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前回優勝の積水化学は3区の新谷で先行し、4区以降を逃げ切るレースプラン。5区の鍋島の復調ぶりが勝敗を左右【クイーンズ駅伝2022プレビュー⑦】

 積水化学が予想通り最長区間の3区に新谷仁美(34)を起用。2連勝に向けて上げ潮ムードを漂わせ始めた。クイーンズ駅伝in宮城2022(第42回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月27日、宮城県松島町をスタートし仙台市弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmで行われる。
 積水化学は1区に前回3区区間2位の佐藤早也伽(28)を、2区にこの区間2年連続区間賞の卜部蘭(27)を起用。3区の大砲・新谷で大きく抜け出す展開を目指す。資生堂に逆転されても、4、5区の頑張り次第ではアンカーの佐々木梨七(20)で勝負に出ることができる。

●1区・佐藤は「無心で走る」

 積水化学は絶好調の3区、新谷仁美を生かす布陣になった。1区の佐藤と2区の卜部が射程圏内の差で3区につなげば、新谷で一気にリードを奪うことができる。
 佐藤は近年は3区の方が多く、「(1区の坂は)慣れていません。無心で走るしかないです」と言うが、2年前には1区で区間3位、18年大会でも区間6位で走っている。
 昨年のクイーンズ駅伝後、佐藤はマラソンを2本走っている。1月の大阪国際女子は2時間24分47秒の6位、9月のベルリンは2時間22分13秒の9位(日本人3位)。
「ベルリンは初めての海外マラソン、初めて夏のマラソン練習で不安はありましたが、自己新を出すことができて自信になりました。それまでのマラソンでは30km以降のペースダウンが課題でした。ベルリンはいつもより落とさずフィニッシュできたんです。夏場の練習は初めてで距離を減らしていましたが、来年(同時期開催のMGC)に向けて、もう少し攻めた練習もできそうです」
 マラソン後は通常1カ月近く休むが、今回は1週間でチームの練習に合流した。その代わり、疲労が出ないように距離ではなく、「スピードを出して感覚を良くする立ち上げ方」にした。右肩上がりの回復ではなく、良かったり悪かったりを繰り返し、「少しずつ上がっている感じ」に入ってきた。
 そして佐藤の場合は、多少調子が合わなくても“無心”で走ることで力を発揮する。田中希実(豊田自動織機・23)、木村友香(資生堂・28)ら、トラック種目の日本代表経験選手たちと走っても、大きく後れることはないはずだ。

●3年連続2区区間賞を目指す卜部

 2区で2年連続区間賞を取っている卜部は、過去2大会を次のように振り返った。
「2年前の区間賞(10分18秒)は一緒にスタートした2人で走りました。昨年(10分07秒の区間新)は前を追って行って、最後また上げるイメージで走りました。前を追いながら後半また、ギアを上げる意識で走る方が、トータル的に見て良い形になると思います」
 今シーズンは昨年の東京五輪に続き、7月の世界陸上オレゴンにも1500mで代表入り。しかしシーズン前半は貧血の影響で思った走りができず、シーズン後半はレースの転倒が響いて複数箇所に痛みが出た。だが駅伝に向けては「最後は去年と似た練習ができた」(野口英盛監督)と状態を上げてきた。
 中距離のトラックランナーだが、駅伝の何たるかもよく理解しているのが卜部という選手。「ちょっとしたところの積み重ねが、最後で5秒、10秒の違いになって出ます。もちろん(3年連続)区間賞も取りたいのですが、少しでも良い流れを作って次につなげることが駅伝では大事なんです」
 良い形で3区の新谷につなぐ準備ができている。
 積水化学は2年前がそうだったように、3区の新谷でトップに立つ可能性が大きい。
 新谷は今回のメンバーを「私が入社して3年間でも強力なメンバーだと思います。私も入るのでフレッシュさに欠けますが(笑)、経験の数は心強い部分がありますね。勝敗を決める4区、5区の選手がどれだけ自信を持って走れるか。2人に安心して走ってもらえるように前半で流れを作りたい」と、前日会見で話した。

●「去年とはまた違った歓声を聞きたい」(佐々木)

 4区は弟子丸小春(21)で前回も、インターナショナル区間の4区を走った。区間16位だったが日本人選手間では3位タイ。
 野口監督は「去年なりの走りが1つの目安になるでしょう。真っ白になって、ばーっとならないように走ってほしい」と、落ち着いた走りで5区につなぐことを求めている。
 そして2番目に長い5区に鍋島莉奈(28)が起用された。佐藤の5区も考えられたが、「お互いに経験のある区間なので」と野口監督は起用理由を説明した。「(追い上げられることgた予想される)5区は逃げないといけない区間。鍋島もその心づもりはできています。真ん中の新谷を絶対に生かせるようにしたい」
 今年積水化学に加入した鍋島は、左足舟状骨の疲労骨折の治療やリハビリトレーニングを優先し、当初はクイーンズ駅伝に出場する予定はなかった。だが秋になって状態が良くなり出場が決まった。
「選手として試合に出たい思いはありましたが、メンバー入りできる位置にいるとは思っていなくて。しかし出るつもりで準備はしっかりしてきました」
 鍋島も16年大会と18年大会で、5区の区間賞を取っている。だが18年大会で鍋島が出した32分10秒の区間記録を、昨年31分28秒まで縮めたのが五島莉乃(資生堂・25)で、今大会でも5区に起用された。
 3区でリードをしても、外国人選手を持つ資生堂に4区で差を縮められることは覚悟しないといけない。5区の鍋島がリードを守れるかどうかが、大きな焦点になる。
 積水化学は前回優勝テープを切った佐々木梨七(20。前回の登録は木村姓)が、2年連続でアンカーの6区に起用された。下りに強く、6区のコースで力を発揮する選手。野口監督は「佐々木の仕上がりがいいので、10~15秒差(ビハインド)でもチャンスがある」と自信を持って送り出した。
 昨年は4秒差で区間2位。「チームは優勝できてうれしかったですけど、個人では悔しかったですね」と佐々木。「中盤の4kmを1秒ずつ削れば区間賞も」と意欲を見せる。仮に日本代表クラスの選手が同じ区間に来ても「個人種目の自己記録で負けていても、駅伝は1人じゃなくて、雰囲気や流れが走りに影響します。自分が100%を出せれば区間賞も無理じゃない」と、相手が格上選手でもひるまない。
 地元、仙台育英高出身の選手。
「地元だからなのかはわかりませんが、去年は下の名前で応援してもらいました。今年は(フィニッシュ地点も)有観客なので、去年と同じようにトップで競技場に入っても、スタンドの反応が違うと思うんです。もう一度トップで入って、去年とは違う“ワァーっ”ていう声援を味わってみたい」
 2連勝に向け、積水化学の選手たちの気持ちが盛り上がってきた。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト


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