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「マイナス1歳の命との向き合い方」産婦人科医・林伸彦さん(後編)

ミイナ:
Dooo!!司会の堀口ミイナです。早速本日のゲストご紹介します。産婦人科医でNPO法人「親子の未来を支える会」代表理事の林伸彦さんです。よろしくお願いします。

Dooo!!今回も産婦人科医でNPO法人「親子の未来を支える会」代表理事のは林伸彦さんにお話を聞きます。林さんは妊婦健診などでお腹の赤ちゃんに異常を見つけた際、医師として伝えるべきか否か迷った経験からこうした家族へのサポートをしたいと「親子の未来を支える会」を立ち上げました。妊婦やその家族が不安を少しずつ取り除き、生まれる前から赤ちゃんに向き合うためにはどうすべきか。林さんはこうしたサポートに医療社会福祉制度の両面から精通するイギリスに留学。年間2000人ほどの妊婦さんと赤ちゃんに向き合いこの問題について学んできました。

林:
治療ですね。赤ちゃんに何か病気が見つかったときに、妊娠10ヶ月の間に病気が進行する、赤ちゃんの病気が進むという場合には生まれる前に治療することができます。

またイギリスではお腹の中にいるときから赤ちゃんを治療する“胎児治療”の現場にも携わってきました。後編では胎児治療から考える新しい命との向き合い方や林さんご自身の話などじっくりお聞きします。


*****Dooo*****

ミイナ:
林先生が産婦人科医になろうと思ったキッカケじゃないですけど、幼少期、学生時代から生命の発生に関心がありましたか?

林:
そうですね。そう聞かれて思い返すとあったような気がします。小さいころから犬を飼っていましたし、鳥、魚を飼っていたりしましたね。

特にこの、グッピーって魚がいるんですけど、あれがすごく、卵を産むんですよね。あ、あれ卵じゃなくて赤ちゃんを産むんですよね!

ミイナ:
あ!そうなんですか!

林:
そうなんです。おなかの中の卵から孵ったあとに産むんですよ!

ミイナ:
じゃあグッピーは小さなグッピーを産んでいるんですね!

林:
それがまずすごく感動的で、やはり小さい時から子どもを作ることってすごいなって直感的に感じていました。そのうえで、グッピーが生まれた赤ちゃんを食べちゃったんですよね。それがまた衝撃的で「生き物って何だろう、子育っててなんだろう」「この親グッピーは何を考えて子供を作ったんだろう」とか、すごくいろんなこと考えました。

ミイナ:
確かに…子供の頃って共食いじゃないですけど、結構衝撃うけますよね。

林:
めちゃくちゃ衝撃でしたね。

ミイナ:
でも、その魚の体験からまさか産婦人科医にまでなろうとは!どうですか?

林:
魚の体験でいうと実はもっとあって、例えばディスカスって魚は、

子育てをするんですよ。で、そういう共食いをする魚もいれば、子育てする魚もいて、やっぱり子育ての神秘、増えることへの神秘っていうのが小さなころからありました。

ミイナ:
グッピーは子育てしないんですか?産むだけ?

林:
産むだけ!

ミイナ:
ディスカスは育てる・・・哺乳類は割と育てるイメージでしたけど。

林:

そうですね。虐待とかもありますけど・・・深入りしますけど、子育てというのが本能で行われているのか、社会生活を送る中で行われているのかとか、いろいろなことに興味がありながら、東大では発生学を勉強しました。

ネズミならネズミの赤ちゃん、人なら人の赤ちゃんに形を整えて生まれてくる。その単細胞が生き物の形になるまでの経過を調べたり見たりするのが発生学です。遺伝子工学って言って、今は遺伝子をいじれる時代ですので、妊娠中のネズミに例えば遺伝子を入れると、発達が変化するっていうのは研究の中でやっていました。今度それが医療に使えるのではないかなと思って。

と思うようになりました。それが理学部時代の経験をもとに、医学部で感じていたこと。それから医学部で病院実習をする中で実はアメリカから来た学生とたまたま会うきっかけがあって、

そこでもともと、僕の理学部で学んでいたことと、すごくマッチしたというか。

アメリカからの留学生と出会って「生まれるまでに出来ること」っていうのがヒトにも沢山あるんだっていうのを知って、自分は胎児科、胎児診療をしようと思ったんですよね。日本で胎児科をやるためにはやっぱり産婦人科で赤ちゃんを見るのか。あるいは小児科、小児外科という立場から少しずつ、産まれる前の命に触れていくのかっていうか。どちらかの道だと思ったんですね。そのうえで色んな所の胎児診療科を見て回ったんですけど、昔は大きな手術をして、赤ちゃんの治療をしていた時代があって・・・どんどんどんどん侵襲少なく、お母さんを傷つけずに例えば内視鏡とか、超音波で赤ちゃんの治療をしようという動きになってきて、そうなると、やっぱり産婦人科医が将来、胎児診療をやっていくんじゃないかな、と思って産婦人科を目指しました。

ミイナ:
胎児科、英語だと何という?

林:

ミイナ:
Fetal Medicine!日本ではない科なんですね?

林:
そうですね、日本でも一部の病院で胎児診療に特化した病院とか、手術をしている病院はありますけど、それを機に一般のインフラとしては整備されていないと思います。

ミイナ:
これはどんなことをする科なんですか?

林:
医療なので全部ですね、医療って5つのカテゴリーがあると思っていて、

予防ですよね、葉酸というサプリを飲んでいると、赤ちゃんの無脳症とか、二分脊椎っていう背中の病気とか、そういうことが防げることが分かっています。そういう予防医療と、赤ちゃんに障害や病気が起きないようにしようというのを、胎児医療でもやっています。それから健診としては、妊娠3か月とか、5か月のときに赤ちゃんの人間ドックというのをやっています。あとは治療ですね。赤ちゃんに何か病気が見つかった時に、妊娠10か月の間に病気が進行する、赤ちゃんの病気が進むという場合には生まれる前に治療することが出来ます。

ミイナ:
それほど、胎児医療という点では日本とアメリカ、イギリスの間には差がある、ということなんですね。

林:
そう感じましたね。

ミイナ:
例えばどのくらい進んでいるんですか?

林:

生まれる前の赤ちゃんに何かこう、遺伝子をいれるとか、メスをいれるとか、すごくタブーな気がしてたんですけど、実際にアメリカで感じたのは、本当に真摯に医療者もご家族も赤ちゃんを命として、人として向き合っているのをすごく感じましたし、普通の手術と同じで、メリットとデメリットを説明してそれから必要であれば帝王切開みたいに、赤ちゃんを一回おなかの中から出して、手術をしておなかにまた戻して、また妊娠を継続させるというのをやっていました。

ミイナ:
そんなことがもう、出来るようになっているんですね。これは最新医療なんですか?

林:
これはもう2、30年前からやられていて、今はむしろどんどんどんどん、胎児医療もやられていて、帝王切開みたいに赤ちゃんを出すっていうのは少し・・・

手術をするのが最近のトレンドになってきています。

ミイナ:
内視鏡みたいな?

林:

ミイナ:
へぇ~。でもそこまでできる、しかも最新のものでもない、というのは驚きますね。あの、胎児科が日本で普及していない、というのは本当に必要だと思いますし、私もいつか妊娠したら絶対に胎児科の先生にいろいろ聞きたいことあると思うんですけど、これが日本でそんなに普及していないのはどういうことなんでしょうか?

林:
いくつか理由はあると思いますけど、やっぱりおなかの中の赤ちゃんを覗くというのが、少しタブーな風潮はあるというのは一つ。まして赤ちゃんを治療するというのも、倫理的にどうなんだ、というのもよく聞く意見です。

林:
でも、私自身も実際に現場を見るまでは、お腹の中の赤ちゃんにメスを入れるのは・・・

だけど、実際に見に行ってみると、逆にこれだけ医療として確立されたものがあるのに、日本ではそれがなかなかできなくて、日本にいるということで、赤ちゃんが病気や障害を持って生まれてくるという事実があるんだな、と思うと、これから進めていかなければいけないことなのかな、とは思っています。

林:
胎児診療が浸透しないもう一つの理由がやはり教育システムにあると思っていて、医師に限らず、医療者、看護師、助産師も含め、やはり教科書を読んで学びますので、教科書に書いてないことをなかなか学べない。あとは病院に出ると、上の先生のやっていることを見て学んだり、実際に教わって学んだりっていう機会がほとんどですので、今までなかったものを始めるとか、日本にないものを見るという機会がなかなかないっていうのは思っていますし、それは日本で新しいことがなかなか始まらない理由かなと思っています。上の先生が学んできたときと時代も変わってきているし、世の中のニーズも変わってきていると思うんですよね。それで今までの歴史、例えば赤ちゃんの出生前検査を広めないという考えは納得する部分もあって、やっぱり赤ちゃんの病気を見つけると、妊婦さんは不安になりますし、そのために生まれてこない命というのも実際にあるんですよね。で、出生前検査と中絶というのは切っても切れない関係なので、赤ちゃんの検査そのものをしない、という流れになってきたことはすごく理解できます
ただ、生まれる前に分かったことで赤ちゃんにメリットもありますし、きちんと赤ちゃんに向き合うことできる医療も沢山あるというのが今の時代なのでこれからはまた少し、出生前検査に向き合う向き合い方もちがっているのかな、とは思っています。

ミイナ:
いや、すでに海外で出産したいなみたいな気分になってきているんですけど、日本のお医者さんたちっていうのは技術はあるんですか?

林:
そうですね。あの、例えば胎児診断に関していうと、超音波で赤ちゃんを覗くんですけど、イギリスに行って感じたのは日本の医師の方がやはり丁寧にみているし、技術があるというのは感じました。ただ、時間がない、というのが一つ。日本の特徴だと思います。やはり、産婦人科医は赤ちゃんも見るし、お産も見るし、卵巣がんとか子宮頸がんとか、更年期障害とか・・・
その中で限られた時間の中でどこまでしっかり赤ちゃんに向き合えるのかというと、すごく限界があるんだな、と感じました。


ミイナ:
実際林先生もすっかり産婦人科だからお産のイメージになってるんですけど、それ以外の手術とかもされるんですか?

林:
そうですね。手術は大半は帝王切開とかではなくて、やっぱり卵巣腫瘍とか子宮頸がんの手術とかそういった物になってきます。

*****Dooo*****

ミイナ:
今後「親子の未来を支える会」だったり、林先生としてどんなビジョンで活動していくんですかね?

林:
抽象的になっちゃいますけど、

やっぱり産婦人科医として、イギリスで胎児医療とか胎児治療を学んだ身としては、

今NPO法人として立ち上げて5年になりますけど、やっぱりまだ知名度も低いですし、僕ら自身のマンパワー不足とか、資金不足で出来ることって限られているので、うまいこと行政と連携したりして、

胎児医療という面では、イギリスで行われたことがすごく参考になると思っていて、もともと胎児科があったわけではないと思うので、そこを立ち上げるにあたって、どういう風に行政と連携してきたかというのが少し見えてきたので、そういうところを今後、担っていけたらいいな、と思っています。具体的には胎児診療に関して、きちんと時間をとって、学べる施設を作ったりだとか。

ミイナ:
うーん、お医者さんの教育という面ですね?

林:
そうですね。医療者ですね。

医師、助産師、看護師、心理カウンセラーといった人たちが妊婦さんたちが、赤ちゃんの健康状態に関して、どういう不安をもっているのか、それに対して、医療者が何を出来るのか、というのをもう少しこう、教育というか。情報を伝えていくことをしていけたらいいな、と思っています。

*****Dooo*****

ミイナ:
たまに、意識の高いお母さんとかで海外で出産されるお母さんとかいますけど、それはどういう風にお考えになりますか?

林:
あの、この流れでいうのも恐縮ですけど・・・

やっぱりイギリスってお産して、その人が翌日に退院っていう、状況ですし。

ミイナ:
そうなんですね!

林:
産んだら帰る、みたいな。例えばお腹が張ってても、生まれ無そうだったら一回帰ってまた来てねみたいな。

ミイナ:
それって病床が足りないとか、そういうことなんですか?

林:
そういう仕組みなんですよね。すべて無料なんですよね。イギリスって。そうなると、限られたリスクソースをどう使おう、ということになるので、本当に必要な人を最優先して、入院がいらなそうな人は近くのホテルに住んでて、みたいな。

ミイナ:
優先順位がしっかりしているんですね

林:
日本の場合はこれだけ、妊婦健診をしっかり受けられるし、市とか行政とか、支援ももらっているし。

ミイナ:
最近は少ないから支援も色々あるんですね。子どもの数を増やしたいっていうのもありますしね。

林:
お産しても何日かは入院して、授乳や沐浴指導したり。その辺はすごく恵まれているというか。自分だったら日本で産みたい。

ミイナ:
わかりました。いい国に生まれました!

林:
そうなんですね。それもすごく感じました。いろいろなことが日本でモンモンとして、海外に行って、すごくいいいなって思う部分もあったんですけど、同じくらいにというか、それ以上に日本てすごくいい国だなって思って。途中から早く帰りたいなって思っていましたね。

ミイナ:
何か、海外のいいものを日本にもってこないと、取り残されるみたいなイメージかと思ったんですけど、決してそういうわけではないというか。

ミイナ:
あの、産婦人科医になる前も、なられてからも、いろいろなことがあったと思うんですけど、これまで特に大変だったことってどんなことですか?

林:
多分、医師だけでなく、皆に共通することだと思うんですけど、理不尽なこととか、自分に納得していないことをやる時とか、すごく難しいと思います。今はこうしてNPOを作ったことで、日々、自分の目指すものに向かって日々やっていけているので、時間的、体力的にはしんどいこともありますけど、すごく精神的には救われていて、たくさんの仲間と一緒に一つの理想を目指して活動できているのが、困難を乗り越えた一つの方法だと思っています。

ミイナ:
やっぱり産婦人科医で伝えたいけど、伝えられないことって、考えに反することもあったりすると、余計ストレスに感じたりしますよね。


林:
そうですね。誰のための医療をしているんだろうと思うと、医療者だけでなく、女性、社会全体を巻き込んで、この分野をどういう風に議論を進めていこうと思っています。

ミイナ:
林先生から若者に伝えたいこと、つらい時に打ちかっていける秘訣は?

林:
まずは「伝えること」なんだろうな、と僕自身思っています。僕自身、医療の現場でおかしいんじゃないかなって思ったときに、初めは全然伝えてなかったんですね。自分の中で処理していたんですけど、それを初めて、医療者じゃない人に伝えたときに、それはやっぱりおかしいよね?って言ってくれて、そこで初めて自分の感覚っておかしくないんだなって思って、すっと落ちたところがあります。その上で、

自分の考えていることを必ず誰かが何か、フィードバックをくれるので、その時にやっぱり自分の考えは間違ってたって思うときは思うと思うんですよね。

ミイナ:
違和感は伝えていった方がいいよ、ということですよね?

林:
そうですね。違和感を伝えつつ、違和感が自分の身の回りだけで起きているのかどうか、を知るために外に出たこともよかったと思います。いったん、外から日本とか医療を見つめなおすことで改善というか、違う方向性に向かう可能性が見えてきた気はします。
やっぱり、今日、明日のことを考えて、着実に向かう人っていると思うんですけど、僕は実はそういうタイプではなくって、あんまりコツコツできないタイプで、逆に10年後、20年後にこういう未来を作りたいとか、大きなことを考えたうえで、じゃあ何をしようかなって考えたときに、割とマイペースに進むタイプなんですよ。で、そういうスタンスがあってもいいのかな、と思っています。コツコツ派じゃないひと。でもいいと思います。

ミイナ:
人生を変えた本、映画は?

林:
もともとあんまり本を読まないんですけど、コツコツページをめくれなくて、途中であきらめてしまうんです。あの、影響を与えてくれただろうな、というのは「justice」という本ですね。

倫理について書いている本なんですけど、結構倫理って、もろ刃の剣というか、すごく大きな意味を持つ言葉だと思っていて、何か新しいことをやる時に「それって倫理的にどうなんだ?」とか、よく言われるんですけど、それをその先に議論が進まないっていう葛藤が実はあったんですよね。「justice」を読んで、倫理というのが議論を止めるためのものではなくて、議論をどう進めるかの手段なんだなっていうのを改めて知って、倫理の使い方を学んだ。で、すごく世の中にいろんな答えの出ない、それこそ倫理的な課題、っていうのが沢山あって。

ミイナ:
ますます増えていきますしね、今後・・・

林:
それに対して、みんなでどういう共通言語をもって議論していこうかっていう、一つのアドバイスがこの本には沢山書いてあったので、すごくこの本を読んでよかったなって思っています。

ミイナ:
ちなみにいつか、お父さんになられたりしたら、これは大事にしたいとかありますか?

林:
とりあえず、何とかその子が死なないような生き方をしたいと思っています。やっぱりこの小さなミスはいっぱいしてもいいと思うし、何か間違いを犯して、初めて学ぶ部分ってあると思うので、いろいろなこと。転ばないようにとか、そういう子育てはしないようにしたいな、と思ってます。

それを放任主義といわれると、それまでですけど、ある程度距離をとって、一人の人として尊重しながらその子の成長を見ていきたいなって思っています。

ミイナ:
確かに、失敗は成功の母って言いますもんね。

林:
その通りですね。自分も親にいろいろ言われて、自分で失敗したら、そんな失敗しないんですけど、失敗する前に止められたことって絶対に納得いかなくて、またやっちゃうんですよね。

ミイナ:
いや~、親のいうこと聞いてなかったな、私も。いっぱい失敗しました!今日は本当に貴重なお話をどうもありがとうございました!

林:
有難うございました!


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