見出し画像

【織田幹雄記念国際2022前日会見】

桐生欠場の男子100mは多田と小池の争いか
世界陸上標準記録を破っている泉谷が雨の中で出すタイムは?

織田幹雄記念国際(4月29日。エディオンスタジアム広島)の前日会見が28日、行われた。男子100mに出場する小池祐貴(住友電工・26)と多田修平(住友電工・25)、110mハードルで世界陸上オレゴン参加標準記録を破っている泉谷駿介(住友電工・22)がレースに向けて意気込みや目標を話した。雨天でホームストレートの強い向かい風も予測されている。記録よりも、自身の狙いとする技術を試す意味合いが大きくなる。織田記念で課題としている部分を中心に、3人のレース展開を予測する。

●多田は厚底スパイク使用を中止

多田が4月24日の出雲陸上(島根県出雲市)から連戦する。出雲では10秒27(+1.5)で2位。10秒18の桐生祥秀(日本生命・26)に0.09秒差で敗れた。得意のスタートから桐生に先行され、「良いところがまったくなかった」と嘆いたが、後半で桐生に離されなかったのは唯一、収穫といえたかもしれない。
「スタートの3、4歩目で空回りした感じがあって、中盤も浮いてしまったので、頑張って力を使って(桐生以外の選手たちを)抜いたレースでした。明日はスタートから中盤を浮かないようにスムーズに加速して、出雲では後半も力みましたが、あのときみたいに(減速しない)イーブンペースで走りたい」
 冬期練習で課題とした筋力アップはできている。「(出雲では)力強さは出ていましたが、脚を回転させるピッチ系の動作が鈍い。キレがない」と出雲では分析していた。その点は「試合を重ねることで上がってきている」と、練習でも手応えを感じている。
 さらに、スタートや中盤で浮いてしまった一因に、反発性の高い厚底スパイクもあると判断した。昨年の東京五輪で決勝を走った選手の大半が使用していたスパイクだ。出雲の時点では「このスパイクで行く」と話したが、その後動画を見て自身の感触と照らし合わせ、コーチや関係者とも話し合って、織田記念は昨年の日本選手権優勝時に履いていたスパイクに戻す。
「あのスパイクを使いこなすのは、僕の走りでは難しい。自分の武器であるスタートから中盤の加速局面で、スパイクの厚みやエアーで若干浮く感じを持ちました。気持ち良い接地ができなかったんです」
 スパイクは変えずに、昨年よりも増している力強さを、自身の特徴に加えていく。「力強さ」は大きくしながら、「力任せから軽やかな走りにする感覚」にしたいという。
「調子が良いときは勝手に弾む走りができます。その中でも、無意識に接地の力強さが出るようになれば、推進力が生まれます。そこができれば絶対に9秒台が出る」
 多田が昨年マークした自己記録は10秒01。織田記念は雨と風が予想され記録的には難しいが、多田が目指す走りが今回できれば、次のゴールデングランプリ(5月8日・国立競技場)で日本人5人目の9秒台選手が誕生する。

●9秒台スプリンターの小池はトップスピードを高める

日本人9秒台スプリンターは桐生が17年9月に9秒98で壁を突き破ると、19年5月にサニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大。現タンブルウィードTC・23)が9秒99で続き、同年6月には9秒97と更新。小池も同年7月に9秒98と、桐生の記録に並んだ。そして昨年、山縣亮太(セイコー・29)が9秒95と日本記録を伸ばしている。
 昨年まではアジア記録が9秒91で、桐生も山縣もそこを目標にしていた。しかし昨年の東京五輪で蘇炳添(中国・32)が9秒83とアジア記録を大きく更新。上背はないが筋骨隆々の体格の蘇の走りが、日本選手たちに改めて身体の大きさや筋力の重要性を認識させた。
 出雲で取材した桐生、多田、デーデー・ブルーノ(セイコー・22)も全員が、冬期に筋力アップを図り、体重も増えていた。米国でシーズンインした小池も同様で、「冬期はフィジカルをメインに、過去に故障した箇所や不安な箇所がいくつかあったので、それらを全部改善できるように取り組んできた」と言う。筋力は腰回りを中心に鍛え、体重は「2kg増で76~77㎏の間」だという。
 シーズンに入ってからはアップした筋力を、走りに生かす段階になる。小池は米国で3試合に出場して10秒2~3台だった。
「何パターンかやりたいことを試すことができた遠征でした。日本選手権までこういう形でやっていこう、という計画を立てられました。(動きの部分を)具体的に言葉にするのは難しいのですが、レースパターンでいえば中盤のトップスピードの高さに取り組んでいきますトップスピードが100 mのタイムと強い相関関係がありますから」
 小池のトップスピードが出るのは50~60m地点。これは多田も、どの選手も同じなのだが前半のスピードは多田が速く、後半は小池が速い。しかしその日のトップスピードが高ければ、前半からスピードを上げる必要がある。小池が仮に前半で多田に負けていても差の小さい走りになり、得意の後半で逆転できる。
 逆にその日の多田のトップスピードが高ければ、後半で小池に負けてもその差が小さくなり、逆転される可能性が小さくなる。

●社会人初戦の泉谷。雨の中でも13秒3台を

泉谷は順大から住友電工に入社して初戦になる。
「不安もありますが、ワクワク感の方が大きいですね。明日の天気では雨で風も強くなる予報が出ています。ケガをしないでしっかり終えることが大事。タイムは13秒3台は出したいのですが、天候次第でわかりません。6月の日本選手権、7月の世界陸上に合わせられるように上げていきたい」
 昨年の東京五輪予選で13秒28と、今年7月の世界陸上参加標準記録を(13秒32)を突破済み。気持ちの部分では余裕がある。
 標準記録適用期間以前ではあるが、昨年の日本選手権で出した13秒06は昨年の世界リスト5位。東京五輪準決勝はハードルに何台もぶつけて13秒35。それでも決勝進出に0.03秒と迫った。
 五輪や世界陸上の準決勝で13秒2台を出すために、「どんな条件でも13秒3台前半は出したい」ということで、「13秒3」を織田記念の目標とした。
 冬期は「ウエイトトレーニングにも重点的に取り組んだ」という。筋力が上がったことで、ハードルへの踏み切りが強化できたという。ただ、それをハードルに生かそうとして、3月の日本選手権室内60mHでは「ハードルに胸から突っ込むような踏み切りをして、クラッシュしてしまった」という。12秒台も意識した攻撃的なハードリングなのだろう。今後の課題となるが、さらなるレベルアップの可能性をもってシーズンに入っていく。

TEXT by 寺田辰朗

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?