原発報道と議題設定 ~ローカル局とキー局の対比から~

桶田 敦
テレビユー福島 報道制作局専門局長
防災士・CeMI環境防災総合政策研究機構特任研究員

「調査情報」2017年11・12月号 no.539より

福島第一原発事故の発生から6年余り。放射線被曝と住民の健康に関する調査・研究で、放射線被曝と住民の健康に関する調・研究で、発がんリスクは放射線被曝より糖尿病など長年の避難生活による生活習慣病の方が数十倍高いことや、胎児への影響は見られないことなどが判明している。


しかし、それらの事実は地域メディアが発しても、全国メディアを通じて全国に伝わることはほとんどない。なぜこれほど大きな差異が生じてしまったのか。双方の事情に精通する筆者が検証する。

第一原発沖6キロの海に潜る(2016年)


全国に伝わらないこと

最近、福島県内で話題になった論文(ⅰ)がある。相馬中央病院の坪倉正治医師らによる、原発事故に関する健康影響についてのものだ。 

放射線被曝、糖尿病、精神的な負担、それぞれを起因とした発がんリスクを比較したこの論文は、結論から言うと「放射線被ばくによる発がんリスクよりも、糖尿病による発がんリスクの方が数十倍になる」というものである。

坪倉医師は、2011年の東日本大震災と原発事故当時、東京大学医科学研究所の医師だったが、事故直後から福島に入り、住民の被曝と健康への影響を調べてきた。もちろん、医師として医療活動を行いながらである。

彼は、これまでに、ホールボディカウンターを用いて、南相馬市など東京電力福島第一原子力発電所周辺住民の内部被曝調査などを行ってきた。その科学的データをもとに、「住民の内部被曝量は、60年代の太平洋上での核実験による日本全体に広がった汚染と比べても程度は軽く、チェルノブイリ事故後のヨーロッパ各国におけるそれと比べても低いレベル」だとの論文(ⅱ)も公表している。

坪倉医師らは、原発事故後、糖尿病を発症するリスクは事故前より最大6割増えたことを突き止め、被災住民の、原発事故に伴う生活習慣や生活環境の変化の影響による生活習慣病の長期リスクについて警鐘を鳴らしたのだ。

ここで言いたいのはこの論文の内容ではない。こうした客観的事実、原発事故後6年がたった福島県民の置かれている状況がほとんど全国に伝わっていない、ということだ。

こうした事例は事欠かない。今年9月に、日本学術会議が『子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題』と題した報告書を発表した。この報告書は、事故から6年が経過する中で、内外の研究者が報告した研究成果(査読付き論文)をレビューしたもので、「福島原発事故による公衆への健康リスクは極めて小さい」との認識を示している。

特に、不安が根強い胎児への影響について、「妊婦の流産や中絶は福島第1原発事故の前後で増減していないことが確認」「死産、早産、低出生時体重及び先天性異常の発生率に事故の影響が見られない」として、「『胎児影響』に関しては、(中略)実証的結果を得て、専門家間では科学的には決着がついたと認識されている」と結論づけている。

ある意味、原発事故の放射線影響についての結論とも言えるものだ。だが、この報告書については、地元紙や全国紙の県版など一部のメディアが取り上げただけで、全国紙やテレビの全国ニュースで取り上げられることはなかった。

他方、福島県県民健康調査の一環として行われている小児(震災時、概ね18歳以下であった県民)の甲状腺検査で、子どもたちにガンがみつかっている問題については、全国紙など、とりわけ在京キー局の関心は高く、福島県庁で開催される検討委員会には、毎回、東京から大勢の記者たちが押しかける。

果たせなかったローカル局としての社会的機能

福島第一原発事故の報道においては、事故当初から、報道する側の、いわゆる中央の論理と地方の論理が複雑に交錯してきた。筆者は、原発事故が拡大している最中の2011年3月13日に、TBSからテレビユー福島(以下.TUF)に設置された原発事故取材前線本部の統括責任者として派遣された(※筆者は2016年7月までTBSに在籍、その後TUFに移籍している)。

その際、TBSは、取材スタッフの安全を担保するために、原発事故による避難指示エリアの倍、第一原発から40キロ圏内の取材を制限した。事故当時、20キロから30キロ圏内は屋内退避、30キロから外側は、後に計画的避難区域となった飯舘村を含め、住民が事故後もそのまま生活していたエリアだ。

TUFは原発立地県を取材エリアにもつ局として、当然ながら事故対応取材マニュアルをもっていた。だが、それは、TBSが作成したものをコピーしたものに等しく、第一原発事故のような過酷事故を想定したものではなかった。それゆえ、TUFは、TBSが設定した40キロ圏内の取材制限を受け入れ、事実上、被災住民の取材を放棄した。

これはなにもTUFに限った話ではない。テレビ各局、新聞各紙も同様の対応をした。あの第一原発の水素爆発を唯一撮影した局である日本テレビ系列の福島中央テレビ(以下、FCT)も同様の措置をとった。

当時の対応について、FCTの佐藤崇報道制作局長は、「禍根が残った。私たちは県民を見捨てた。寄り添えなかったという大きな負い目を負った」(ⅲ)と述べている。

福島第一原発事故におけるローカル局の立場として、FCT佐藤局長の言葉は非常に重い。

低線量被曝下での牛の研究調査(2013年)

東京大学の竹内郁郎名誉教授は、著書『新版 地域メディア』(1989)の中で、「ローカル局の社会的機能として、地域社会がまとまりをもった社会的単位として存続、発展していくことへの寄与、すなわちコミュニティ形成の機能」をあげている。

原発事故の初期段階、住民が最も情報を必要とする場面において的確な情報提供を行えず、被災住民の中に自ら分け入ってその実情を発信できずに、住民の「不信」を招いてしまったことは、ローカルメディアとしての社会的機能を果たせなかったことに他ならない。

一方、キー局は、被災住民の置かれた状況を報じるより、原発事故そのものや事故の背景を伝えることに重きをおいた。TBSは、社会部を中心として原発事故取材チームを作り、独自に福島県内に記者を配置し、TBS発のニュースとして報じている。

本来、JNNのニュース協定では、取材においては加盟各社の地域主義をとっているので、TBSが福島県内で取材を行う場合、TUFと共同取材することが原則となっている。だが、多くの場合、TBS単独での取材で、その成果はTUFローカルで放送されることはほとんどなかった。

ローカルとキー局における原発報道の差

筆者は、原発事故後、原発関連、特に低線量被曝の影響に関する取材の傍ら、原発事故報道の送り手研究(ⅳ)を進めてきた。

ここでは、その一部、TUFローカルニュース『スイッチ!』とTBS全国ニュース『Nスタ』を構造分析した結果について報告し、原発事故取材におけるTUFとTBSの「議題設定」がニュースにどう表象されたのかを紹介(ⅴ)する。

対象は、『スイッチ!』と『Nスタ』の2011年3月14日から2012年3月16日までのほぼ1年間。対象放送時間は、『スイッチ!』約126時間に対し、『Nスタ』約111時間である。

それぞれのニュース番組における原発事故関連のニュースが占める割合を時系列で示したのが図1、図2である。

■図1

■図2

『スイッチ!』において、原発事故関連ニュースが放送時間に占める割合は、2011年3月の事故当初でおよそ65%。時期によって変化はあるものの1年間を通して徐々に減っていくが、1年後の2012年3月ではおよそ36%を維持している。1年間の総放送時間に占める割合は41・5%、約126時間に及んだ。

一方、『Nスタ』においては、総放送時間に対し、原発関連のニュースが占めた割合は16・5%であるが、時系列変化を見ると、『スイッチ!』との差が明らかとなる。だが、事故から半年と1年の節目を迎える翌2012年3月では、やや割合を戻しその後、報道量が定常化していく。

全国ニュースは全国民の関心事が扱われるので、原発事故関連のニュースが時を経るに従って減じていくのは当然であるが、それでも、事故→避難住民→放射線リスク→汚染水・中間貯蔵問題とテーマを変え、全国ニュースとしてバリューをもって報じられている。

ここで、問題としたいのは、『Nスタ』におけるTUFからの出稿量である。福島県内では1年を経ても4割近くが原発事故をテーマとしたニュースとなっている。つまり、県内でのニュースバリューは高く、当然のことながら県民の関心事をTUFは取材し、放送している。

だが、『Nスタ』では、TBSによって出稿されたニュースが、TUF出稿のニュースと比較して圧倒的に多いのである。2011年4月、5月は、警戒区域に指定された市町村の住民の一時帰宅が行われたため、TUF出稿のニュースが他の時期に比較して多いが、総放送時間(18時間19分)に対する割合は、TBS出稿が83・8%であるのに対し、TUF出稿のニュースは9・5%と10%にも満たない(図3)。

■図3

次に、『スイッチ!』と『Nスタ』における原発関連ニュースの内訳を月別の項目別放送時間で比較検討してみた。総放送時間52時間10分に対して、放射線リスクや除染、放射線対策といったニュースが最も長く46・5%を占める。避難住民や被災住民関連ニュースが41・0%なのに対し、第一原発そのものや2011年11月頃から問題化してくる中間貯蔵施設に関連するニュースなどは9・0%と非常に少ないことがわかった。

一方で、全国ニュースである『Nスタ』においては、総放送時間は15時間41分と、『スイッチ!』に比べると短い。だが、その内訳においては、第一原発の現状を、構内で働く関連会社の職員から聞き出したり、内部映像を入手したりして、第一原発事故そのものを正面から取り上げたニュースが50・9%と、TBSが出稿した原発関連ニュース総量のおよそ2分1の時間になっている。

特筆すべきは、吉田昌郎所長(当時)に単独でインタビューを行い、事故当時、第一原発内で何が起きていたのかの一端を知る手がかりを得たことである。

さらに、分析を行った1年間の報道を通じて、放射線リスクに関する問題を数多く取り上げ、報道量も多いことがわかった。その内容は、農産物や海産物の出荷停止や放射性物質の検出、県外避難者の放射線への反応、といったもので、全国の視聴者の関心の高さの表れだと言える。

第一原発事故の責任は? 東電幹部らに対する初公判(2017年 TBS『報道特集』より)


議題設定の差異

TBSとTUFにおいて、報道の議題設定において顕著な差異が見られたのが、放射線による影響への評価や除染に関する報道である。

『Nスタ』『スイッチ!』の放射線リスクに関するニュースを、「リスクありというニュアンスで報じた」=ネガティブ、「リスクはあるが影響は小さい、あるいは解決に向け努力しているというニュアンスで報じた」=ポジティブとして敢えて二項対立として分類した(図4、5)。

■図4

■図5

原発事故当初は、事故そのものへのリスクや放射線に関するリスクが大きいと判断し、TBS、TUFとも強くネガティブに伝えていた。TBSにおいては、時間経過と共に絶対的な報道量は減少するも、ニュースとしては原発事故や放射線リスクをネガティブに伝え続けている。

それに対してTUFでは、汚染水問題や放射線による健康へのリスク、農産物、魚などへの残留放射線問題などを伝える一方で、それに対する県や関係者の対策を併せて報じ、全体的にバランスのとれた、あるいはポジティブに受け止められるような報道を行っている。

こうしたニュースのフレームの差異は、そのニュースを誰に伝えるかを意識した議題設定から生じていると考えるのが妥当である。

地元福島においてTUFは、「もはやそこで暮らしていくことが前提となって日々の生活を送っている県民に寄り添う」という報道姿勢=議題設定を採り、逆にTBSは国民的な関心事として、「原発事故を再発させてはならない。あるいは原発事故の影響は測りしれない」といった前提=議題設定に立ってニュースの編集権を行使している。

夕方のニュースは、系列間においてほぼ同時間帯に放送されることから報道の主戦場となっている。その日起きたこと、あるいは起きていることをそれぞれの局の編集権に基づき報道する。

地方局は、当然、その地域で起きていることをニュースにし、キー局は、日本国内はもとより海外でのニュースも取り上げて報道するので、ニュースの構造に差異があるのは当然である。

当初の原発事故取材に際して、TBSは社会部に原発取材チームを結成し、「東電・原子力保安院などの大本営発表に頼らない取材と、第一原発を〝戦場〟と見立て、そこに入れないのであれば、そこにいる隊員=作業員に取材し、あるいは、事故の本質を知り得る政府関係者、東電関係者に取材する」という独自取材にこだわった方針=議題設定を立てた。

一方、TUFは、「原発事故や事故処理の情報が出てくるのは東京である。そこはTBSに任せて、TUFはそれ以外の取材、すなわち、県民に寄り添い、被災者の立場を代弁する報道を行う」という取材方針を設定した。

その結果として、TUFでは、第一原発事故関連のニュースが少なく、また、全国ニュースである『Nスタ』への出稿も少ない、という結果が生じた。

また、時間が経つにつれ、福島県内では、徐々に放射線リスクに対する理解が進んできたこともあって、2011年の後半頃からは、「リスク」を伝えることよりも「リスク回避の方法」「リスク回避の具体策」を伝えるニュースが放射線リスクに関連したニュースとして増えてきた。

だが、こうしたニュースは、全国ニュースを編集する立場のTBSから見ればニュースになりにくい。

TUFの元報道局長が「異常でなければニュースではないのか?」と、TBSのニュース編集長に問いただしたこともあるように、「原発事故は未だに続いており、その影響はまだまだ計り知れないものがある」とするキー局が形成した議題設定と、「原発事故の影響は克服できるし思ったよりもリスクは小さい」とする地元局での議題設定がかみ合わず、同じネットワークに属する報道機関に、違ったベクトルのニュースのフレームが生じたと結論づけることができる。

TBSと福島県のローカルニュースであるTUFにおけるニュースの構造の差異を考えたとき、TBS『Nスタ』は全国放送であるから、TUFの放送波を通して福島県内にも放送される。一方で、TUFがローカルで伝えたニュースは、ネットワークニュースとして上らない限り全国へは伝わらない。

放射線のリスク情報におけるネガティブな情報は福島県にも流れるが、ポジティブな情報はほとんど全国に発信されない。被災住民の現状もほとんど全国ニュースになることはない。ここに、福島県民あるいは関係者が言うところの、「分断」や「風評」を生み出す一因があると考えるのは妥当であろう(図6)。

■図6

そうした状況を少しでも打開するには、ローカル局が主体的に「これは全国ニュースだ!」と、ネットワークへ情報発信することが求められる。そのためにはキー局とどれだけ対等な関係でモノを言えるかが重要である。

原子力災害のみならず、一般に、災害報道において、被災地に向けて発信する情報と、被災地以外の全国に向けて発信する情報は、情報の受容者のニーズが違うことから当然その報道内容も異なる。

だが、今回の福島第一原発事故は、キー局が半ば原発事故取材の指揮権、編集権をもつことにより、ニュースを送り出す生産者側の構造を大きく変化させてしまった。

こうした流れは、その後の熊本地震においても同様の傾向が見られ、テレビニュースのネットワークそのもののあり方をも再検討が迫られる状況を生み出しているのではないだろうか。


「調査情報」2017年11・12月号 no.539より

ⅰ)Additional risk of diabetes exceeds the increased risk of cancer caused by radiationexposure after the Fukushima disaster, Michio Murakami, et.al., Plos One, 2017

ⅱ)Internal Radiation Exposure After Fukushima Newclear Power Plant Disaster,Masaharu Tsubokura, et.al., JAMA, 308(7), 2012

ⅲ)『原発災害、その時テレビは…』(福島中央テレビ、2013)

ⅳ)桶田敦「福島第一原発事故 原子力災害報道の諸問題」(『社会情報学』第3巻3号、社会情報学会、2015)他

ⅴ)桶田敦「原子力災害報道におけるローカル局とキー局のニュースの差異」(『災害情報』No.14、日本災害情報学会、2016)で公表した内容の一部を紹介

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