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36歳の佐藤悠基が探る新しい勝ちパターン。結果を出せばMGC前のトレーニングに自信【全日本実業団ハーフマラソン2023プレビュー③】

 佐藤悠基(SGホールディングス・36)が、新たな勝ちパターンをハーフマラソンで試す。第51回全日本実業団ハーフマラソンが2月12日、山口市の維新百年記念公園陸上競技場を発着点とする21.0975kmのコースで行われる。2連覇のかかる林田洋翔(三菱重工・21)、20年大会で2位(日本人トップ)の古賀淳紫(安川電機・26)、日本選手権10000mに優勝経験のある大六野秀畝(旭化成・30)、千葉大大学院卒業の今江勇人(GMOインターネットグループ・25)らが優勝候補に挙げられている。36歳の佐藤も「今年は勝負に加わりたい」と意欲を見せている。佐藤が考えるレースプランとは?

●佐藤が考えるレースパターン

 佐藤悠基はかつて、トラックの第一人者だった。11~14年まで日本選手権10000mに4連勝し、14年には5000mと2冠。11年世界陸上テグ大会、12年ロンドン五輪、13年世界陸上モスクワ大会と連続出場した。日本選手権のラスト勝負には「絶対の自信を持っていた」という。
 佐藤は昨年の今大会で1時間00分46秒の自己新をマーク。優勝した林田から8秒差の11位だったが、3週間後の東京マラソン(2時間08分17秒の自己新で13位)を考えて最後まで出し切る走りは控えた。
「余裕を持って終わろうと考えて、勝負には加わりませんでした。結局、その後の練習で上げすぎて東京マラソンには合わせられなかったのですが、この大会で良い感触は得られました」
 前回は5km通過が14分32秒だったが、「13分台で入らない限り、脚を使う(大きな力を使う)ことはありません。(日本記録ペースの)14分10秒台前半でも、みんな行くと思います。その流れに乗って行けばいい」と、前半からハイペースの展開になっても付いて行く。
 昨年は10kmまでは「体が重かった」が、10km過ぎの折り返し後に「気持ちも入って、集中したら動きも良くなり、余裕をもって走ることができた」という。詳しくは後述するが、練習過程から今年もその再現に自信を持っている。そして今回は、勝負強さも見せたいと考えている。
「最後のキレは年齢とともに少しずつ落ちています。それは仕方ありません。早めに動いて最後まで押し切るレースができて、それを新しい形にしていければ」
 トラックではラスト1周を切ってから強さを発揮したが、今の佐藤はロングスパートに勝ちパターンを変えようとしている。

●距離重視の練習で「量に対しての質が上がっている」

 特にマラソンに関しては、佐藤は色々な練習パターンを試してきた。「毎回コンセプトを決めて、量重視か、質(スピード)重視かを変えてきました」。本番から逆算してどこで疲れを抜くかなど、調整のパターンも色々と試した。その結果、量重視のマラソン練習が自身には合っている、という結論に至っている。
「以前と変わらない質を、量をやりながらキープしています。量に対しての質が上がっている、と言えるでしょう」
 今年は3月の東京マラソンには出場しない。10月開催のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)出場資格をすでに持っていることもあるが、昨年10月のアムステルダム・マラソンを右ヒザの痛みで途中棄権した。元旦のニューイヤー駅伝は1区で区間10位(区間1位選手と5秒差)と好走したが、練習の積み重ねが前年より少ない。
 出場は見送ることになったが、当初は「3カ月間余裕を持って準備したい」と4月の海外マラソン出場を予定していた。「1月は宮古島の起伏の激しいコースで、距離を重視してガンガン走り、ベースをかなり作ることができました」
 佐藤の距離重視の方針は、「レースになればスピードはパッと出せる」という自身の特徴も踏まえてのこと。前述のように今大会前半が速いペースになっても、トラックと駅伝で培ったスピードで対応できる。昨年よりも終盤でスタミナが残っていれば、ロングスパートも可能になる。新たな勝ちパターンにつながる練習ができている。
 その勝ちパターンは当然、マラソンを見据えてのものだ。
「マラソンは勝負に行くレベルにできていませんでした。(マラソンとして)形にしなければ、という段階。昨年の東京で何とか形にできるところまでは来たので、これからは最後に勝負を決めるところのトレーニングもしたい」
 今回のハーフマラソンで終盤まで「去年のように」走り、ラスト勝負にも加われば、狙い通りに練習が進んでいることを意味する。「MGC前のトレーニングが見えてくる」という。
 佐藤にとって極めて重要なレースとなりそうだ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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