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東工大でのゼミ茶会:3Dプリンタ陶芸と茶碗とデザイン

7月30日,東京工業大学融合理工学系の院生ゼミでお茶会をしました。

「なんもできかねます」と言ってる場合ではないので,急遽スライドを作って茶碗の話を。理系の人にも興味を持ってもらえる切り口を考えつつ,依頼の通り「文系特有の混乱」へと結論を運べるように考えます。
(こんな依頼をいただき一番混乱していたのは私です)

以下,アートギャラリー所属の茶人として自己紹介した後に,茶碗の話をしました。

「茶碗の条件」

ご飯茶碗ではなく抹茶用の茶碗と言った瞬間にスピリチュアルな議論になってしまうことが多いのですが,ここではプラクティカルな話をできたらと思います。茶碗を機能面から見ていきます。(本記事では「3Dプリンタ茶碗ではない茶碗」の意でリアルうつわと言っています)

はい,当たり前のことばかり書いてありますね。
お湯を入れると茶碗が熱くなります。カバンの底鋲みたいに,底の部分に何かついていると直接熱い部分に触れなくてよいので,茶碗の底には足(高台)があります。
茶碗からお湯を捨てるときにも指を引っ掛けられる部分です。

↑3Dプリンタ茶碗にも高台を実装したことがあるのですが,これは底の大きさと安定性(あとデザイン性)の理由から高台をつけていない作品です。(茶碗の底がハート形なのでハートのマシュマロを載せています。)

これはギャラリーの店員として言ってはまずい内容ですが,これらは手で作った茶碗と3Dプリンタで作った茶碗の違いというより,デザインや形状の違いなのではないでしょうか?

従来の3Dプリンタ陶芸の開発目標

こういった茶碗の条件を一つひとつクリアしていけば,3Dプリンタ茶碗も現在ある「茶碗」に近づくはず。実際にそこを目標にしている開発や先行研究もあります。

↓3Dプリンタで茶道具を出力し,茶道の教授者が使用感をレビューする先行研究(Levy, Yamada 2017) は,まさしく今ある茶道具に3Dプリンタの道具を近づけていく流れだと思います。


日本におけるコピー文化:「写し」

お手本となる作品がまず存在し,それに近づけるという行為は,「写し」という名前で一種の文化や伝統になっています。(無理やりYouTubeで例えると,懐メロのモノマネCover動画が文化や伝統と呼ばれている感じです。)

この「写し」がなぜパクリと呼ばれないかというと,下の引用文にもあるように,「過去を継承する(そのままの形で後世に伝える)こと」が「伝統をリスペクトしていること」を意味しているからです。

この大前提が共有されている世界でなければ,写す行為はパクリだ(原作者を蔑ろにしている)と思われてしまうでしょう。

ただし,これは私のお茶に対する姿勢でもあるのですが,過去をそのままの形で後世に伝える以外にも,伝統をリスペクトする方法はあると思っています。

人文科学系と理工学系の関心が向かう先

「写し」が立派な文化として残っていると言っても,Amaz◯nにあるような写しの茶碗は本歌(=写しの元となった茶碗)とは比べ物にならない値段しかついていません。それは文化として評価されていると言えるのでしょうか。

確かに近年は日本のコピー文化として「写し」に関するシンポジウムが開催され,国内外で論文がまとめられるなど,写しに関する学術的な関心は高まっています。(末吉 2019)

とはいっても得てして,学術的な関心と商業的な関心は反比例していることが多々あります(特に人文科学系の研究の場合)。誤解を恐れず例えるなら,絶滅しそうな言語を研究対象にする感じです。
(=マスの期待や需要に応えるのとは別のところに興味関心があるという意味です。)

ここが人文科学系と理工学系で研究者の関心がねじれている部分かなと思います。


今できていないことが,できるようになること

もし3Dプリンタで名物茶碗の「写し」レベルの作品が作れたら,それは確かに3Dプリンタの技術力の証明になります。それが伝統へのリスペクトにもなる。

しかし「今できていることに別の手段で近づくこと」が技術力の発展なのではなく,「今できていないことが,できるようになることが発展」だと捉えたとき,3Dプリンタ陶芸に何ができるか? を皆さんに考えていただきたいです。

もちろん「今できていることに別の手段で近づくこと」が最先端技術である分野もあります。
「今できていないことが,できるようになることが発展」だなんて,理工学系の学生さんにとっては当たり前のことだと思います。

ただし例えば茶道界は,「今できていないことが,できるようになることが発展」という思想から一番遠いところにいます。
かつての大茶人がしていたことをこの現代で行うところに重きがあり,それが畏敬の念の表し方でもあるからです。

ではどんな開発目標を設定すべきか

これはあくまで私の仮説ですが,3Dプリンタの成果物(完成した茶碗など)の議論では,物の良し悪しの話にしかならないと思います。3Dプリンタ陶芸にしかできないことは,作陶の過程にあるのではないでしょうか。

↓まず一つ目の例として,こちらの先行研究も作陶の過程に注目したものだと思います。この論文は1997年のものですが,22年経った今,まだ一般化には至っていないようです。

↑こちらはゴーグルとグローブをつけていますが,その両方がないシステムが,こちらのバーチャルろくろです。↓

と言われても議論しにくいと思うので,たたき台としてバーチャルろくろを体験していただけたらと思います。

※バーチャルろくろとは,PC上でろくろが回せるツールです。この記事の最後にもリンクを貼りますが,詳細はこちらの記事をご参照ください。

(ということで学生さんに体験していただきました)

バーチャルろくろを例として

もともとバーチャルろくろは,陶芸をやったことのない人が作ったシステムです。
ステートメントからも分かるように「バーチャルとフィジカルを乗り越える」,画面の中と外がシームレスに繋がるモノづくりができることに主眼がありました。陶芸とは一言も言っていません。

だからこそ,重力の影響を受けずに頭でっかちの作品を作ったり,手で作ると面倒な凹凸をボタン一つで作れたり,今の陶芸でできていないことをする方向に活用していきたいです。

そのためには,陶芸や陶器というジャンルである必要もないのかもしれません。

リアルな茶道具に近づけようとする開発も,そのまま続いてほしいとも思います。
ただしバーチャルろくろに関しては,伝統に近づける以外の開発目標を設けることで,「今までできなかったことをできるようになる」方向に発展させることはできるはずです。

継承されてきた文化,及びその文化を継承していく人々と干渉し合わない形で,その開発を進めることは可能だと思います。

昔から存在したほうと存在しなかったほう,どちらか一方だけが正解だなんてことはなく,両方がそれぞれ残る形で。


以下参考文献です。


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以上のプレゼンは,昨年7月に京都のホロレンズ勉強会でお話しした内容と一部重なっています。
そのプレゼンの内容は以下の記事に書いています。途中で割愛したバーチャルろくろの説明もしております。


あと完全に余談ですが,このゼミ茶会で使った和菓子はインスタとTwitterで少しずつ紹介しています。3種類使用しました。


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