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スピードと停滞

秋と冬のグラデーション。そのちょうど間のような、最近の気温。

朝、目覚めた時の冷えた足先や、顔を洗う水のつめたさに、季節の移ろいを見つける。

あの人が去った夏はとうに過ぎて、新しい季節が次へ次へと僕を急かしているが、特に行き先があるわけでもないので、ただただ、めまぐるしさの中に取り残された自分がいる。


以前は、ずっと20歳のまま、青年のままで年齢を重ねていくのだと思っていた。

実際、心の年齢はたいして変わっていないように思える。

若いままでいたいとかいう願望の話ではなく、10歳の自分も20歳の自分も現在の自分も、結局は地続きの自分で、「何かが明らかに変わった」と自覚する瞬間がそれほど多くないということ。


それでも、そんな自分を残して、季節は変わっていく。

夏から秋、秋から冬、冬から春、春から夏。

季節が一回りして夏になっても、その夏はもうあの人がいた夏ではないし、以前のその夏を過ごした自分自身でもいることはできない。

それはとても切ないことで、それでいて美しいことでもあるけれど。


これから、ますます季節が過ぎて行って、青年であるという自分だけでは許されない状況が増えていくのだろうと思う。

誰かにとっての恋人であったり、誰かにとっての伴侶であったり、親であったり。

役割はいくらでも用意されていて、なんとなく役に着くことに急かされているような感じがする。


いつか何者かになりたい自分、未だ何者でもない自分。

役割をこなすことはきっと気分がいいこともあるのだろうけれど。

そこに埋没していく感覚だけは、未だに自分に許すことができていない。







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