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2019/07/07 風をよむ「ふたつの"正義"」

・IWC脱退から31年…「調査捕鯨」を再開した日本

・反捕鯨国との間で、今、日本の立ち位置が問われている

・捕鯨問題は「世界の縮図」との見方も


記者「31年ぶりの商業捕鯨で、大きなクジラが水揚げされます」

月曜日、釧路港に水揚げされた、体長8メートルを超えるミンククジラ。
IWC=国際捕鯨委員会から脱退した日本は、31年ぶりに、「商業捕鯨」を再開したのです。

日本小型捕鯨協会・貝良文会長「長かったです。ようやくここまで来た。本当に嬉しく思う」

再開された商業捕鯨は、十分な生息数が確認されているとする、ミンククジラなど、三種類のクジラを捕獲対象とし、 漁場も、日本の領海や排他的経済水域に限られるとしています。

しかし、海外メディアからは、「国際的な批判を無視して、日本は商業捕鯨を再開した」

「鯨肉の需要も減少する中での再開は、国粋主義に基づくものだ」

日本の立ち位置が問われている「捕鯨問題」。

古くから捕鯨を行ない、クジラを食べる、食文化を育ててきた日本は、1951年にIWCに加盟。国際協調の姿勢をとってきました。

しかし、1980年代になって、クジラ保護の声が高まり、「商業捕鯨」の一時停止が決定。それ以降、日本は生息数などを調べるという名目で、南極海を中心に、「調査捕鯨」を行ってきました。

この間、国内消費もピーク時の、およそ80分の1に低下。さらに…

アメリカ・メディア「映画をきっかけに批判の声が上がっています」

和歌山県たい太じ地ちよう町で行われるイルカ漁を批判的に描いた、アメリカのドキュメンタリー映画「ザ・コーブ」が公開され、逆風が強まりました。

苦しい立場に立った日本。IWCの総会では…

日本代表「どうすれば捕鯨を認めてくれますか?何を提案しても却下するのですか?」


反捕鯨国「日本がクジラを殺す限り、提案は受け入れない」


去年の段階で、IWC加盟国の内、捕鯨を支持する国は、日本、ノルウェーなど41カ国、反捕鯨国が48カ国、という勢力分布でした。

そして去年12月、これ以上、認識の溝が埋まらないと見た日本は、IWCからの脱退を表明。独自ルールによる、商業捕鯨の再開に踏み込んだのです。

国際的なクジラ保護の空気と、日本独自の“クジラ”文化との深刻な溝。その対立を、どう考えればいいのでしょう?その手がかりになるかもしれない映画が今、上映されています。

和歌山県太地町を舞台にした、ドキュメンタリー映画「おクジラさま」。「ふたつの正義の物語」というサブタイトルがつけられています。

漁師「よそ者が来て、町の文化を壊そうとするのは間違っている」
シーシェパード「伝統や文化というのは分かる。しかし長く続いているから正しいとは限らない」


捕鯨の賛否にとらわれず、多様な意見や考え方を紹介しながら、この問題の本質を、探っていきます。

太地町に移り住み、取材を続けるアメリカ人ジャーナリストからは…

アメリカ人ジャーナリスト「絶滅の危機にあるのは、クジラやイルカではなくこの小さな町だ。こじれた関係を元に戻したい。誤解や憎しみ、暗黒を止めたいんだ」

映画を撮った、アメリカ在住の佐々木芽生監督。制作を通じて、ある事に気づいたと言います。

佐々木監督 「太地町で起きていることは、この世界で起きている事の  縮図だと思ったんです。長い伝統や歴史を続けていきたいという、太地町のローカルな価値観、クジラという大切な生き物なので一頭も殺してほしくないという反捕鯨国のグローバルな価値観。この『ふたつの正義』が衝突している…」

捕鯨問題に揺れる和歌山県太地町は、「世界の縮図」だという、佐々木監督。なぜなのでしょう?

佐々木監督 「トランプ大統領の支持者達もローカルな価値観を重んじ、もうグローバルはいらないと。同じアメリカ人でも価値観が全く違う。南北戦争以来の断絶だと。それが、もうどうしようもない溝の深さ。溝はどんどん深くなっていくという状況です」
 
相容れない価値観や相手を、排除しようとする、分断の動き…。


それは、移民・難民問題をはじめ、EU離脱問題で混迷するイギリス、また、一国二制度で揺れる香港など、世界各地で見られる激しい対立に、表れていると、佐々木さんはいいます。


佐々木監督 「自分だけが正義、というふうに凝り固まってる人どうしが、対話しようというのは、非常に難しい状況。自分と違う正義を持った人たちを許容して、排除するんじゃなくて、共存していかないといけないというスタートラインに、みんなが立つことが大事なんじゃないかと…」

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