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冷めやらぬ“グレタ・ショック”

国連でスピーチした16歳の環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの言葉に、大きな反響が広がりました。記者としてあの場に立ち会った私も強いショックを受けました。(ニューヨーク支局 宮本晴代)

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16歳の苛立ち、拍手した大人たち

グレタさんは、9月22日、温暖化など気候変動への対策について話し合う「気候行動サミット」に若者世代の代表として登壇することになりました。国連本部に到着した時、偶然トランプ大統領と居合わせた彼女の表情が話題になりましたが、当初から表情が固く、どこか緊張しているようにも見えました。

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そして、スピーチが始まると・・・

グレタさん:
私たちが大量絶滅の危機に瀕しているのに、経済成長というおとぎ話ばかり。How dare you! (よくそんなことを言えますね)

鋭い刃物のような言葉で、気候変動対策が進まないことへの苛立ちをぶつけました。

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実のところ、グレタさんのスピーチの前までは、会場には、高揚感が漂っていました。年に一度のサミットでニューヨークに集まった193か国の首脳たち、さらに、話題の“環境少女”の登壇・・・。各国の代表団は、にこやかに互いに握手を求め、スマホで自撮りをしていました。

しかし、グレタさんの激しい口調に、空気は一変し、水を打ったように静まり返りました。怒りの矛先が、大人たち=自分たちに向けられている、と多くの人々が気付いたからか、会場にはどこか居心地の悪い空気が漂いました。そのうち、スピーチの中でグレタさんが一呼吸を置く度に、聴衆から拍手が沸き上がるようになりました。

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これまでも、一貫して「私ではなく、科学者たちの言葉に注目して欲しい」と訴えてきたグレタさん。拍手を受ければ受けるほど、険しい表情になっていきました。それでも、拍手はやみません。スピーチ冒頭に語った「そもそも、全てが間違っています。私はここにいるべきではありません。私は海の反対側で、学校に通っているべきなのです」という言葉が、彼女の胸中を物語っていたように思います。これまで見てきたなかで初めて、話者が明らかに拍手を嫌がっていると感じたスピーチで、その“違和感”が強く印象に残りました。

“グレタ・ショック”と副作用

国連にとって、「気候変動」は常に重要なテーマで、過去にいくつもの会議が行われてきました。しかし、気候変動に関する会議がこれほど注目を浴びたことはかつてなく、たった一人の16歳が与えた“ショック”は計り知れないと、国連関係者は異口同音に話しています。

一方で、“ショック”には副作用も付き物です。アメリカでも、グレタさんへの反発は起きています。保守系の米テレビ局・FOXの番組で、ある政治評論家が「彼女は病んでいる」と発言し、そのテレビ局は謝罪に追い込まれる騒動に発展しました。ネット上では、「グレタさんに怒りを感じる人が相談できるコールセンター開設」というジョークの動画が人気となり、グレタさん本人もそれをリツイートしました。   

https://twitter.com/GretaThunberg/status/1177206650979135488?s=20
(グレタさんTwitterより)

グレタさんへの反応を見ていると、内容の是非というより、スピーチのトーンや表情に反発を覚えた人が多かったように見受けられます。あのスピーチの日以外にも、私たちは、グレタさんを様々な場面で取材してきました。グレタさんは、日によって、見せる表情がかなり違います。常にあの険しい表情ではないということは、ここに記しておきたいと思います。

ヨットで大西洋を横断してニューヨークに到着し、久々に陸に上がった後は、多くの若者に迎えられ、ほっとしたような笑顔を見せました。

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シャイな一面を覗かせることもあります。8月末に、国連の近くで気候変動対策を訴えるデモを行った時、グレタさんはうつむき加減で仲間の後ろを歩き、マイクを握ることは一度もありませんでした。

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ニューヨーク市内を地下鉄で移動する様子をツイッターに投稿。

https://twitter.com/GretaThunberg/status/1176117717419663360?s=20
(グレタさんTwitterより)

現在は北米各地を巡って、気候変動への対策を急ぐよう、訴え続けています。

https://twitter.com/GretaThunberg/status/1178770311476633600?s=20
(グレタさんTwitterより)


“グレタ・ショック”と日本

個人的な思いを吐露すると、ここまでグレタさんが日本で話題になるとは思っていませんでした。突然の“グレタ・バブル”ともいうべきフィーバーぶりに、驚きました。これまで、私のみならず多くの記者が、各地でグレタさんのデモやスピーチを取材し、原稿を書いてきましたが、これほど反響を呼んだことはなかったからです。それほど、グレタさんの言葉はショッキングに響いたのでしょう。

グレタさんは突出した行動力の持ち主ではありますが、欧米では若者が街頭でデモを行うことは全く珍しくありません。もし、グレタさんが日本の高校生で、あれほど強い言葉を発し、行動していたら、どうだっただろうかと考えています。“炎上”し、出る杭として打たれ、社会からの同調圧力に圧し潰されていたでしょうか。

一時的な“ショック”の先に、何が待っているのか。グレタさん自身に注目が集まったのはいいものの、過剰な称賛や、不当なバッシングは、彼女の望むものではないはずです。グレタさんの訴える気候変動の問題そのものにも関心が高まり、日本が積極的な対策を取ることにつながっていくのかどうか。この“ショック”の導く先を、淡々と見守っていくしかないのだろうと思っています。