
そうです、そうです。よく僕らの世界「タイムライン」って言い方しますよね。だからニュースって上から順番に流れていくんだけど・・・

柿次郎:
そうですね、今。

瀬尾:
どんどんどんどん押し出されていくじゃないですか。でももしかしたらほんとは・・・

それを考えようというのが僕らの試みなんですよね。もう一つは読む方もこう・・・すぐ反応しすぎちゃう。

今のソーシャルの時代って受け取る側も実は発信者であったりするんですよね。

TwitterでリツイートするとかFacebookでシェアするっていうのも情報を受け止めていると同時に自分も発信する側にまわって友達とか見たりするわけじゃないですか。その時にニュースを、その情報が本当なのか嘘かとか、あるいはちょっとこれ差別的なんじゃないかとか、あるいは人権侵害しているんじゃないかとか、あるいはこれはごく一部の情報でもっともっと違う見解があるんじゃないかにも関わらず一瞬で「これおもしろい」と思ってクリックしちゃう。

柿次郎:
条件反射でやっちゃいます。

瀬尾:
やりますよね。僕はあれもファストすぎると思っているんですよね。やっぱりもう一個考えてほしい。そういう願いも込めているのが「スローニュース」っていう。ファストニュースが事件事故の発生のニュースとするならば、スローニュースというのは発掘のニュースなんですね。

掘り下げる、発見するニュースなんですよ。だからこのニュースというのはほかの人が狙っていないんで競争にならない。でもその代わり自分で深く掘り下げていかないと絶対実には達しないわけですよね。だから記事の基準というのは早さではなくて深さなんですよ。真実性こそが記事の評価になる。そういうスローニュースっていうのを作っていくことがすごく大事だと思っているんです。


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ファストニュースに偏る危険性

瀬尾:
昔あったのはよく裁判所で、最高裁で重要な判決が出たときにテレビの人とか記者とかがわーっと走ってきて、裁判所の中携帯使えないから、出てきて「勝訴です!」とかあったじゃないですか。

柿次郎:
はいはい、やってますね。

瀬尾:
あれこそがまさにファストニュースの典型で0.1秒でも他よりも早く言いたい。でもこのニュースはこのニュースで価値があるとはいえ・・・裁判所から走って出なきゃいけないぐらい激しい競争をしているわけです。そういう意味では競争が厳しいし事件事故なんかは現場にいた一般の人が撮ったTwitterとか写真とかFacebookにあげられていると、そっちの方が迫力があったり真実を伝えていたりすることってありますよね。

柿次郎:
あー、特に最近はTwitterで増えていますね。

瀬尾:
ありますよね。あとドライブレコーダーみたいな。事故の写真はこっちのほうが真実を映しているってあるじゃない。

柿次郎:
めっちゃありますね。

瀬尾:
ああいう風に要するに新聞記者みたいなプロだけじゃなくて一般市民の方あるいはもしかするとドラレコみたいな機械と競争になって圧倒的にそういう競争が激しい世界、それが僕はファストニュースだと思っているんですよね。

柿次郎:
それも視聴率であるとかメディアでいうPV数というものをとるため。一般の方もそれに関与できるツールを持っているのでリツイートいっぱいされたいからそういうのを撮る・・・それがどんどんどんどん早くなってぐちゃぐちゃになっている状況。

瀬尾:
そういうが今溢れてしまって、そこの競争になってしまうってことなんですよね。その結果何が起こるかっていうと・・・間違えることもある。そうするとフェイクニュースが生まれやすいわけですよね。

徳谷さんがおっしゃったようにリツイートするとか間違った情報をリツイートするのも考えないでやるわけじゃないですか。そういう嘘ニュースが発生しやすいという状況があります。


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アーカイブ性の価値

柿次郎:
僕もジモコロっていう全国47都道府県のローカルの取材をやっていて、4年やっているんですけど、ほとんど7000~8000字あるんですよ。

長い記事をずーっとしかも2泊3日とかで片道5、6時間かけておじいちゃんおばあちゃんの話とか数時間、方言もきついのを聞きながら。作るのも時間がかかる取り組みをやっているんですけど。

瀬尾:
それはすごく意味がありますよ。まさにそれがスローニュースなんですよね。

柿次郎:
僕がやっているのはスローニュース側だったんですね。

瀬尾:
そうなんですよ。多分競争ないでしょ。「1分1秒でも早くあのおじいちゃんに会いたい」とかそういうわけじゃないですよね。

柿次郎:
全然ないです。

4年前の記事見てもそんなに変わらないと思うので。

瀬尾:
それがすごく大事なんですよね。スローニュースの価値って実はこうネットの場合っていうのはネットの情報ってよく「早く着く」ってことだけが取りだたされるけど、実はそうじゃなくてアーカイブと言われる機能、ずっと前の記事がいつまでたってもあります。実はこれこそが読まれる記事だったりするんですね。そういうことが可能だっていうのがネットメディアの可能性だと思うんですね。

柿次郎:
あーそうか、新聞とは違いますもんね。

瀬尾:
そうなんです。新聞とかテレビっていうのは新聞はページ数に限りがありますし、テレビもニュースの時間って決まった時間がありますよね。その中で放送されるものは限りがあるから優先順位って早いニュースから出していくことになります。ネットのニュースっていうのはアーカイブできるのでいつ読んでもいい。もしかしたら自分が必要な時に探し出して読めばいいっていうことでアーカイブにこそ価値があるっていうのがネットの特徴だと思うんですよね。

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感情・共感に偏りがちなネット

柿次郎:

でも言うても仕事としてはWEBメディアなので数字の物差しで評価されるのでどうしよう、ってその時にもう少しわかりやすいPVつく記事作った方がいいのかなって。誘惑があるんですよ。

瀬尾:
そこはすごく大事でね、わかりやすいっていうことは必ずしも感情的になるっていうこととは別なんですよね。

だから今単にシェアされやすい記事を狙うとすごく感情的になりますよね。それになりすぎるとすごく問題で、丁寧に書くけど感情に訴えないっていうスタイルで記事を書くのが僕は一番いいと思うんですよね。一方でやっぱり今のネットの仕組みの中ですと、やっぱりその感情とか共感が伝わりやすいというのがあるところですよね。

柿次郎:
エモいとか。

瀬尾:
まさにエモい世界じゃないですか。実はネットの中に感情がいろんな意味で溢れすぎてる。だからこそやっぱりその事実が見えなくなってきているわけですよね。

今のネットに最適化するのは確かにそういう部分もあるんだけど僕らはそこを変えていかなきゃいけないと思っているんですよね。僕自身がはっきり思ってるのは正直ネットの未来がどうなるかなんてわからないじゃないですか。

柿次郎:
全然わからない。


大切なのは「どういうネット社会にしたいか」

瀬尾:
一つ言えることはどういう未来を創っていきたいかは意志としてはっきりさせる必要がある。

「ネットがどうなるか」ではなくて「ネット空間を僕らがどういう風に設計したいのか」「どういう社会にしたいのか」っていうことは僕らは必ず努力して取り組まなければならない。そういうイメージを持つことが大事です。そのために大事なのがスローニュースのようなゆっくりしたニュースに価値があるように変えようとか信頼できるニュースに価値があるように変えようという当たり前のことなんだけどそういう仕組みを作るべく努力することが大事なんだと思います。


第三者的な視点が大事

柿次郎:
Facebookの問題が色々ありましたけどアメリカで。フェイクニュースのこととか。けっこうある日・・・

いろんな感情に巻き込まれたり自分が発信してそれがちゃんとリツイートされるかどうかっていう・・・僕シェアしすぎてここ(親指の下)に血マメができるような。それは役割としてせっかく話を聞いていい記事にしたと思ったものをより多くの人に届けたい気持ちでそこ頑張るんですけどやっぱり疲れちゃうんですよね。

瀬尾:
ソーシャルもそうだしメディアって鏡みたいなところがあってやると反応するんだけど、その反応が嬉しくてまた自分もそれに対して応えようと思って反応するとこっちの方から反応して・・・エンドレスなことになる。どんどんエスカレートしていく。第三者の視点に立ってメディアやソーシャルの空間で動いている自分を見られるみたいな、そういう視点が持てるようになるといいですよね。


*****Dooo*****

柿次郎:
まだまだ瀬尾さんにお話し聞きたいんですけれども、いったんここで区切って後編に続きます。引き続き瀬尾さんのDoooを聞くぞ!Dooo!!