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海を殺すな プラスチック汚染  ~新たな地球環境問題~

●国際社会で深刻な課題に
●最新研究から明らかになる汚染の実態
●世界で進む対策…日本の取り組みは?

TBSテレビ報道局 外信部デスク 萩原豊

■1枚のレジ袋から数千個…
 ペットボトル、レジ袋、ストロー…。私たちの暮らしに深く関わりのある“プラスチックごみ”が、海を汚染している問題。生態系への影響などについて最新の研究が進むとともに、国際社会では、深刻な課題として取り上げられ始めている。


プラスチック製品は、世界で年間3億トン以上が生産され、およそ800万トンが海に流出すると推定されている。海岸や海中で、紫外線、風、波の力で、大きな破片がだんだん小さくなっていき、5ミリ以下のマイクロプラスチックになる。例えば、コンビニなどでもらう1枚のレジ袋から、数千個のマイクロプラスチックができるという。大きさが1ミリ以下から非常に細かくなり、その数は、どんどん増えていく。


プラスチックは、自然には分解しないため、海に蓄積され、海流に乗って、世界中に広がっていく。「国境のない汚染」と言われる。2050年には、海にいる魚の重量よりプラスチックの量が多くなるという、驚くべき予測もある。地球規模で進む問題であることから、国連も世界各国が連携して対応する必要性を訴え始めた。地球温暖化問題に並ぶ、新たな地球規模の課題に浮上しつつある。


 私たちは、この問題にキャンペーンとして取り組むこととした。タイトルは「海を殺すな プラスチック汚染」。あえて「殺すな」という言葉を使ったのは、このままでは、私たち人類に多くの恵みをもたらしている海を殺してしまう、海を殺さないために、何ができるのか、視聴者とともに考えたい、という思いからだった。


■明らかになる〝汚染の実態〟
 取材は、ロンドン、バンコク、ロサンゼルスの各支局と東京の記者が世界各地で取材を進めた。
オランダのフラネカー博士は、海鳥の胃を開いて、中にあるレジ袋の破片を、記者に見せた。博士らの研究によると、90%の海鳥がプラスチックごみを、えさと間違えて食べている。そのため、胃のスペースがプラスチックに占められ、およそ100万羽の海鳥が餓死している可能性があるという。海の生態系への直接的な影響だ。


ベルギーのジャンセン博士は、プランクトンがマイクロプラスチックをより多く飲み込むと死滅するという世界初の研究成果を明かした。数十年後、食物連鎖に影響が出て、プランクトンをえさとする魚が減ると警告した。


また、ベルギーやフランスなどでは、ムール貝の蒸し料理は、街角のレストランで人気の料理だ。そのムール貝の9割に、マイクロプラスチックが取り込まれていたことがわかったという。シーフード愛好家なら、1年で1万個が体内に入り、その99%は体外に排出される。だが、「ヒトの体内にたまるのは、年間で5個~60個です」(ジャンセン博士)これは、30年食べ続ければ、最多で1800個のマイクロプラスチックが人体にたまる計算になる。


ただ、「何個たまれば人体に影響があるのか、まだ、わかっていません」と博士は言う。確かに、マイクロプラスチックが生物に与える「有害性」は明確に立証されていない。東京農工大学の高田秀重教授によると、プラスチックを摂食した海鳥のうち、3割から4割が化学物質を体内に蓄積していたという最近の研究結果があるという。


「1年くらいの間に、いろんな化学物質が溶け出して、鳥の脂肪や肝臓に貯まるというようなことがわかってきています」(高田教授)

人の健康にも影響はないのか?今後の研究課題となっている。

 プラスチック汚染は、実際、海でどのように進んでいるのか。日本人にも人気のリゾート、バリ島とハワイで記者が取材を進めた。

バリでは「緊急事態宣言」が出されていた。今年1月の写真は衝撃的だった。サーファーが、砂浜に積もったペットボトルに埋もれていた。
ハワイの海岸にも大量のプラスチックごみが流れ着いているが、そこに、私たち日本からのごみを記者は見つけている。ハワイでのごみは、日本のものが最も多かったとの調査結果もある。

先月発表された欧米の最新研究では、太平洋上の「ごみだまり」は、これまでの想定をはるかに超え、面積160万平方キロメートル、日本国土の4倍以上にも達しているという。海域には、北米に加えて、日本、中国などから、プラスチックごみが集まっている。そのごみが海流に乗り、流れ着くという。バリ、ハワイの現象は、その島の問題だけではない。「国境なき汚染」が、その島で表面化しただけととらえる必要がある。

■世界で進む対策…日本は?

 「日本の規制、国による規制は非常に弱いと思います」と高田教授は言う。世界3位のプラスチック廃棄物排出国でもある日本。周辺の海域は世界平均の27倍もの汚染が確認されているのだが…。
では、世界では、どのような対策があるのか。

使い捨てプラスチックの排除を実現したイギリスの自治体がある。「プラスチックごみの出ない街」として注目されているペンザンス。また英王室も、バッキンガム宮殿内のカフェでのストローなどの使用を段階的に禁止、関連施設での使い捨てプラスチックも禁止する方針を明らかにしている。

レジ袋については、すでに30カ国以上が規制している。イタリアやベルギーなどでは国全体で全面禁止、アメリカや中国などでも部分的に禁止。少々意外な国が、世界で最も厳しい規制をしている。私は、最近、ケニアを訪ねる機会があった。ナイロビのスーパーで買い物をした際、レジ袋やプラスチック製の袋が全くないことに驚いた。知人に聞くと、ある法施行から、突然、レジ袋が消え、それから、小規模店含めて、かなり徹底されているという。実は、ケニアでは、去年8月からレジ袋が禁止され、使用した場合、最長で禁錮4年か、およそ430万円の罰金となったという。

 日本では、年間300億枚のレジ袋が使われているとされるが、国として、レジ袋の禁止、有料化などを義務づける制度はまだない。

中川環境大臣は、閣議後の会見で、TBS記者の質問に答え、プラスチック汚染問題について、「大変深刻な問題。我が国における重要な課題であるとともに、世界が連携して取り組むべき地球規模の課題である」との認識を示したうえで、国際的な枠組みで取り組んでいく考えを示した。

 さらに、レジ袋への対応について、「使用禁止にする、あるいは有料化を義務づけるのはレジ袋対策にとって有効と思う。容器包装の排出抑制を進めることは大変重要だと考えている」として、「レジ袋の有料化とか禁止、当面ということではないが、そちらの方向に向かっていくことを期待したい」とした。
 海洋国家でもある日本は、この新たな地球環境課題でリーダーシップを取れるのか、国内で効率的な制度を整えることができるのか。そして、私たち一人一人も、暮らしのなかで、この問題に向き合うことが問われている。

※下記の特設サイトに、シリーズの動画がアップされています。ぜひ、ご覧ください。
http://news.tbs.co.jp/newsi_sp/osen/