見出し画像

【GGP2022プレビュー②女子100mハードル(青木益未&寺田明日香)】

青木がシーズン早々に12秒86の日本新
ママさんハードラー寺田と12秒台決戦へ

世界トップレベルの選手も多数参加する陸上競技コンチネンタルツアーの1つ、ゴールデングランプリ(GGP)が5月8日、東京・国立競技場で行われる。女子100mハードルはママさんハードラーの寺田明日香(ジャパンクリエイト・32)が日本人初の12秒台(12秒97・19年)など、過去3シーズンで日本記録を4回マーク。この種目を牽引してきたが、昨年は寺田が6月に12秒87の日本記録を出すと、5日後には青木益未(七十七銀行・28)が日本タイで並んだ。
 東京五輪では寺田1人が準決勝まで進んだが、今季は青木が4月10日に12秒86と、自身初の単独日本記録保持者に。2人の対決から12秒84の世界陸上オレゴン参加標準記録の突破が期待できる。また、世界記録保持者のケンドラ・ハリソン(米国・29)にどこまで食い下がるかも注目点だ。

●100m高校日本一から12年でハードル最速の座に

4月10日の北陸実業団選手権で12秒86。寺田と自身の2人が持っていた日本記録を0.01秒更新し、初めて単独で日本記録保持者になったことを青木は素直に喜んでいた。
「今まで自分が、日本記録を出せるような選手になれると思っていませんでした。長くやって来て、そういう選手になれたことがうれしかったです」
 青木は12年前、岡山・創志学園高1年時に100mでインターハイ優勝者になった選手。だが高校2~3年時には全国大会で勝つことができなかった。環太平洋大で日本学生個人選手権に100mハードルで勝つようになったし、七十七銀行入行後は日本選手権に勝ったりアジア大会、アジア選手権代表になったりした。だが木村文子(エディオン。昨シーズンで引退)や寺田も日本代表として活躍し、彼女たちに比べ注目度は低かった。
 記録的にも、寺田が12秒台を出した19年まで、13秒15が自己記録だった。13秒0台は多くの選手が出していて、当時の日本歴代順位は8位。明るい言動で知られるが、木村や寺田に対してはつねに背中を追うコメントをしていた。
 日本新を出したのは予選のレースで強敵不在(決勝は欠場)。2位に1.72秒もの差をつけた。
「強い選手がいる中でも同じ走りができます、とはなかなか言えませんが、今年の冬は自分主体にしっかり、自分がどう走るかをメインで考えてやって来ました。ハードリング時の腕の動きをコンパクトにと、ずっとやってきたことがスプリントと噛み合って、うまくインターバルにつながりました」
 前日の100mは11秒66で走った。向かい風2.3mだったことを考えれば、11秒60の自己記録以上のパフォーマンスと言っていい。その後は脚に違和感が出て織田記念は3位(日本人2位)に終わったが、日本新はしっかりした裏付けがあって出した記録だった。

●寺田は世界と戦うために「大きな変化」に取り組み

それに対して寺田は、シーズン第1戦に予定していた織田幹雄記念国際(4月29日)を、左股関節の違和感で大事をとった。室内も含めて試合に出場していない。
 東京五輪が終わり、最大目標にしていた決勝進出は果たせなかったが、準決勝にラウンドを進めることはできた。高野大樹コーチは「その上で世界と戦うには大きな変化が必要」と寺田と話し合った。「何年も連続で根を詰めていくことは難しい」という判断もあり、今季は「ゆっくりめの調整で、変えるところを変えている」という状態だ。
 良くなっている変化としては、「踏み切り時に骨盤の右側が後ろに引けていた動きを、リードレッグの左脚にぶつけるイメージの動き」ができてきた。
 ただその動きをすると、織田記念前に違和感が生じてしまったように、左の股関節に大きなストレスがかかる。またそれとは別に、スプリントのレベルアップも世界と戦うためには求められる。そのための「股関節周りの力強さがまだ不足している」と考えられた。
 それでも、「状態は悪くない。変わってきている部分が結果につながる可能性はある」と高野コーチはGGPの寺田に期待する。
 寺田自身も「東京五輪と同じ国立競技場で開催される大会です。東京五輪よりもパワーアップした姿を見ていただけたら。自己ベスト目指して頑張ります」と話している。自己ベストは日本記録以上ということになる。

●日本人対決と世界記録保持者ハリソン

青木が日本新を出したときの寺田の反応は、高野コーチによれば「悔しさ半分、喜び半分だった」という。「男子の110mハードルが世界レベルまで強くなっています。女子も12秒台を3人、4人と出すようになって、12秒台決戦にしていきたい」と寺田は話していたという。
 それは追う立場だった青木が熱望してきたことでもある。「たぶん次、寺田さんが来ると思うので、良い勝負をして、12秒7台など良い記録を出したいですね」
 日本人3人目の12秒台候補としては、織田記念で2位(日本人1位)と青木に先着した福部真子(日本建設工業・26)、13秒0台を持つ鈴木美帆(長谷川体育施設・25)と紫村仁美(静岡陸協・31)らが挙げられる。
 外国勢では世界記録保持者のケンドラ・ハリソンが出場する。19年の世界陸上ドーハ、昨年の東京五輪で連続銀メダルを獲得してきたバリバリの世界トップハードラーだ。そのハリソンを参考にしているのが寺田である。「身長、体重など体格が似ていて、走り方も踏み切り方も寺田にとって馴染みやすい」と高野コーチ。
 現時点での力の差は大きいが、近くのレーンで走れば課題解決のヒントをつかむことができる。GGPは日本の女子ハードルが飛躍するチャンスの大会だ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?