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ゼロからわかる自己調整学習⑤自己調整は"1人で"とは限らない!

「自己調整学習」と聞くと、「自己学習」=「個別学習」という印象を受ける人も少なくないようです。
ですが、それは大きな間違い!
学習を自己調整するというのは、決して「1人で全部やる」というわけではないのです!


1 そもそも自己調整の力は他人をモデルにして身につく

以前説明したように、自己調整ができるようになるまでには4ステップあり、前半2ステップは「社会的影響」、すなわちお手本を見てそれをマネしながら学習していくというものでした。

したがって、教師や友人と学習していく中で、自分を調整していくスキルを身につけていくと考えた方がよいわけですね。
「はい、じゃあ1人でやりなさい」「宿題でやってきなさい」だけでは、自己調整の力を手に入れることは難しいのです。

ちなみに、「学習のモデルにふさわしいのはどんな人か」という研究もあるのでご紹介します。

皆さんは、以下の2人のうち、どちらが自分にとって「学習を促すモデル」になるでしょうか?

モデルA … 成績抜群。テストはいつも満点かそれに近い点数。授業中の発言も鋭く、わかりやすく説明することができる。
モデルB … 成績は中くらい。ただ、今回のテストは勉強法を工夫したようで、久しぶりに満点がとれたらしい。

どちらか、と聞かれると困るかもしれません。
そもそも、どちらを選ぶかは人によって違いますから、正解があるわけではありません。

ではなぜこの質問をしたか?
それは、「自分にとってレベルの高すぎる人は、学習のモデルとしてふさわしくない」ということが研究で明らかになっているのです。

つまり、自分の学習を効果的に促してくれるようなモデルになる人物は、自分にまあまあ近い人物、少し頑張れば手が届くレベルの人です。
反対に、自分よりもかなりできる人、雲の上の存在のような人を参考にしても、自分の学習がよりよくなるということはなかなか難しいのです。

もし皆さんが、成績が良い方であるならば、モデルAのやり方を参考にすれば、成績がさらによくなる可能性があります。
しかし、そうではない、どちらかというとモデルBに近いならば、今回頑張ったBの方法を真似してみた方が、自分に合っているかもしれません。

心理学では、モデルAのように、理想とするレベルにすでに達しているモデルを「マスタリーモデル」と言います。
モデルBのように、最初は困難があっても、頑張って課題を乗り越えたようなモデルを「コーピングモデル」と呼びます。
学習においてモデルにしたほうがよいのは、「コーピングモデル」だとされています。

確かに、いくら大谷翔平選手に憧れているからと言って、高校球児が大谷選手の今のトレーニングやプレーを真似するのは現実的ではないですし。
それよりも、野球部の先輩やコーチなど、参考にできるモデルを真似して練習するところから始めた方が(現時点では)効果がありそうですね。

2 困ったときに人に頼れるのも「自己調整」の1つ!

以前説明した、自己調整学習の3つの要素の中に「学習方略(学び方)」がありました。
学び方にもいくつかありますが、そのうちの一つに「助けを求める(援助要請)」という方法もちゃんと存在しています。

要するに、困ったときに助けを求められるのも、れっきとした自己調整だよ、ということです。
たしかに、学習で出会った困難はすべて一人で解決できるものとは限りません。
「これはあの人に聞いてみよう…」と思えるのも、自分の学習をちゃんと調整していることになるんですね。

ただし!
助けの求め方にも2種類あるという研究があります。
良い助けの求め方と、そうでない助けの求め方があるというのです。

上の図解を見てわかるように、
良い助けの求め方とは、「常に自分が主体」です(自律的援助要請)。

自分で考えたが、どうしてもわからなかった。
だから人にヒントをもらうが、最終的には自分でやる。

反対によくない助けの求め方は「助ける方が主体」です(依存的援助要請)。
自分の頭では考えない。とりあえず助けを求めて、答えを教わってしまう。
これでは学習になりませんよね。

図解にも書いていますが、それでもまだ、助けを求めるだけマシかもしれません。
教室には、一人でずっと困っている子、がいることもあります。
本当は困っているんだけど、どうしていいかわからない。人に助けを求められない。あるいは助けを求めるのは恥ずかしい、よくないことだと思っているのかもしれません。(援助回避)
一見大人しいので見落とされがちですが、こういった子どもこそ、教師が何らかのアプローチをしないと、どんどん置いてきぼりになってしまいます。

適切な助けの求め方を教えることも、自己調整学習の指導では大切なことですね!

3 学習と人間関係の調整は互いに影響している

自己調整には、学習面の自己調整だけではなく、人間関係面(社会的関係)の自己調整もあります。
すなわち、人と協力したり助け合ったりすることにも、「調整」が必要なわけです(自分勝手な行動をしていてはだめですからね)。
そうして得た、「仲間ができた」「受け入れてもらえた」という成果が、学習成果にもプラスの影響を与えることが研究で明らかになっています。

反対に、成績が上がったり、自信や意欲が高まることで、より人と接したい、学び合いたいという意欲にもつながることも明らかになっています。

最近「協働的な学び」を推進しようというムーブメントが活発ですが、この研究をふまえると、その必要性に納得だと個人的には思いました。

4 「自己調整」→「共調整」→「社会的に共有された調整」

自己調整学習の研究はどんどん進化しており、
最近はペアで学習を調整する「共調整」や、グループで学習を調整する「社会的に共有された調整」という概念も注目されています。

これは私も勉強途中ですので、論文のリンクを貼るだけにしておきます。

以上、
「自己調整学習」=「個別学習」ではない、ということがお分かりいただけましたでしょうか。

参考文献


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